**始めに**

少し不快に感じるかもしれませんが、
もしそう感じられましたらご一報をください。
すぐにHPから削除いたします。










〜温もり〜

小川町へいけば久しぶりにその姿を見かけた。
彼は東上をその目で捉えるなり、
口元を弧の字に変えて近づいてきた。



「や!東上!」
「・・・・八高」
「久しぶりだねぇ☆」
「・・・そうだな」

相変らず陽気な彼はいつもと変わらず陽気に話しかけてきたので、
東上はなんだか全身から力が抜けてしまった。
越生以外の誰かと口をきくのは久しぶりな気がする、
まぁ、仕方ないのだけれども・・・、と思いながら、
ふぅ・・・と、ため息を吐いて近くにあったベンチに腰を下ろすと、
八高もその隣に腰を下ろし、少しだけ声のトーンを落として会話を再開した。


「・・・・ずいぶん疲れてるみたいだね?」
「あー・・、まぁ、な。色々あったからなぁ・・・」
「・・・ああ、そうだね」

力なく東上が答えれば八高は声のトーンを更に落として静かに頷いた。
自分のテンションに合わせ、声を落としてくれる八高に、
東上は小さく笑いながら冗談交じりに言った。


「・・・でもお前は元気そうだな?」
「ん?そぉ?まぁ・・そーかもね!僕、こうみえて体力あるから!」

すると八高は声のトーンを少しだけ明るく変えて、
やはり冗談交じりに返してきてくれた。
・・・・東上は彼のこういうところが好ましいと感じている。

「ははっ!体力は関係ねーだろ?」
「ん〜?そうかな?」
「そうだよ!」
「そっかぁ・・」

サングラスで目はよく見えないが、口元が大きく弧を描いたので、
八高のテンションはいつものものに戻っていることに気がつき、
東上もいつものように「もっとしっかりしろよな!この国鉄が!」、
と、さけんでやろうとしたが、出来なかった。
・・・・そんな気分ではなかったからだ。
だから小さく、本当に小さく、小さな声で、


「・・・うん。そうかもな・・・・」

と、答えるのが精一杯だった。
東上のそんな様子に気がつき、八高は再び声のトーンを下げると、
東上の肩の上に手を置き東上の耳元に口を近づけて静かに名前を呼ぶ。

「東上?」
「ん?」

すると東上は小さな声で返事をしてきたが、それ以上は何も言葉を発さない。
八高は目からサングラスを外しポケットにしまいこむと、
東上の両の頬に両手を沿えて自分と視線を合わせるように上を向かせた。


「本当に疲れているみたいだね?なんだか今日はおとなしいし☆」
「・・・それじゃいつもの俺がやかましいみてぇじゃねぇか」
「そういうわけじゃないけど、いつも怒鳴っていることが多いからねぇ」

どならない君はなんだか久しぶりな気がして変なんだよ、
と、八高は少しだけ悲しげな目をしながらそっと東上の額に唇を押し付けた。

「!!?」

突然のことに驚いて八高から身体を離そうとしたが、
大きな両手に頬を掴まれているので出来ず、
東上はまっすぐにサングラスの外れた八高の目を見つめるハメとなってしまった。

・・・八高の目をこうしてまともに見るのはどれくらいぶりだろう?
なんだかとても懐かしく、それと同時にひどく物悲しい気分になっていく。

「・・・お前の、・・・・」
「うん?」

掠れた声で東上が何かを言いかける、が、すぐに言葉は詰まってしまう。
八高は別にそれを急がせるでもなく、静かに続きの言葉を待った。

「・・・八高の、目・・さ」
「・・・・うん」
「まともに見たの、久しぶりな気がして・・・、懐かしいんだけど・・・悲しいって言うか」

・・・なんでだろうな?と困ったように笑った東上に、
八高もまた困ったような笑みを返すことしか出来なかった。

「奇遇だね、僕もさっきそう思ったよ」
「・・・さっき?」
「うん。君が怒鳴らないのは久しぶりだからって言ったときに、さ」
「・・・・!・・・、そっか」
「うん。・・・どうしてだろうね?」
「・・・・さぁ、な」

おそらく二人とも答えは分かっているのだろうけど、あえて何も言わない。
言っていけない気がしたからだ。


・・・つめたい風が吹き抜けるホームのベンチで、
二人はそのまましばらくただただ景色を見続けていた。
そして日が暮れ始め、夜風に東上がブルリを震えたのを八高が気がつくと、
彼は隣に座る東上の手をそっと握り締め、
そしてその腕をそっと東上の腰へと回してきた。

「・・・・八高?」

腰に回された手に、なんだよ?と訝しげに言えば、
八高はニッコリと笑みを浮かべ、よいしょとばかりに東上を自分の膝の上に抱き上げるのだった。

「ジャーン☆」

東上を膝の上に乗せ自らの効果音の声とともに、ギュッと抱きしめると、
東上の肩口に自分の顔を埋めるのだった。

「・・・・!!?『ジャーン』じゃ、ねーよ!!なんだってんだよ!?」

いつも通り、相変らずのわけの分からない行動に東上が怒鳴れば、
八高は肩口に顔を埋めたまま、ククク・・・と咽で笑い始め、
東上は益々怒鳴るのだった。

「わらってんなよな!てか下ろせよ!!放しやがれ!!」
「ん〜?・・・それはダメ」
「はぁ!?何言っ・・・、!!」

両腕を振り回し、腰に回っている八高の手を退けようと彼の手首を握り締めた時、
首筋に何か滑った感触を感じ、思わず背を仰け反らせる東上だが、
八高はそんな東上には構わず、ゆっくりと首筋に舌を這わせ続ける。

