正月といえば御節。。
JRのお正月の御節はどれも豪勢だけど、
豪勢すぎると逆に飽きるのも早い。
御節に入っていた伊勢海老やアワビは美味しかったが、
何かが物足りない。
工場で大量生産したものではなく、
もっと家庭的で温かいものが食べたいな〜、と
JR武蔵野線は寒い中、いつもの足取りである場所へと向うのだった。



〜2012年の正月〜


「とぉ〜じょ〜!!」

ドンドン、と遠慮無しに玄関を叩けば、
しばらくして不機嫌そうな顔が僅かに開かれた玄関の隙間から迎えてくれる。

「・・・何か用か?」

不機嫌そうなその声も新年早々、いつも通りだった。
けれど武蔵野はそんな東上の様子など気もせず、
いつも通りの無遠慮さを発揮する。

「なんか食わせて!」
「・・・・・」

けど、当然だが東上からの返事はない。
東上は、それで?と言う目を武蔵野に向けてくる。
東上宅に入る条件、それは『お土産』であり、
尚且つ『実用的』なものでなければならないのだ。

「ほら!これお土産ね!小豆と酒かす、それからあまりモンだけど切り餅!」
「・・・・正月っぽいな」
「でしょ!まぁ、俺がお汁粉とか、甘酒とか?
 あと雑煮とか食べたいってのもあるんだけどね」
「・・・・まぁ、合格だな。
 お前が食べたいから持ってきた、ってのはひっかかるけど」
「いーじゃん、いーじゃん!細かいことは気にすんなよ!」

武蔵野がいつもの如く、やる気のないような口調でいえば、
東上はどこか呆れたような、けど少しだけ笑ってくれたので、
どうやら第一段階は成功したのだと心の中でガッツポーズをとる。
そして程なくして玄関が開かれ、東上宅の中へ足を踏み入れた時、
妙に静かなことに気がついた。

「・・・・あれ?なんか静かじゃね?」
「・・・あー・・・」

東上は武蔵野から貰ったビニール袋を机の上に置きつつ、
小さな声でいつもより静かである答えを教えてくれた。

「越生が八高のとこ遊びに行ってるからだろ?」
「・・・なるほどね」
「多分明日まで帰ってこない」
「ふぅん?」
「まぁ、俺はその方が助かるけど」
「・・・へ?」

なんで?という疑問が武蔵野の頭に瞬時に過ぎる。
東上にとって越生は家族というか、それ以上の存在であるだろうに、
なぜ『いない』ほうが『助かる』のか?
武蔵野の疑問は顔に出ていたのか、
東上は苦笑しながら畳の上を指差した。

「忙しくてさ、まだ約束していた『凧』を作れてないんだよ。
 八高のとこに遊びに行っている間に作れるだろ?」
「あー・・・、なるほど・・・凧、ね」

そういえば東上はいつも凧を手作りして越生に渡しているのを思い出した。
しかもご丁寧に本線の子供の分まで作っているのだ。
なぜ、武蔵野がそれを知っているのかといえば、
いつも伊勢崎に届けているのが武蔵野だからに他ならない。
そのお礼なのかどうかは知らないが、
伊勢崎からは手作りのうどんを東上に渡して欲しいと頼まれる。
伊勢崎のバカ力で作られたうどんはコシがあって美味しいのだ。
なぜ、武蔵野がそんなことを知っているのかといえば、
これまた東上にうどんを届けると一緒にご相伴に預かれるわけで・・・。

「(ほんと、めんどくさい連中だよな〜。
 気になるならお互いに行き来すればいいのに・・・)」

お互いに意固地だからなかなか前に進めないのか。
でも、それでも大分、東武本線と東上本線は歩み寄ってきてはいるのだ。
駅の色々なものが統一され始めたし、
東上せんからスペーシアの切符も買えたりする。

・・・着実に歩み寄り始めている。
そうしたら離れている宿舎も一緒になて、
武蔵野が遊びにくることは早々出来なくなるかもしれない。
そうなったら・・・・。

「・・・武蔵野?」

急に黙ってしまった武蔵野を東上は訝しげにその顔を覗き込んだ。

「腹でも減ってんのか?」

腹はそんなに減っていない。
けど、別の意味では減っている。

「(年末年始は忙しかったしな〜。
 まぁ、ご無沙汰といえばご無沙汰だけど・・・・)」

でも2012年に副都心が東急と繋がって、
中目黒で東武同士が顔合わせをするようになったら、何かが変わってしまう気がする。
東上は武蔵野のことなどどうでもよくなってしまうかもしれない。
そう思うと、そんなことはないとわかっていても、
どこか寂しいものを感じてしまう。

