災い転じてなんとやら・・・、
何がどうなってこうなったのか・・・・・?
床の上で、どこかから持ってきたらしい毛布に包まりながら東上は
思いのほか逞しい体をした有楽町に抱きしめられながらボーゼンとしていた。
一枚の毛布にいい大人の男が二人、裸で包まっている。
ああ、本当にどうしてこんなことになったのか・・・?
東上はコトの最中よりも頭をグルグルさせて考えるのだった。
〜災い転じて・・・?前編〜
自分よりも小さな手が胸を這い回り、
腰を這い回り、太ももを這いまわり、ふくらはぎを這い回っている。
それでも納得がいかないのか、
今度はパンパンと体中をたたきながら足から上半身へとその手は移動してきた。
「・・・あ、あの〜??東上??」
さっきから、というか池袋で出会った瞬間に体中を弄られている有楽町は困惑していた。
まるで犯罪者が身体検査を受けているような按配だ。
一体彼は何がしたいのだろう??
と、いうかあんまり身体を触られるとイケナイ気分になるんですけど?などと思ってる間も、
東上の手は相変らず体中を弄っているが、
もう一度胸をバンっと叩くと小さな声で「何で?」と言っていた。
「は?」
何が何で?なのか???有楽町はサッパリ分からない。
すると東上は何かを思いついたのか、一瞬だけ頬に赤みをさすと、
今度は有楽町の腕を持ち上げ半袖のワイシャツの隙間から中をのぞきだし始めた。
「・・・・っ、えぇぇぇぇぇぇっ!!???」
だから一体何がしたいんだ、お前は!という言葉も驚きのあまり飲み込んでしまう。
しかも東上ときたら有楽町の脇をジー・・と見ながら、
「・・・・あ、ここも金髪なのか・・・」
と、本当にボソリと言うものだから有楽町はボッと顔を赤く染めた。
それでなくとも改札の前で行われているこの行動は人目を引き、さっきから注目の的なのだ。
いいかげんにこの羞恥プレイから開放されたい、と無駄と思いつつ有楽町は東上に声をかけようとしたが、
東上の次なる奇行にこのまま大人しくしたがっているわけには行かない、と、
自分の身体を弄繰り回している東上の腕を掴みメトロの休憩室に強制連行するのだった。
メトロの休憩室に着くやいなや東上は不機嫌そうな目で有楽町を睨みつけてきた。
「何だよっ!人が探し物してる時に!」
「は?探し物???」
よくわけの分からない理由に有楽町はガックリ肩を落す。
「探しものって、お前は!!俺の身体に忘れ物でもしたって言うのか!?」
そんなバカな!と、いうかそんな理由で自分はあの羞恥プレイに耐えていたというのだろうか?
と、有楽町は益々肩を落としたが、東上が目をパチクリさせた後、
哀れみを込めた声で、
「・・・何言ってんだ?お前。頭、大丈夫か??」
と、言うものだから有楽町はなんだか怒りを覚えてしまう。
けれどここは冷静に、大人な対応をしなければならない。
相手は短気で尚且つ泣き虫・・・とまでは言わないがよく目に涙を溜めている路線なのだ。
目に涙を溜めて怒っている姿は可愛いと実は密かに思っているのだけれども、
その後にはとんでもない災厄が起こることも知っている。
つまりここで言い返したりしたら目に涙をためた彼に理不尽な制裁を受けてしまうかもしれない。
それは勘弁願いたかった。
有楽町はスゥ・・・と大きく息を吸い込み、ハァ・・・と吐き出すと、
ニッコリ笑って大人な対応を始めるのだった。
「あのさ、東上」
「何だよ」
「東上さ、俺に会った瞬間に体中触り始めただろ?」
「・・・・・ああ、そうだな」
有楽町はまるで子供に言い聞かせるかのように1から会話を始めることにした。
相手はあの東上だ。
焦りは禁物。
ここはゆっくり、ゆっくり話を進めていこう。
「で、その後に・・・その・・・俺のYシャツの隙間から脇を覗いてただろ?」
「ああ、覗いた。・・・・お前ってワキも金髪なんだな〜」
「・・・・・っ!!!」
まるで珍しいものを発見した子供のようにニッコリ笑う東上に、有楽町は突っ込みどころを失う。
耳まで真っ赤にしながらゴホン、と咳払いをして話を進めていった。
「で、そのあとに俺のベルトを外そうとしただろ?」
「・・・・・まぁ、な。ひょっとしたらそこにあるのかもしれないし」
うん、と大きく頷く東上に有楽町は大きな声で「それだよ!」と叫ぶ。
急に叫んだ有楽町に東上は「へ?」と間抜けな声で「何が?」と首を傾げるものだから、
ガックリと有楽町は肩を落すしかない。
ああ、そうだった。
東上はたまぁ〜に周りが見えなくなるのだった・・・夢中になると。
「あのさ、東上。」
「?」
「あんな公衆の面前でベルト外されたら俺、恥ずかしいんだけど?」
「・・・・・あ!」
そこまで言われてようやく東上は自分がメトロの休憩室に連行された理由に気がついてくれたようだった。
彼にしては珍しく照れ笑いを浮かべ「すまん」と頭を下げてくれる。
「確かにあんな場所でズボンを脱ぐのは恥ずかしいよな。
でもここなら誰もいないし、連れてきたわけか!
