〜キャンディー〜



副都心が3時の休憩のために和光市を訪れたら、
そこには東上がいた。

休憩室の椅子に座りながらビニール袋を眺めながら微笑を浮かべている。

普段は怒っていることが多い彼にしては珍しいこともあるもんだ、
と、副都心は東上に気づかれないようにそっと背後に忍び寄った。

東上はまだ副都心の気配に気がついていないようで、
あいも変わらずビニール袋を眺めている。
その中には一体何が入っているのだろう?
副都心は首を傾げながらその中身を上から窺うのだった。

するとビニールの中には銀色のカップのようなものが入っているが、
中身はカップケーキの類でないのは直ぐに分かる。
ではなんだろう?と更に目を凝らせば、
銀色のカップには琥珀色の板のようなものがついていた。

「?????」


本当にその銀色のカップはなんなんだろう?と、
副都心はついぞ背後から声をかけるのだった。


「なんです、それ?」
「!?」


するとよほど驚いたのだろう。
東上は椅子から飛び上がらんばかりに大きく肩をゆらし、
背後の副都心に振り返ってきた。

「副都心・・・・!」
「こんにちは、東上さん」

いつものように読めない笑顔を浮かべてとりあえず挨拶をする副都心だったが、
目の前に東上の拳が飛んでくる気配を察し、ヒョイとそれを避け、東上の手首を掴む。

「避けんな!!驚かせんな!!」
「すみませんねぇ・・・、まさかそんなにビックリするとは思ってなかったんですよ」
「・・・・っ」

ふふっ、と微笑みながら副都心は東上の手首を掴んでいない方の手をテーブルに伸ばし、
さっきまで東上が見つめていたビニール袋を手に取った。

「あ!こらっ!!勝手にさわんなっ」
「別にいいじゃないですか、減るわけじゃなし・・・、
 って・・・・、東上さん・・・・」
「なんだよ!?」
「本当にこれ、なんなんですか??ゴミ??」
「はぁ!?」

ゴミッてなんだよっ、っと、掴まれていない方の手で東上は副都心の頭を叩く。

「・・・痛いなぁ」
「痛いように殴ってんだから当たり前だろ!?
 それよりゴミってなんだよ!!失礼なヤツだなっ」
「えー?そうですかぁ??だってどう見たってゴミじゃないですか?」
「ゴミじゃねーよ!」
「じゃ、なんなんです??」
「べっ甲飴に決まってんだろーが!」
「べっ甲飴?」

べっ甲飴といえば、琥珀色をした甘い飴だ。
お祭りの屋台などでは色取り取りだが、べっ甲飴といえば琥珀色だ。
副都心はふんふん、と頭を回転させて、もう一度ビニール袋の中身を見た。
すると、なるほど・・・銀色のカップの中に見えた琥珀色の板は、
べっ甲飴に見えなくもない・・・・。

「・・・今日はホワイトデーだろ?」
「・・・ああ、そういえばそうでしたね〜」

そういわれれば出掛けに有楽町や他のメトロから、
バレンタインのお返しを貰ったし、副都心も渡していた。
いわゆる『お付き合い』というヤツだ。
と、いうことは東上のソレもバレンタインのお返しなのだろうか?
自分にはチョコをくれなかったというのに、誰かにはあげたのだろうか?
フーン・・?と鼻を鳴らしながら副都心は更に突っ込んでみることにした。

「ははぁ・・?
 じゃ、東上さんはバレンタインに僕以外の誰かにチョコをあげたわけですね?」
「あ・・・・まぁ、な」
「ふーん?で、それはその時のお返しってことですよね?」
「・・・・そうなるな」
「それは一体誰なんです?」
「・・・・」
「東上さん?」
「・・・・・」

だが、東上は何も答えない。
副都心は浮かべていた薄ら笑いを消し、無言で東上を見下ろした。

「・・・誰なんです?」

手首を掴みつつ、冷たい声で覗き込むように問えば東上は何故か真っ赤になる。
この反応を見る限り、彼の心はまだ自分にあるようだ。
ではどうして教えてくれないのだろう?
よほど答えたくない相手なのだろうか?
まさか、秩鉄とか??
もしそうならばどうやってお仕置きをしようか、と、
副都心は手首を掴んだまま無言で見つめ続けていたら、
東上は諦めたようにため息を吐いて話し始める。

「・・・越生」
「え?」
「だから越生だよ!!お前に以外にチョコを贈った相手!」
「・・・・・!」
「お前と付き合う前からの風習なんだ!いきなり止める訳にはいかないだろっ」
「・・・・まぁ、そうですよね」

そうでなくとも一緒に住んでいるのだから、
あげないわけにはいかないだろう。
副都心はフッとここをが軽くなるのを感じた。
・・・秩鉄でなくて良かった、と安心している自分に驚きつつも、
それは顔に出さずに東上の話の続きを聞くのだった。

「『俺はキャンディーは買えないから』って・・、毎年コレなんだ」
「・・・・コレってこのべっ甲飴もどきですか?」
「!!もどきって失礼なヤツだな!立派なべっ甲飴だぞ!」
「えー?そうですかぁ?どの辺が??
 と、いうかこれはどうやって作ったんです???」
「・・・・・水と砂糖とフライパンがあれば作れんだろ?」
「水と砂糖とフライパン!?」
「アルミカップに砂糖と水を入れてフライパンでとろ火で焼くんだよ。
 すると水分が蒸発してこんな琥珀色の板になる・・・。
 越生が一人でやると危ないからいつも八高に見て貰ってるみたいだけど・・」
「・・・科学の実験みたいですね」
「実際に科学の時間にやる実験の一つだしな」
「・・・・!!な、なるほど・・・・」

