〜初恋と自覚〜




・・・避けられている。
1週間くらい避けられている。

これまでだってそんなに仲が良かったわけではないが、
ここ最近、誰の目から見ても明らかなほど避けられている。

だが私には理由が分からない。
きっかけは何だったか・・・・?

1週間前、何があったたのか?
・・・・思い出せない。

とにかく東武は最近、私を避けている。
それは間違いない。

苛々する心を弄びつつ、
池袋駅のメトロの事務所に書類を届けにいく途中で東武の姿を見かけた。

ヤツは東武鉄道や東武百貨店の中刷り広告を抱え、有楽町や副都心と話していた。
メトロの車両分だけにしてはいささか多いと思われる中刷り広告。
有楽町も副都心はやや困った顔で東武と話をしているようだ。



「とにかくっ!俺は会いたくねーから!!お前達の分のついでにアイツに渡してくれ!」
「・・・そうは言いましてもねぇ・・・、ねぇ?先輩」
「そうだな。俺たちが持っていくのはおかしい気がするぞ?」
「なんでだよっ!?」
「・・・・なんでと言われましても・・・」
「俺や副都心が東武の広告を西武に持っていくんだぞ?」
「それが?自分たちの広告のついでに持ってきた、って言えば納得すんだろ?」
「・・・・そう簡単にはいかないと思うぞ?」
「そうですよー。だいたい、どうして東上さんはそんなに西武さんに持ってくの嫌なんです?」
「・・・俺とアイツが犬猿の仲なのは知ってんだろ!?」
「・・・犬猿ですかー?」
「まぁ、確かに仲良しこよしではないけど、でもお前達って・・」
「・・・なんだよ?」
「いや・・・まぁ・・・その・・・、なぁ?」
「僕に振らないでくださいよ。
 お二人とも超が何個ついても足りないくらいの鈍さなんですから」
「・・・んだよ、それ」
「・・・ああ、でも東上さんはやっと自覚したんですかね?」
「え?東上、やっと気がついたのか??」
「何の話だよ?」
「うーん・・・、どうやら完全に気がついたわけではないみたいですね」
「だな〜。まぁ、こればっかりは自分たちで気がついて行動しないと・・・」
「何の話・・・」


・・・奴らは一体何の話しをしている?
もっと近くで話を聞こうと一歩を踏み出した時、
自社の職員に呼ばれ戻ることになった。
メトロに渡す書類があったのだが、仕方がない。
奴らの話の続きが気になるところだが私は来た道を引き返すことにした。
その時、少しだけ振り返れば何故か真っ赤な顔の東武が目に入り、
私は益々、話の内容が気になるのだった。











