〜柊にかける想い〜



西武有楽町がとある場所を散歩していたら見覚えのあるオレンジのつなぎと、
見たことのない水色のつなぎをきた子供2人を見かけた。
西武池袋よろしく、『東武』に嫌味の一つでも言おうとそばに近寄った時、
西武有楽町は目を丸くした。

「なにをしているんだ?」

物珍しさに思わず疑問を声に出してしまい、
しまった、という顔をするがすでに後の祭り。
オレンジのつなぎの子供、東武越生の顔が驚いたものになり、
水色のつなぎの子供、東武大師がキョトンとした顔で西武有楽町を見てきた。

「なんだよ!なんか用か?!」

この親にしてこの子あり、東武東上が西武池袋に噛み付くときのような態度で、
越生が西武有楽町に噛み付けば、
負けじと西武有楽町も応戦する。

「べ、別に用などない!!
 ただビンボー東武がこんな場所で座り込んでいるから・・・!」
「ハッ!西武は相変らず暇人だな!」
「なんだと!」

小さな西武と東武の言い争い。
はたから見れば可愛らしいのだが、
幼い大師はハラハラと見守っている。

「越生!」

オレンジのつなぎをクイクイひっぱり、

「喧嘩するとにっこーやいささき、とーじょーにメッされちゃうよ!」

と、おっかなびっくり指摘する。
伊勢崎や東上はともかく、日光は怖い(怒ってなくても怖い)ので、
越生は一瞬何かを考え、やがて目の前の存在を見下ろした。

「・・・しおり、つくってんだよ」

西武なんかに教えるのは癪だが、
日光に怒られるのはもっと癪だ。
普段は(つながってないから)しらんぷりのくせして、
怒る時だけ(嫌味を言う時も)は、しゃしゃり出てくるのだ。
ここは西武にちょこっとだけ折れて教えてやる方が得策というものだ。

「しおり?」

越生の答えに西武有楽町が首を傾げる。
それはそうだろう。
目の前の光景はどう見てもしおり作りには見えない。
ビンやら歯ブラシやら・・・そしてなにやら怪しげな液体も置いてあるのだから。

「ヒイラギの葉っぱを歯ブラシでトントンするんだよ!」

西武有楽町の疑問が大師に伝わったのか、
大師はニコニコしながら説明をし始めた。

「ひいらぎ・・・?」
「冬の植物だぜ!んなこともしらねーのかよ?」

やっぱ西武だよな!と、
わけの分からないけなし方をする越生に西武有楽町はムッとなるが、
そこはやはり子供といったところだろうか・・・・、
目の前の『おもしろそうなこと』に心が既に奪われ始めているので、
腹立つ気持ちを何とか押さえ込んでどうやってヒイラギでしおりを作るのか、
聞いてみることにしたのだった。

「ヒイラギが冬の植物だってことは知っている!
 わたしが聞きたいのはそうじゃなくて・・・・!」

キッと越生を睨みながら『知りたいこと』を聞こうとするが、
やはり素直になれない。
グッと唇を噛みしめ、どうしようか悩んでいると、
頭上から呆れたようなため息が・・・・。

「ほんとう!素直ゃねーよな!しおりの作り方が気になるなら気になるって、
 素直に言えばいーのに!なー、大師?」

越生が大師の頭を撫でながら言うと、
キャーと言う喚声とともに、大師もね「ねー」と同意する。
・・・・まぁ、おそらくは分かっていないのだろうが・・・。

「う・・う・・うぅ・・・!」

でもそこまで言われても西武有楽町は素直になれない。
青いコートを握り締め、目には涙が溜まりそうだったが・・・・。

「ほら、こうやってさ」
「!」

どうぜいつものように素直に「教えて」とは言わないと分かっていたのか、
越生はニカッと笑って西武有楽町に教え始めた。

「空のビンとかに重曹を溶かした水をいれんだよ。
 で、葉っぱを入れて30分くらい煮るんだ」
「・・・葉っぱを煮るのか??」
「ほうれん草だって葉っぱだろ〜??
 お前んとこはほうれん草、煮ないのかよ?」
「!!?・・・あ、なるほど・・・」