「・・・武蔵野?どうし・・・・!!?」

武蔵野の額を触ろうとしていた東上の手をとり、
勢いのまま畳の上に押し倒した。
軟弱であっても一応は天下のJR。
相手が油断していれば尚のことお茶の子さいさいの行動で、
案の定、東上を組み敷くことに成功する。
半開きになっている唇に噛み付くようにキスをし、
思う様貪りながら、東上のつなぎに手をかけた。
武蔵野の手は思った以上に冷たかったのか、
東上の身体がビクリと跳ねる。

「ふぅ・・?!んーーー!!」

息苦しさに武蔵野を跳ね除けようと、
武蔵野の肩を押すが、一瞬ぐらついただけで跳ね除けられない。
武蔵野がすでに際どい部分に手をかけてきているため、
いつもの力の半分も出せていないのだから当然だ。

「・・・っ・・、む・・さ・・しの!」
「んー?」

長いキスを終え、なに?と聞きつつ、武蔵野は東上の首筋に唇を寄せる。
その間も東上の下半身に手を伸ばし、その性器を執拗に指を絡めた。

「ふ・・・ん・・・んー!!」

身体を捩り逃げようするが、
武蔵野の指が今度はお尻の間をなぞり、
そこに息づいている入口に入り込んでくるものだからできない。
背中は仰け反り、武蔵野に抱きつくことでその感触に耐えるしかない。

「ちょ・・・ま・・、まだ・・早い・・」
「そぉ?でもちゃんと飲み込んでるぜ?」

ほら、と言う様に指が中で一回りし、東上はより武蔵野に抱きついた。

「東上もご無沙汰だったんだ?
 自分で抜いたりとかしないもんな、お前。
 でもこのままだとさ、指だけでイっちゃいそうだし、
 それじゃつまんないよな?」
「な、な、なに・・言って・・・」

真っ赤になった東上の顔の、
いつもは皺しか寄らない眉間に唇を落とす。
そして手を伸ばし、畳の上に転がっていたあるものを手に取った。

「ココ、凧糸で縛っとく?」
「・・・・、は?」

何を言ってんだ?縛るって・・・、と
そこで東上の思考が完全にSTOPした。
武蔵野のいうココが性器の根元だったからだ。
そんな場所を縛られたら・・・・、と東上は蒼白になる。

「おま・・・お前!!俺はそーゆープレイに興味ねーよ!!」
「えー?そーゆープレイって?」
「だ、だから!!縛るとか!!俺はSMには興味ねー!!」
「・・・これくらいじゃSMにならないだろ?
 むしろイきすぎたら東上が辛いだろうから、縛るわけだし?」
「な・・な・・なっ・・・」
「俺さ、今、ちょー東上が不足してんの!
 だからめちゃくちゃヤりたいんだよね〜」
「!?」
「感じまくって乱れまくる東上も見たいし?」
「・・・・っ」
「まぁ、姫初めにはちょっと遅いけど、
 越生も居ないわけだし、たまには羽目を外すのもいいんじゃね?」
「・・・・・」
「凧みたいに両手両足広げて、さ」
「・・・・・・な」
「ん?」
「縛るのはナシだかんな。それに俺は体力には自信がある。
 何回極めようが問題ねーよ!」
「えー?」

真っ赤な顔で武蔵野のハメを外す、という提案には賛成なのか武蔵野に抱きつく力が強まる、
が、『縛る』は断固として拒否らしい。
少し残念だけど、ま、いっか、と武蔵野も同じように東上を抱きしめるのだった。