その日の深夜、終電を送り終えた私は、 昼間にメトロに渡せなかった書類を持って池袋構内を歩いていた。 すると昼間と丁度同じ場所で反対側からやってくる東武と出くわす。 東武は私を見るなり急に身体の向きを駆けて駆け出した。 ああ、まただ。 ・・・避けられている。 やはり私は避けられている。 これまでだってそんなに仲が良かったわけではないが、 ここ最近、誰の目から見ても明らかなほど避けられている。 別に東武に避けられようが我が西武は痛くも痒くもないが、 そういう態度は気に喰わない。 なぜ、逃げるのか。 なぜ、私は今、東武を追いかけているのか。 走る東武を追いかけ、 東武が自社の事務所に逃げ込む寸前、私はヤツの手首を捕まえた。 「痛っ!!」 そのまま上に捻り上げ、 身体の向きを強引に向き合う形に変えさせると、 私は東武の耳の横にバンと両手をつき、逃げられないようにした。 「・・・おい、貴様・・・」 私が上から不機嫌丸出しの声で話しかければ、 東武は上を向くことなく、俯いたまま小さく返事を返してくる。 「・・・なんだよ・・・?つーか、どけよ」 「用が済めば直ぐにどいてやるわ!」 「じゃ、早く用を言えよ!?」 苛立ちを交えた東武の怒鳴り声。 けれど顔は相変らず俯いたままだった。 ・・・気に喰わん。 「・・・貴様」 「なんだよ?」 「ここ最近、私を避けているだろう?」 ふん。 やはり図星か・・? その証拠に東武の肩が大きく揺れた。 「・・・別に私は貴様に避けられようが痛くも痒くもないが・・・」 「・・・・・」 「だが急にそんな態度を取られると理由は気になるぞ?」 「・・・・・」 「貴様、一体どうし・・・・、・・・・っ」 その時だった。 今の今までずっと俯いていた東武が急に顔を上げた。 そしてその顔は今までみたこともないくらい真っ赤だった。 「・・・なんだ、貴様・・・、その顔・・・・」 私は驚きのあまり、嫌味を含ませるのも忘れ、思ったままの言葉を言った。 すると東武は真っ赤な顔のままキッと睨んでくる。 「てめーだって!」 「・・・なに?」 「てめーだって!変な顔してたじゃねーかよっ!」 「私が・・・・?」 一体、何のことだ? 「あの時だよ!!1週間前!」 「・・・1週間前・・・?」 「お前、!自分のとこの中刷りを届けに来ただろ!!」 「・・・・・確かに行ったが・・・・」 それがなんだというのだ??? わけが分からんぞ??? 「・・・・その時、手が触れただろ?」 「・・・・!・・・ああ・・・、確かに」 中刷りを渡す時だったか・・・、一瞬だが手が触れ合った。 東武の手は相変らず荒れていて、私は思わず言ってしまったのだ。 『・・・・相変らず冬は荒れているのだな・・・・』 ・・・だが、それだけだぞ? それがなんだというのだろう? 「あん時、お前!変な顔してた・・・・」 「・・・・・?」 「・・・薄く・・笑ってた・・・」 「・・・・・・!」 「・・・・昔・・・みたいに・・・、  だから俺・・・どうしたらいいのかわかんなくなって・・・、避けてた」 「・・・・・っ」 「・・・中刷りもってくのも気まずくて・・・、  有楽町達に頼んだんだけど、自分で持ってけって・・・」 「・・・まぁ、それは当然だな」 「でも俺、気まずいし・・・・。  有楽町と副都心の言葉で今まで否定し続けてきた事実を再認識しちまうし」 「・・・再認識・・・・?」 私の鼓動が早くなっていくのが分かった。 その先を聞いてはいけない、と遠くでもう一人の自分が警告している。 だが別の『自分』はその先を聞きたいと、ただだまって東武を見下ろしていた。 「俺とお前がしょっちゅうぶつかり合うのは愛情の裏返しだって・・・。  お互い気になってしょうがねーからぶつかり合うって・・・・」 「・・・・・っ」 「有楽町も副都心も・・・それは・・・つまり・・・・」 すでに東武は顔だけでなく耳も首も真っ赤になっていた。 目は涙で潤み、懸命に葛藤と戦っているようだ。 だがそれは私自身も同じことで・・・・。 「だから・・・っ・・・つまり・・・俺・・・は・・・」 東武が全てを言い終える前に、 私は無意識に身体が動いていた。 腕は東武の腰と頭の後ろに回り、 それまで忙しなく開閉していた唇を自分の唇で塞ぎ、 東武のくぐもった声を聞きながら夢中で唇を貪り続ける。 突っぱねようと私の胸を叩いたり、 背中を叩いていた東武の腕も、 キスが深くなるにつれて大人しくなり、 かわりに私の背中と頭に添えられ同じように私の唇を貪っている。 