やっぱお前は気が効くなー。さすが数々の苦難を乗り越えてきただけあるな!」
「・・・・それはどーも・・・・、ん?って・・・あれ??」
その「苦難」の一つが貴方なんですが?とは口が裂けてもいえない不憫な有楽町。
と、いうかその前に東上の口からなんだかとんでもないことを言われたような気がして、
何かを言う前にそのことで頭がショートしてしまいそうになったからだろう。
「わ、うわぁぁぁぁ!!なにしてんだよ!?」
「・・・はぁ?何って探し物だよ!」
有楽町がちょっとすきを見せた間に、
なんと東上は有楽町のズボンに手をかけジッパーを下ろしていたのだ。
そうだ、東上はさっき『ここなら誰もいないし、連れてきたわけか』と言っていた。
つまり有楽町がココでなら脱いでもいい(とは一言も言ってないが)と解釈し、脱がせ始めたようだ。
「だから!探しものってなんなんだよ!!!」
脱がされてなるものか!と必死でズボンを死守していると、
不機嫌そうな東上も負けじと下に下ろそうとしている。
「いいから黙って脱げ!あと残るのはその場所だけなんだからな!そこにあるんだろ!?」
「・・・脱いでたまるか!てか、あるって??何があるって言うんだよ!?」
「そんなの決まってるだろーが!パレオ君だよ!」
「は!?」
・・・・・パレオ君????
「・・・一体何のはなし・・・って、うわぁぁぁぁぁっ!!!」
あまりの衝撃の一言に唖然としていたのがよくなかった。
油断していたすきにズボンは膝丈まで下ろされ、今度は下着にまで魔の手が伸びてきた。
「・・・・・っ!!(冗談じゃねーよ!)ま、待てって!東上!!」
けれど有楽町が慌てれば慌てるほど東上はニンマリと微笑むのだ。
「・・・そんなに慌ててるってコトはやっぱココが隠し場所か?」
「ち、違う!!そうじゃない!慌ててるのは脱がされたくないからだって分かれよ!?」
下着のゴムに手をかける東上の手を上から押さえながら有楽町は必死に叫んだ。
何が悲しくて生まれたままの姿を見せなければならないのか。
というか、どうしてこの場所にパレオ君がいると思うのか、
有楽町は最早頭がパンクしそうだった。
とにかく止めさせなければ!