そういえばそうだ、と西武有楽町が素直に頷くと、
既に煮てあった葉っぱを越生が西武有楽町に1枚渡した。
するとすかさず大師が使い古しの歯ブラシを渡してくる。

「あのね!こうやって葉っぱを叩くんだよ!」
「・・・こ、こうか??」
「うん!するとね〜、歯肉ってのが落ちてね・・・、ほら!」
「あ!」

歯肉が全ておちるとそこには葉っぱの筋だけが残った。

「葉脈標本っていうんだってよ!」
「葉脈標本・・・?」

越生がタオルを差し出してきたので、
横にいる大師がやっているのと同じようにタオルで葉っぱの水分を取る。
そして越生が赤や青のスタンプ台から青を選び葉脈標本にそのインクをつけて、
西武有楽町へ手渡してきた。
青い色のついた葉脈標本はもともとはタダの葉っぱとは思えない位綺麗で、
西武有楽町は思わず本音をこぼしてしまう。


「・・・きれい・・・・、あ!」

しまった、とあわてて自分の口を手で塞ぐが、少し遅かった。
目の前の越生が可笑しそうに笑い、
大師がキャッキャッとまとわりついてくる。

「ね!きれいだよね!大師達ねぇ、今年のクリスマスのプレゼントはコレにするの!
 いささきやにっこー、野田や・・えっと、宇都宮や!それから・・・」

大師は普段、自分を大事にしてくれる家族の名前を次々と挙げていくが、
西武有楽町にはサッパリ分からない。
え?え?と慌てていると、越生がすかさずフォローしてくれるのだった。

「東武本線の大人たのことだ」
「・・・ほんせん?」
「俺や東上とは違う・・・東武」
「・・・違う・・・?同じ東武なのにか?」

どういうことなんだろう?と西武有楽町は思ったが、
その時の越生の顔がなんだかとても寂しげに見えて、それ以上は聞けなかった。
違う東武の大師はココに居て、
今、越生と遊んでいるのにどうしてそんなにさみしそうなんだろう?と、
とても気になったけれど・・・・・。

「でね!でね!越生!」
「・・・んだよ、大師」
「大師ね!とーじょーの分も作るの!
 あと越生のも作るよ!今年のクリスマスは一緒にパーティーしようね!」

キャッキャッと笑いながら大師は提案するが、越生は分かっている。
多分そんなことはこの先、一生ないことを・・・。
越生は大師の提案には応えず、ただ頭を撫でてやった。
けれどその時の越生の顔がさっき以上に寂しげだったので、
西武有楽町はたまらず叫んだ。

「越生!」
「あ?」

今度はなんだよ?と越生は大師の頭を撫でつつ西武有楽町に振り返る。

「お前!どうしてそんなに寂しげなのだ?」
「は?」
「お前、寂しそうだ!
 そこの子供が一緒にパーティーしようって言っているのにどうしてだ?」
「・・・子供って・・・、お前も子供じゃんか」
「!!そうだけど・・・今はそうじゃなくて・・・」

西武有楽町は思わず地団駄を踏んでしまう。
どうしてかわからないが、越生の寂しげな顔の理由を知りたかったからだ。

「・・・西武有楽町」
「え?なに??」

そんな西武有楽町の心が分かったのか、
越生は静かに喋りだした。

「お前さ、コイツ・・・大師、何歳に見える??」
「え??わたしたちは外見と年齢が伴わないことが多いが・・・、
 その・・・私と同じくらいか???
 東武の新線なのか??そもそもどこを走っている路線なのだ?」
「・・・西新井〜大師前だ。
 それに大師はこう見えて俺より年上なんだぜ?」
「・・・西新井・・?東京か・・・?
 え?越生より・・・年上・・・・?えぇぇぇぇ!!?」

とてもそうは見えない、と目をパチクリさせて大師を見ればニッコリ微笑まれる。

「・・・西板線」
「え?」
「大師の開業当時の名前!
 東上と伊勢崎を繋ぐ予定だったんだけど・・いろいろあって・・・、
 で、俺達と大師達は同じ東武だけど繋がってない・・・・。
 だからパーティーを一緒にやるとかは無理なんだよ」
「・・・・・」
「東上と本線、微妙な仲だから・・・・」
「・・・・!」