それにしたってホワイトデーにこれはないだろう、と、
副都心は思わずにいられない。
自分だって新線のころは持ちあわせが少なく苦労したが、
それでももっといいものを贈っていた。

すると副都心の考えは顔に出ていたのか、
東上は苦笑しながら掴まれていない手で、
副都心が持っているビニール袋からアルミカップを一つ取った。
そして器用に口と片手でアルミを剥いでいく。

「確かにメトロ様からみたらみすぼらしいかもだけどさ、
 贈り物って結局は贈ってくれる気持ちが嬉しいもんだろ?
 俺は越生がいつも苦労しながら作ってくれたコレが、
 どんな高級な飴より美味いんだよ・・・、それでいいじゃねーか・・」
「・・・確かに貴方がいいなら良いんですけど・・んぐ??」

その時、副都心の口の中に甘さと苦味と鉄の味が広がった。
どうやら東上が剥き終えたべっ甲飴を口の中に押し込んできたようだ。

甘さは砂糖の甘さ、
苦味は砂糖が焦げた苦味、
そして鉄の味はアルミの味。

「・・・美味いだろ?」

東上が照れ笑いを浮かべながら感想を聞いてくる。
シャリシャリと口の中の飴を噛みながら、
ちっとも美味しくなんかない、と、つい悪態をついてしまう。
すると東上が困ったような顔で笑うのが分かった。
その顔を見て心の奥がズンと重くなる。

副都心はわかっている。
これは越生に対する焼餅だ。
自分があまり見ることの出来ない笑顔を越生はいつも簡単に見ることが出来る。
東上を喜ばす事だって出来るし・・・・。
副都心は掴んでいた手首を思いっきり引っ張り東上を抱きしめると、
そのまま顎に手をかけて上を向かせ東上の唇を塞いだ。

「・・・・・!!んぅ・・・っ」

東上の身体が大きく震える。
あんなに何度も一つになっているというのに、
彼はいまだにこの行為になれない。
初々しいのは良いけれど、いい加減傷もつくというものだ。
ため息をつきたいのを我慢して、
薄目をあけて東上の様子を窺えば、
彼は頬を桃色に染めてキスに応えている。
いや・・・・。

「・・・(あれ?)」

その時、副都心はあることに気がついた。
そして東上の中に入れていた舌をそっと自分の口の中に引き戻せば、
後を追うように今度は東上の舌が副都心の口の中にもぐりこみ、
濡れた音を立てて唇が深く合わさっていく。

「・・・(ああ、なんだ・・・、心配することはなかったんだ)」

副都心は再び目を閉じて、初めての受身のキスを堪能するのだった。
やがて息が苦しくなってきたのか、
東上の唇がゆっくり離れていく気配が分かったので、
副都心は目を開けて離れゆく東上の唇を一度だけ音を立てて吸い上げた。

「!!」

東上は真っ赤になりながら副都心を睨みつけるが、
副都心は悪びれた様子もなく、
ビニール袋からもう一つべっ甲飴を取り出して東上の口の中に放り込む。
東上はシャリシャリと音を立てて飴を噛みながら、
嬉しそうに笑っている副都心に向かって一言言うのだった。


「・・・・ガキ」


ネクタイを引っ張られ、もう一度唇が重なる。
粉々に砕けた甘く苦い飴が口の中に広がり、
副都心はテーブルの上に東上を押し倒す。




「・・・・いいですよね?」
「・・・・・っ」
「だって貴方から誘ってきたんですよ?」



つなぎに手をかけ、首筋に唇を寄せる。
東上の身体が一度だけ大きく震えたが、
やがて身体から力を抜くのが分かったので、
副都心はクスクス笑いながら東上の顔中に唇を寄せた。


「・・・甘い・・・、飴みたいだ」
「・・・・んなわけ・・っ・・・ねーだろっ」
「そんなわけありますよ。
 だって今日一日は東上さんは僕だけの飴ですから」
「うっわ!気持ち・・・悪い・・こと、
 ・・・言ってんじゃ・・・ね・・・」
「いいんですよ。
 こういうことを言えるのは僕だけの特権ですから!
 ・・・越生さんも言えない僕だけの、ね・・・」
「・・・・・っ」




副都心の腕が東上の身体に回る。
東上の腕も副都心の背中に回る。

熱い中を穿ちながら、何度も一つになって、
やがて限界を迎えた東上に何度も許しを請われたけれど、
何故か今日だけは自分の欲望を止められなかった。
どうしても今日は東上をとことん苛めてやりたかったのだ。


そして最後、極めて気を失う寸前の東上に、



『越生に焼餅焼いてんじゃねーよっ』



というふうに言われた気がしたけど、
さすがにこれ以上、苛めたら、
しばらく口を聞いてくれなくなりそうなので止めておいた。



有難う御座いました。 この二人はなぜか無性に書きなぐりたくなる時があります(笑) 他のサイトでもあまり見かけることがないから、飢えてしまうのでしょうか? そんな私も最近は西武池袋相手の話が多いんですけどね! でも副都心×東上も好物ですよ。 未曾有の大震災から明日で1年。 それにちなんだお話を書こうとしましたが、不謹慎なのでやめました。 かわりに季節のお話(?)にしてみたんです。 ・・・そんな私は最近、ドラクエVに嵌ってます(今更・・?) 今、天空城のあたりです。 がんばります!! 2012/3/10 戻る