「ン・・・・ッ・・・、ンン・・・」 「・・・・とう、ぶ・・・」 唇を話し、二人分の唾液を口の端から垂らしている東武の顎を舐め、 今度は首に唇を押し当てて、吸い付いた。 「・・・あ・・・、んっ」 東武の指が私の髪を掻き毟る。 少々痛みを感じたが、気にせず私はつなぎのファスナーを下ろした。 そしてつなぎの中に手を入れて、 彼の双丘に下着の上から触れ揉んだ。 「・・・・!!!ぁっ・・・く・・・・」 腕の中の身体が震える。 こうして抱きしめれば、東武は私よりも一回り小さかったのだと気がついた。 この身体でいつも私に噛み付いてきていたのか・・・? そう考えると身体の熱は益々高揚し、愛撫の動きも早急になった。 下着のゴムに指をかけ、そのまま時下にさわろうとした時・・・、 「!!!!ぐっ」 私の額に激痛が走った。 「このっ!!調子にのんなよ!!」 自分の額を押さえながら目の前の東武を見れば、 彼もまた半脱ぎの姿で自分の額を押さえ、 涙で潤んだ真っ赤な顔で私を睨んでいた。 「お前、進むのが早すぎんだよ!!」 「・・・・・なに?」 「だいたい!まだお互いの気持ちも確かめてねーじゃねーか!!  なのにいきなり犯ろうだなんて破廉恥すぎんだろ!?」 「・・・・・・」 「そう思うだろ!西武池袋!!」 ・・・・東武の言葉は最もで私は返す言葉もない。 それに東武が『想い』に気がついたのは恐らく昼で、 私にいたっては『今』だ。 ・・・・確かに性急すぎる。 この私が・・・東武相手に・・・・、失態だ。 いや、それよりも自分の想いに気がついても慌てていない自分に驚いた。 東武は黙ってしまった私を見上げながら、何回か深呼吸をしている。 そして不機嫌そうな顔のまま、口を尖らせながら喋り始める。 「・・・・俺は・・・、どうやらそういう意味でお前が気になるらしい。  ・・・・メトロの奴らに言われるまで気づかなかったけど。  でも気づいた後も別に嫌な気分じゃねーし・・・、多分そうなんだと思う」 「・・・『そう』とは?」 「だから!!」 分かっていつつもはぐらかす私に東武はムキになって続きを言おうとしたが、 それより早く私はその口を塞いだ。 「・・・ふ・・・んんんんっ」 普段は嫌味しか発しないその口を再び味わい、音を立てて唇を開放する。 そして耳元に口を移動させ、低い声で甘く囁いた。 「・・・私も貴様が好きらしい、『東上』」 「!!!・・・・いけ・・ぶくろ・・・」 東上が私の頬に両手を添えて、今度は彼から唇を合わせてきた。 そして一通り味わうと、彼もまた私の耳元で囁いてきた。 「普段は憎憎しいのに、笑った顔は変わんねーなんてずりぃ・・・」 「なんだ、それは」 「・・・でも・・・、それでも・・・だからこそ俺も・・・お前が好きみたいだ」 「・・・東上」 私たちはお互い微笑み合い、どちらともなくまた唇を重ねあった。 ・・・それはとても甘く、幸せな時間だった。 「・・・ん・・・ん・・・、だから・・ちょっと・・待てって」 「・・・ここまできて待ったはないだろう?」 「だから・・・・ン・・・、お前・・・性急・・すぎ・・・」 「お友達の時間が長かったのだ・・・、そう性急でもあるまい?」 「・・・お友達って・・・、や・・・まー・・そう言われちゃ仕方ねーけど、でも!」 「・・・なんだ?」 「・・・・俺が下なのかよ!?」 「・・・・当然だろう?」 「は??当然なのかよ!?なんで!!?」 場所をとり合えず東上の仮眠室に移動し、 私たちはそのベッドの上で沢山キスを交し合った。 すると当然ながら身体のも高ぶってくるわけで、 私は当然のように東上の服を毟り始める。 当然のように東上を組み敷こうとした時の『待った』に、 私は不適な笑みを浮かべて言い放つ。 「・・・我々西武が東武より下などということはありえないからだ」 「・・・・!!!なっ」 そうだ。 恋仲になろうともその事実は変わらないし、譲る気もない。 当然、東上は反論しようとしたがそれより早く唇を塞ぎ、 身体を全体重で押さえつけた。 一回り身体の大きさが違うのだ。 この状態では手も足も出せない。 しばらく抵抗していた東上もやがて観念したのか、 次第に身体から力を抜き、 私たちは長い長い初恋を実らせた・・・・・。 2012/2/5
ありがとうございました。 恋を自覚してからベッドインまでのお話。 この二人はきっと早いだろうな、という妄想です。 戻る