自分は生まれた時から西武で、西武の面々が仲が悪いところなど見たことはないが、
もし、池袋系統と新宿系統の仲が悪かったらそれはとても悲しいことに思えた。
いつも生意気にキャンキャンほえている越生にこんな悩みがあったなんて、
と西武有楽町は少しだけ心が苦しくなった。
なんと言葉をかければよいのか・・・、
悩んでいたら下から陽気な声が聞こえてきた。

「おごせ!おごせ!」
「なんだよ?大師」
「あのビン、葉っぱまだ残ってるよね?」
「ん?ああ・・・結構いっぱい煮たかんな」
「出して!出して!」
「・・・いいけど・・・まだ作るのかよ?」
「うん!だってクリスマスまでまだ時間あるけど、
 もっと練習して綺麗なの皆にあげるの!
 綺麗なの貰ったら心が暖かくなって皆仲良くなるよ!」
「・・・は?」

ビンから葉っぱを取ってやりながら、
越生は大師の言葉に顔を顰める。

「でね!スカイツリー、オープンしてお金いっぱい入ったら、
 大師、とーじょーまで行けるようになるよ!
 そしたらしおりがなくても皆仲良くなるの!
 でもまだしおりが必要だから大師、練習する〜」

・・・スカイツリーがオープンしても大師が東上までくることはないのだが・・、
越生はだまって「がんばれよ」と言うと、
ビンから葉っぱを数枚出して手渡してやった。
大師はニコニコとそれを受け取り、歯ブラシでたたき始める。

「・・・スカイツリーがオープンしたらあの子は西板線に戻れるのか?」

大師の言葉を信じたらしい西武有楽町が聞いてくるが、
越生はジロッと睨んで、

「んなわけあるかよ」

と、小さな声で答えた。
するとなぜか西武有楽町のほうがガッカリと肩を落とすので、
越生の顔がますますしかめっ面になる。

「なんでお前が落ち込むんだよ?」
「だって・・・悲しいじゃないか!同じ東武なのに!!」
「そうだけど・・・・」

それはもうしょうがないことだ・・・、そう、越生には分かっている。
だからどうしようもできない。
と、越生が西武有楽町に言おうとした時・・・。

「おい、大師!」
「なぁに?」
「わたしにも葉っぱをくれないか?」
「うん!いーよ・・、はい」
「ありがとう!」

西武有楽町は葉っぱを受け取ると歯ブラシでたたき始める。


「お、おい・・西武有楽町?」
「越生もやるのだ」
「は?俺はもういいよ・・・」
「いいや!やるのだ!」
「な、なんで・・・・」

西武有楽町に手を引かれ、
むりやり葉っぱと歯ブラシを渡され、仕方ないのでたたき始める。

「うんと綺麗なしおりを作ってお前が本線とやらにクリスマスにあげるのだ」
「・・・・はぁ?」
「そうすれば・・・大人は単純・・・と、拝島が言っていたから・・、
 本線とやらはまずお前と仲良くなる」
「・・・・そうかぁ?」
「お前が本線と仲良くなれば東上も必然とそうなるだろ?」
「・・・ま、まぁ・・・ありえなくなないけど」
「そうしたらこの子が西板線にならなくとも皆で仲良しだ!」
「!」

そんなに上手くいくかよ・・・、と呆れ顔になるが、
横で大師が、

「みんななかよし〜!!」

と、無邪気に叫ぶのでため息一つ、で言葉を飲み込んだ。
そして葉っぱをたたきながら、反対側にいる西武有楽町に向かって言った。

「・・・西武の癖に東武の心配して変なヤツ」
「!!な・・、わ、わたしは・・ただ・・・!」
「ん・・・わかってる・・・、ただ心配してくれたんだよな。
 お前らんとこは仲がいいもんな・・・、電波だけど・・・・」
「で、電波などではない!!仲間意識が強いだけだ!」
「ものはいいようって言うからな・・・、でも、ま、サンキュ」

