〜母の日〜
引き戸をおもいっきり開けて、
お土産のコンビニ袋を片手に武蔵野は無遠慮に東上線宅にあがりこんだ。
「とーじょー!」
ドタバタと駆け上がり、目的の人物を見つけるとにんまり笑った。
東上はなにやら作業をしているようだ。
「なんだ〜、いるんじゃん?居るなら返事くらいしろよな〜」
よっと、と言いながらちゃっかり東上の横に腰を下ろす。
東上は勝手に上がりこんできた武蔵野を一度だけ見ると、
するぐまた作業に戻ってしまった。
「えー?無視はよくなくね?
あ、ひょっとしてお土産がないから怒ってるとか??
ほら、ほらほらほら!これ、お土産!
今回は・・・・・・、あれ?」
その時、武蔵野はあることに気がついた。
手元でなにやらごそごそしているから、
てっきり繕い物でもしているかと思ったのだが、
どうやら赤い花に何かを施しているようだった。
・・・赤い花を手元でゴソゴソやる東上・・・・。
武蔵野にはなんだかそれが内職のように見えて仕方がない。
「(あらら?東武ってついにはそこまで貧困?)」
スカイツリーの祟りかぁ?
などと思ったが、東上が手元で弄っている花が内職の定番「バラ」ではなく、
カーネーションであることに気がついて、口にするのを止めた。
「・・・それ、カーネーションだろ?」
武蔵野が東上の手元を覗き込みながら確認するように言う。
それに対し東上は小さく「ああ」と答えた。
「・・・今日は・・・母の日、だから・・・」
小さな、小さな、東上の声、
武蔵野もそれにあわせるように小さく答える。
「・・・なるほどねぇ。あのガキからの贈り物か?」
「まぁ、そんなとこ。たった1本だけど、嬉しいもんだろ?」
「・・・母の日でか?」
東上は男だから父の日が良いんじゃん?と、
何年か前に武蔵野は聞いたことがあった。
その時、東上は少しだけ複雑そうに、
けれどいつもはあまり見せてくれない顔で笑ってくれたので、
それ以上は聞けなかった。
ただその時に言っていた言葉は今でも忘れることは出来ない。
『母の日でも父の日でも、越生の気持ちが嬉しいんだ。
だからそれで十分だ。
だってさ越生は俺の・・・・・・』
「それ、ドライフラワーだろ?」
「ん?ああ、そうだよ。よくわかったな?」
「んー?まぁ、俺もそれくらいはねぇ・・・」
「こうすると長持ちするだろ?
『気持ち』はいつまでも取っておきたいからさ・・・」
「ふぅん?・・・・あ、そういや、越生は?」
「遊びにいってる。あと1時間くらいで戻ってくるんじゃないか?」
「(つーことはあと1時間は二人きりなワケね)」
東上は相変らずカーネーションをドライフラワーにするために、
あれこれ細工を施している。
そういえば東上は裁縫も料理も出来る。
そりゃ、越生が父の日ではなく母の日に東上に何かをするのも分からないでもなかった。
「(こりゃ確かに親父つーよりお袋だわな・・。
ま、ガテン系だからその他は親父っぽいけど・・・・)」
と、そんなことをボーっとしながら考えていると、
「よし。出来た!」
と、いう東上の声。
嬉しそうに微笑みながら作ったドライフラワーを、
手作りの額縁に入れ、それを去年のドライフラワーの横に置く。
「けっこう集まったなぁ・・
「ん?・・・そうだなー・・・、もう何年も貰ってるからな。
越生がカーネーションをくれる限りは続けるつもりだ。」
「んじゃ、これは半永久的に増え続けちゃうわけね。」
「?」
武蔵野の言葉に東上はキョトンとした顔をする。
「だってさ、越生は東上のたった一人の家族なんだろ?」
「お・・、おお」
「じゃ、半永久的に増えるよな?
うっわ!したらこの家ドライフラワーだらけで、
俺の寝泊りする場所がなくなっちゃう!!」
よよよよ・・・、と制服の袖で涙を拭うフリをすれば、
東上の手が武蔵野の頭を叩く。
「・・痛っ」
「ばーか!さすがにそんなに何年も花がもつわきゃねーだろーが!
だからお前の寝床はいつでもあるよ!
・・・・お前が来る限りはな・・・・」
「へ?」
思いがけない東上の言葉に、武蔵野は信じられず東上の顔を覗き込む。
彼の顔は耳や首まで真っ赤で、武蔵野の視線をプイッとそらしてしまうが、
それでもなお、言葉を続けていた。
「・・・武蔵野も・・・俺、や越生、の家族・・・みたいなもんだし」
「・・・・・っ」
「お前、よく来るし・・・、越生も・・・なんだかんだで懐いてるし・・・」
「・・・っ」
「それに・・俺とお前は・・・・、!!!」
そこまで言った時だった。
東上は目の前が真っ暗になったかと思うと、
いつの間にか畳と背中がくっついていて、
上には武蔵野が圧し掛かっていた。
唇には濡れた感触がして、
いつもより激しく口付けがふってくる。
「・・・・ン・・・・ふ・・・・、っ・・・む・・むさ・・・し・・」
「・・・・っ・・・、あー・・・なんだか超やられたって感じ?
・・・越生・・・、あと1時間で帰ってくんだっけ??」
「・・・・多分」
「あー・・・どうすっかな、これ」
「これ?」
どれだ?と思うがその疑問は直ぐに解ける。
足に武蔵野の昂ぶりが当っているからだ。
「・・・・っ」
「・・・・んー・・、トイレ?や、それも寂しいか・・うーん??」
「武蔵野」
「ん?・・・んんぅ??」
東上は武蔵野の頭を両腕で抱き締め、
今度は自分から唇を重ねた。
そして・・・真っ赤な今にも泣き出しそうな目で応えるのだった。
「・・・1時間で・・・済ませるって約束出きんなら・・・いい」
・・・・1時間後。
越生が帰ってくると何やら寝込んでいる東上の変わりに、
武蔵野がエプロンをきて台所に立っていたので首を傾げたという。
2012/5/13
ありがとうございました。
母の日の話なのに越生が出できてない(笑)
いや、でも武蔵野×東上はむずかしです、やはり。
戻る
|