「・・・は・・、はち・・こ・・・」
「・・・首、弱いよね。あと・・・耳とか・・・」

そう言って、今度は首筋から耳の後ろに滑った感触は移動していき、
八高は耳の中まで舌を移動させると、
殊更低めの声で、

「あと、口の中も弱いよね?」

と囁きながら、東上の頤に手を添え口を閉じられないようにすると、
ゆっくりとその唇を塞いだ。

「・・・ふ・・・ん、んぅ・・・、っ・・・」

唾液が混ざり合う音や、唇同士を吸い上げる音、
互いの上顎や歯茎を舐めあい、感じる快楽に、
二人分の鼻にかかった息づかいが静かに続いている。

そうして互いに満足が行くまで貪りあった後、
どちらともなく薄目をあけて唇を放し、
もう一度目を閉じて唇を合わせた。


そうしたキスを何度か繰り返し、
舌がだるくなったと、白旗を東上が上げたので、
八高は苦笑しながらとり合えず唇を話し、腰に回していた腕に力をこめ抱きしめた。
そして小さくフフ、と笑うので、東上は気だるげに後ろを振り返る。

「・・・に、わらって・・んだ?」

激しくキスをしすぎたのか、東上は本当に舌がだるいらしく言葉がたどたどしい。

「うん、あのね」
「・・・・?」
「君も僕もお互いに『久しぶりに見た気がする』って言ったじゃない?
 サングラスを外した僕とか、怒鳴らない東上とかさ」
「・・・・ああ」
「でも、よく考えるとそんなことなかったなぁーって」
「?」

八高の身体により一層背中を密着させ、
彼の顔を下から覗き込みながら首を傾げて「どうして?」を表現する。
態度で疑問を表した東上の頬に八高は軽くキスをすると、

「こういう時にさ、見てるなって思って」

とニコニコ笑いながら語り始めた。
当然だが東上は鈍いので「こういう時」だけでは伝わらない。
八高も分かっているので、キスで濡れている東上の唇にもう一度唇を寄せて、
チュウッと軽く吸い上げた。
そして唇を放して、もう一度ゆっくりと言うのだった。

「こういうことする時、見てるでしょ?」
「・・・こういうことって・・・・、あ!」

そうしてようやく気がついたらしい東上が顔を真っ赤にするのを見ながら、
エッチのときだよ〜☆とおどけて言えば、ペシッと頭を軽くはたかれてしまった。

「・・・痛いなぁ」
「恥ずかしいこと言うからだ!!」
「東上は相変らず照れ屋さんだよね☆
 エッチの後もしばらく顔を見せてくれないし・・・、
 もう何年も経つのにねぇ・・・、初めて契った時からさ☆」
「・・・ち、ちぎ・・契った・・って・・・」

真っ赤な顔で口をパクパクさせてそれ以上言葉が見つからないらしい東上に、
八高は相変らずニコニコ笑いながら淡々と話し続けている。

「うん?東上にはそういう言い方のほうが伝わるかな?って思って!」

もうおじいちゃんだもんねー?と言えば、お前も似たようなもんだろ!と怒鳴り返される。

「まぁ、そうだけど・・・、でも出会った当初は君とこうなるとは思っていなかったな」
「・・・・それは俺もだけど?」
「うん、そうだろうね。敵意がヒシヒシ伝わってきてたからねぇ・・・」
「・・・敵意じゃねーよ」
「あはは☆そうかもね!人見知りの虫が敵意に見せていたのかもね!」
「・・・うっ」

図星を指され、言葉に行き詰る東上に「でもね」と八高は優しく話しかける。

「こうなるとは思っていなかった僕たちがこうなった」
「・・・ああ」
「戦後、もうダメかもしれないと思ったけど復興し、僕たちはまだ走り続けてる」
「・・・うん」
「だからね、東上」
「・・・・・・」
「今回も大丈夫だよ。きっとすぐに元通り走れるようになるよ?
 彼らとの直通も再開してさ、また怒鳴ったり喧嘩したり、
 ・・・・そんな他愛もない毎日が直ぐ戻ってくるよ?
 ・・・・寂しい期間なんてあっという間だよ、きっと☆」

ね?っと微笑む八高に東上はビックリしたように彼を見つめた。
そしてニコニコ笑う八高に東上は苦笑を浮かべるしかなかった。
八高には適わない、と思うのもこういう時だ。


「・・・八高には適わない気がする」
「そ?僕も東上にはかなわないこと色々あるよ?
 そういうのをお互い埋めあっていけばいいんじゃない?」
「・・・そうだな」

東上は小さく笑って背中を八高の身体に預ける。
すると腰に回っていた八高の両腕が強く東上を抱きしめ、
東上は疲れと寂しさを癒すように目を閉じた。

耳元で、

「寂しくなったらまたここで会おうね」

と、約束してくれたので東上は小さく頷いて、
珍しく自分から唇を合わせる。


・・・辺りはすっかり真っ暗になっていた。


すこしだけ、今回の震災をテーマにしております。 少し不快に感じるかもしれませんが、 もしそう感じられましたらご一報をください。 すぐにHPから削除いたします。 また、今回の震災で被害にあわれたかたには心からお悔やみ申し上げます。 そして少しでもこのつたない駄文で和んでいただければ幸いです。 ・・・ちょっと暗め?の話しなので、和めないかもですが・・・。 戻る