照れ隠しなのか、越生はプイっと顔を背け、
けれど耳まで真っ赤に染めて御礼を口にする。
その姿をみた西武有楽町は・・・、

「どちらが素直じゃないというのだ・・・」

と、苦笑しながら「どういたしまして」と返した。


・・・それからしばらく3人で無言で葉っぱをたたいて、
葉脈標本を作り続けた・・・・。

クリスマスに願いを込めて・・・・。



2011/11/6


ありがとうございました。 越生&大師&西武有楽町のお話。 子供たちを絡ませるのは好きです。 柊の葉っぱの葉脈標本は昔、授業でやったのをなぜか急に思い出して、 そうだ!と思ってこの駄文を作りました。 大人は子供がプレゼントしてくれるならきっとなんでも喜びますよね(^^) で、続きは余談。 西武池袋×東上のどうしようもない話。 「おい、東武」 「なんだよ?」 「貴様、浮気をしていたな?」 「は?」 「私に黙ってよその男と子供を作っていただろう?!」 「何の話だ?つーか浮気って・・・そもそも俺とお前は付き合ってなんか・・」 「西武有楽町からその話を聞いたとき、私は耳を疑ったぞ!!」 「おい!人の話を聞け!!俺は浮気なんかしてねー!!  そもそもお前と付き合ってもいないんだから浮気なんて・・・」 「・・・・ほぉ?あれほど何回も肌を重ねていながら付き合っていないと・・・?」 「!!?あ、あれは!!その!!その場の雰囲気つーか・・・その・・」 「ふん、まぁ、いい・・・、で、東武よ」 「なんだよ?」 「貴様、本線とやらとは犬猿の仲ではなかったのか?」 「はぁ?本線??(なんか話がとんでねーか??)  仲良くはねーけど、犬猿ってわけでもないぞ??」 「・・・犬猿、ではない?」 「???ああ、まぁ・・・、一応、同じ東武だし。  それに俺が嫌いなのは日光だし他は・・・・、せ、西武??」 「なんだ?」 「なんだって・・・お前、顔が怖い・・・」 「怖い顔にもなるわ!!この浮気モノがぁ!!」 「ウワ・・浮気モノ・・・??」 「貴様!!東武伊勢崎線とやらと東武大師線とかいう隠し子を儲けていたのだろう!?」 「・・・はぁ!!??」 「西武有楽町が言っていたぞ!!  この前、貴様のところのチビと遊んだときに居たと!!  貴様と容姿が似通っていたと言っていたぞ!!」 「あー・・・そういえばこの前、伊勢崎が家でしてきたときに大師もついてきたんだよなぁ」 「・・・家出?」 「日光が浮気したとか何とか・・・、  あの日光が伊勢崎とくっついた今、浮気なんてするわきゃねーのに」 「・・・日光??  伊勢崎とやらはお前の恋人ではないのか?」 「はぁ??俺と伊勢崎が??んなわけねーだろーが!」 「・・・ちがうのか??  だが西武有楽町は大師とお前がそっくりだったと・・・」 「・・・そりゃ俺と伊勢崎を繋ぐ予定だった路線だからなぁ・・・、  多少は似ててもおかしくねーだろ?」 「・・・・・そういうものか?」 「そういうもんだろ?」 「・・・・・・」 「信じられねーの?」 「・・・・そ、それは・・・」 「じゃ、いいこと教えてやるよ」 「・・・いいこと?」 「・・・俺、お前以外の肌は知らねーんだよな、実は」 「!!?」 「これで大師が俺と伊勢崎の子じゃねーってわかった・・・、せ、西武??」 「なんだ?」 「なんだ、って・・・お前、顔が・・その・・優しげだぞ?」 「そうか?・・・まぁ、今、私は嬉しいからな」 「嬉しい?」 「貴様、さっきまで私と付き合っていないと否定していたくせに、  私の肌しか知らない、と言ったのだぞ??  それはつまり・・・・・」 「!!??ぎゃーーー!!!!今のは聞かなかったことにしろ!!」 「ふはははは!もう遅いわ!」 ・・・おそまつさまでした。。。。 戻る