〜おまけ〜


「げっ!にっこー!!?」
「・・・!越生?なんでお前がココに・・?」
「うるせーな!凧を届けにきたんだよっ」
「たこぉ?・・・ああ、毎年恒例のあの凧か」
「いつもみたいに武蔵野に頼もうとしたらアイツなんでかゲッソリしててさ!」
「・・・ふーん?」
「腰が痛いから歩けないってんだよ!
 で、東上が来ようとしたんだけど、
 武蔵野が『薄情モノ〜』って叫んでるから俺がかわりに来た。」
「・・・薄情?なんだ、そりゃ?」
「さぁー?でも東上が・・・」
「?」
「『なんで俺よりお前の方がへばってんだよ?』って言ってた」
「・・・・・・」
「『お前、3回だろ?俺は5回だぞ?』とか・・・」
「・・・!」
「3回とか5回とかなんなんだろうな?
 あいつら新年早々なにして遊んだんだろ??」
「・・・・まぁ、JRは体力がねーかんな・・・」
「あ?体力?」
「なんでもねーよ!」
「むっ!なんでいきなり怒鳴るんだよ!?だから本線は気にくわねーんだ!」
「はっ!そいつは気が合うな。俺だってお前らのことなんざ・・・、!」
「???なんだよ?何急に黙って・・・・、あ」
「にっこ〜?」
「・・・・い、伊勢崎・・・」
「なに、子供を虐めてんのかな?」
「・・・・あ、・・いや・・・その・・・」
「ん?」
「・・・お、俺は・・苛めてねーよ!!
 ただ・・・その!そう!会話を愉しんでただけだ!」
「本当に?」
「本当だ!現にこれからこのガキと凧あげをする約束だしな!」
「は?何言ってんだ、お前。俺はもう帰・・・」
「そうなんだ?じゃ、越生もお雑煮食べてく?」
「おう!このガキにも食わせてやってくれ!」
「は?だから俺は帰・・・」
「うん、了解!鬼怒川に伝えておくね」
「や、だから俺は帰・・・」
「よし!越生!伊勢崎にも報告したし凧あげに行くぞ!」
「はぁ?!俺は帰・・・・」
「いってらっしゃーい!気をつけてね!」










「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・、おい、クソガキ」
「俺はガキじゃねーよ!」
「ガキはガキじゃねーか!ま、いーや」
「よくねーよ!」
「いつまでも気にしてると余計にガキだぜ?」
「!!・・・・・っ」
「ふん。で、ガキ」
「だからガキじゃねー、俺には越生って名前もあるし」
「・・・じゃ、越生」
「なんだよ?」
「もっと楽しそうな顔しろよ。そんな顔してると伊勢崎の鉄拳が俺に飛んでくる」
「んなのしらねーよ!俺は無理やりお前につき合わされ・・・、あ」
「?なんだよ?」
「そういえば・・・」
「あん?」
「東上からこの凧を受け取るときにさ」
「?」
「東上、なんでか顔が真っ赤だったんだよな〜」
「へー?」
「それを見ていた武蔵野がなんでかニヤニヤ笑ってるし」
「ふーん?・・・別に凧にはおかしな文字なんざかかれてねーけどな?」
「だろ?『謹賀新年 東武鉄道』しかかかれてねーし。あ、でも」
「?」
「・・・東上、凧じゃなくて凧糸見て真っ赤だった気が・・・」
「・・・凧糸ぉ??なんだよ、それ」
「さぁ?」
「・・・それで?そん時の二人の会話は?」
「・・・・確か・・・『なんであんな場所縛るんだよ!』って言ってた気が・・」
「あんな場所?ってどんな場所だ?」
「さぁ?でもその後に・・『東上、早いんだもん』とか、『お前が遅いんだろ』とか」
「・・・・・!」
「『でも確かに縛る必要なかったかも?東上、元気だし?』とか」
「・・・新年早々、お盛んなこった」
「・・・は?お盛ん??」
「俺から見たらうらやましい話だってことだ!」
「・・・ますます意味がわかんねーぞ??」
「にっこ〜!おごせ〜」
「お、大師だ」
「・・・またガキが一人増えるのかよ」
「大師もいっしょに凧さんあげていい?」
「もちろんだぜ、にっこー」
「あー?」
「大師もあげたいんだってさ、手伝ってやってくれよ。
 俺は自分の凧を離せねーし」
「・・・・はぁ、凧くらい一人で上げられるようになれよな・・」
「子供にゃ、無理な話だぞ」
「こんなときだけ子供かよ。
 ・・・へいへい。ほら、よこしな」
「わーい!あ、そういえば、とーじょーもきたよ!」
「東上きたんか?」
「うん!」
「・・・武蔵野はどうしたんだ?」
「俺が知るかよ(おおかた、口げんかでもして置いてきたんだろ。
 ま、いいや。からかうネタも手に入れたし)」
「にっこー、悪い顔してるー」
「本当だ!何考えてやがんだ??」
「はっ、そりゃ内緒ってヤツだ!
 ホラ大師!行くぞ、走れ!」
「わーい!!」
「あ、にっこー!逃げたな!!」

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