有楽町は東上の手首を掴み、火事場の底力ばりにそのまま後ろに捻り上げ、
東上の足に足をかけそのままバタンッと床に押し倒して東上の動きを封じ込めることに成功する。
「痛っ!!!」
押し倒した瞬間、休憩室には東上の悲痛な叫び声が響いた。
有楽町も慌てていた為に頭を庇ってやるヒマがなかったので、
東上はしたたかに頭を打ち付けてしまったようだ。
「あ!ごめん!大丈夫か??」
東上の両手を自分の両手で拘束したまま覗き込むように様子を伺う。
薄っすらと目をあけた東上の目には頭を打った為だろうか、溢れんばかりに涙が浮かんでいる。
「・・・・てめぇ・・・、よくも!」
「だからゴメンって!でも東上も悪いんだぞ〜?いきなり下着を脱がせようとするから」
よほど痛かったのか、それとも目的を成し遂げられなくて悔しいのか、
東上は闇雲に暴れるが有楽町も再び起こりうる危機を避ける為、
決して東上の両手首を開放しようとはしなかった。
「放せ!!このっ!!放せってば!!何で営団の癖にこんな力が・・・!!」
「営団じゃなくてメトロ!って、今はそうじゃなくて、東上?」
「何だよ!?」
「大人しくするなら手首を離すからさ、大人しくするって約束してくれない?」
「・・・・お前が大人しく下着を脱げば俺だって大人しくする!」
「・・・・・・っ」
だから何で俺が下着を脱がなければいけないんだ!と怒鳴りたい気持ちを必死に飲み込んだ。
可愛さ余って憎さ100倍・・・とまではいかないが、聞き分けのない子供のような東上に、
『大人しくしないと犯すぞ?』と普段の有楽町からは考えられないような凶悪な考えが浮かんだが、
その考えは普段の真面目な自制心で何とか押さえると、
かわりと言ってはなんだが東上の手首をつかむ力を少しだけ強めてみる。
「・・・!!いたっ!いてーよ!有楽町!!」
「・・・・大人しくする?」
ニッコリとけれども有無を言わさぬ迫力で威圧的に言えば、
東上は青い顔でコクコク頷くのだった。
有楽町が掴んでいる手首はブルブル震えており、
少し脅しすぎたか、と小さなため息の後に手首を放せば東上はホッとした様子で起き上がった。
有楽町も起き上がりとりあえず脱がされたズボンを履き、ベルトを締めた。
東上は相変らず床にへたり込んでボー・・・としているので、
有楽町は休憩室にある自販機で冷たいお茶を買うと東上の頬にその缶を近づけるのだった。
「うひゃっ!!」
頬に触れた冷たさに驚いたのか、我を取り戻した東上が怯えた目で有楽町を見上げた。
所在なさげに目線をウロウロ動かし、缶を受け取るかどうか迷っているようだ。
ああ、これは本当に脅かしすぎたようだ、
と、有楽町が苦笑しながらへたり込んでいる東上の横に腰を下ろすと、
「ゴメン」と呟きながら缶を東上の目の前に差し出す。
東上は震える手でソレを受け取り、小さく頷くとボソボソ何かを喋りだした。
「前に、さ」
「うん?」
自分用に買ったお茶のプルたぶを外しながら有楽町は優しい声で返事をする。
すると東上はいつもの有楽町に安心したように息をつくと、
自分もプルたぶに手をかけながら話を続けた。
「副都心の開業前に俺が駄々を捏ねてさ、その時お前くれただろ・・・」
「(ダダを捏ねている自覚はあったのか・・・)・・・くれた???」
一体なにをあげただろうか???
有楽町が首を傾げれば、拗ねたような東上が口を尖らせながら、
「・・・・パレオ君」
と、小さな声で言ったので、ああ、と有楽町は納得した。
確かにグズる彼を宥める為に人形を差し出した。
「あの時のお前さ、どこからともなく出してきただろ?どこにも持ってなかったのに」
「・・・・・・・・そうだった?」
「うん。だからずっと不思議だったんだよ。どこに持ってたのかっって・・・。
手に持ってないなら服の下だろうから最初は身体を触って確かめたんだ。
でも分からなかったから・・・その・・・直接見ればいいんだって思って・・・」
「・・・成る程・・・それであの奇行か・・・・」
「・・・うっ・・・」
缶を握り締めたまま東上は真っ赤な顔で「ゴメン」と謝るのだった。
「・・・俺が・・その・・・悪かったよ。あんな公衆の面前で・・・。
てか、恋人でもないヤツに・・・その・・・下着の中身なんか見られたくねーな・・・。
俺、頭に血が上ったりすると周りが見えなくなるっていうか・・・本当に・・・その・・」
真っ赤な顔をしながら下に俯き、
言いにくいのか身体をモジモジさせさせている東上に有楽町はため小さな息をついた。
無自覚の色気・・・とでも言えば良いのか・・・、
真面目がモットーの有楽町でも自制心が崩れてしまいそうだ。
「(・・・東上、それ反則だよ・・・)」
「・・・だ、だから・・・その・・・ゴ、ゴメン・・・な?」
「うん・・・」
有楽町はゆっくり腰を上げ東上に少しだけ近寄る。
「その・・・許してくれる、か・・・?」
「・・・・ああ」
手に持っていたお茶の缶を床に置き、さらに東上に近づく。
「本当、か?」
「うん、本当」
有楽町のお許しにパッと顔を上げれば何故かものすごく近くにある彼の顔。
「????ゆうらくちょう・・・????」
「なぁ、東上」
「・・・な、なんだよ・・・てか近いんだけど・・・?」
「まだ気になる?」
「・・・・な、何が・・??」
「パレオ君」
「・・・・!!そ、それは・・・、でも・・・もー、いい・・。
だってお前・・・その・・・こ、怖かったし・・・、力も強くてビックリしたし・・・」
「そんなにビックリした?」
限りなく距離を詰めると、東上の手から缶を奪い取り床に置くとより東上に近寄った。
「・・・ビックリした?東上?」
「・・・あ・・・お・・・・う、・・・うん・・・驚いた・・・。
地下鉄は・・・地下ばかり走ってるからもやしなイメージが・・・」
「・・・・青いコートの連中あたりで聞いた台詞だな」
「青いコート?、・・・西武?」
西武の名前を聞いた途端不機嫌そうにあがる眉毛。
本当に東上は分かりやすい。
それに可愛いし・・・・、有楽町の力に怯えて震えたり、
モジモジしながら謝る姿などは、
普段の彼とギャップがありすぎで可愛かった。
・・・・泣かせたらどんな顔をするのか、
そう思うと有楽町は普段では考えられないほど積極的になっていた。
と、いうか今まで溜めていたものが爆破した・・・のかもしれない。
「東上」
「・・・何だよ?」
「どこにパレオ君を隠してるのか確かめてみる?」
「・・・・へ?」
意味が分からず、目で問えば有楽町がゆっくりと体重を前にかけてきた。
「うわわっ!!」
今度は有楽町の手が頭を抱えていてくれたので打つことはなかったが、
再び東上は床に押し倒されたので有楽町を見上げる形となっていた。
「恋人になら下着の中身見られてもいいからさ・・・、意味、わかる?」
「へ?下着のなか・・み・・・って・・・、!!!」
東上が全身を瞬く間に朱色に染めるのを見ながら東上の頬に手を添える。
頬に触れた温もりに驚き、見上げれば真剣な目をした有楽町がいて東上はギクッとした。
「!!!(なんか雲行きが・・)・・・あー・・、いや・・その・・遠慮・・」
なんとか断って逃げなければと、思うが、
全てを言い終える前に有楽町が悪戯っぽく微笑みながら言葉を遮ってきた。
「ブー!時間切れ!じゃ、確かめさせてあげよーかな?」
「!!お、俺はまだ何も言ってねーよ!!ま、待てって・・!っ、んぅ・・・・、
・・・は・・・ぁっ・・、ゆうらく・・・待っ・・・俺、は・・そんなつもり・・・!!」
「そんなつもり、あったんだろ?・・・俺の体触ってきたし、脱がせようとしてたし?」
「い、いやさ・・だから、それ、は・・・、
わっ、わわわっ・・・待てってば!んう、んぅーーーー!!」
暴れても暴れても自分より体格のいい体は押しのけられず、
唇を塞がれ息が苦しい。
普段は周りとの「協調」を大事にする真面目なヤツで、つまりただの八方美人だと思っていたのに、
まさかそれがこんなに強引な一部を持ち合わせていたとは思わず・・、
いや、でも、有楽町の身体を触っている時も嫌悪感はなかったし、
下を見ようとしたときも嫌悪感はなかったし、
それってやっぱり自分は有楽町を・・・?
と、頭をグルグルさせながら有楽町に翻弄される登場は思いのほか優柔不断であったようだった。
災い転じてなんとやら・・・、
何がどうなってこうなったのか・・・・・?
床の上で、あのパレオ君同様に有楽町がどこかから持ってきた毛布に包まりながら、
東上は思いのほか逞しい体をした有楽町に抱きしめられながらボーゼンとしていた。
一枚の毛布にいい大人の男が二人、裸で包まっている。
ああ、本当にどうしてこんなことになったのか・・・?
それは東上のたまに周りが見えなくなって暴走してしまう性格が引き起こしたのかもしれない、
などと東上は思考をグルグルさせながら、
頭をなでてくる有楽町の温もりにとりあえず身を寄せたまま考え続けるのだった。
有難う御座いました。
何気に後編とかあったりします。
そのうち忘れた頃にUPされている・・・・はず・・・・。
2010/10/10
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