「おごせっ!ちゅ〜」

という言葉と同時に東上にチューされてしまった。

・・・酒クサイ!!

だから俺は反対したんだ!

誰だ!?東上に飲ませたのは!?

そんなのは分かってる!
目の前にいる奴等だ!









〜お酒で現れる本性〜










「うーー!・・と・・じょ・・くるしーー」

俺は両手両足はバタバタさせて東上の行動を止めさせようとしたがぜんっぜんできねぇっ!
俺の身体が東上に抱きしめられているからなんだろーけど、
東上は国鉄や営団の奴らに比べて小さいけど!
でも大人だし!
俺子供だし!
悔しいけど「大人」に抱きしめられたら逃げられねぇ!
バタバタもがいている間も東上はチューを止めねーから口の中が酒の味だ!
にげぇっ!
正直、美味くねぇ!
こんなのを美味しそうに飲んでる「大人」の気がしれねーよ・・・。
やっぱ、麦茶でじゅーぶんだ、飲み物は。
本当はジュースがいいけど、ジュースは高級品だし、
ウチはビンボーだし、ジュースが飲みたいなんていったら東上が悲しい顔をするから言わない。
でもやっぱ、本当はジュースが一番だ。

・・・って、今はそんなことよりこの飲んだくれを引きはがさねーと・・・!
・・・なんてーか・・・このままじゃ窒息する!!


「はははっ!東上は本当にキスが好きだねぇ・・」


俺が何とか東上を放そうともがいていたらどこからともなく能天気な声が聞こえてきた。
頭のどっかでブチッってなったけど、俺は東上に抱きしめられているから殴りにもいけねぇ!

「んーーー!!」

段々イライラしながら諦めずに手足をバタバタさせてたらようやく東上の顔が離れた。

「ぷはぁっ!!はぁ・・はぁ・・・」

東上の口も離れ俺は不足していた空気を一気に吸い込んだ。
うん、空気は美味い!
酒の味のするチューよりぜんぜんうまい!

「おごせぇ・・・だぁーいすきっ」

だけど安心するのはまだ早かった。
一度離れた東上の顔がまたまた近づいてきたからだ!

「おわーーー!!待てって!とうじょーー!」

やっと開放されたのにまたチューされてたまるかっ。
東上の口に自分の手の平をあてチューを止めさせる。
すると東上は泣きそうな目で(目に涙が溜まってるんだよ)、
悲しそうな顔で俺をみてきた。

うわー!やめろ!そんな目で見るな!
まるで俺が悪いみたいじゃんか!?

「おごせは・・おれが・・きらい?」

よっぱらってっからか東上の話し方はなんだか小さい子みたいだ。
分かりやすく言やー、大師みたいなかんじだ。

「・・・うっ・・き、きらいじゃねーよ!」
「じゃあ、なんでいやなの?」
「そ、それとこれとは別問題だろーが!」
「べつじゃないよ、おなじだよ。すきならキスするんだよ」

そんなわけあるかい!
そりゃー、外国に行けばそういう国もあるって誰かがいってたけど!
ここは日本だ!!

・・って酔っ払いには通じねーよなぁ・・・。
どうやってこのピンチをきる抜けるか、
あれこれ考えていたら東上が首を傾げながら捨てられた子犬のような目で聞いてきた。


「おごせ、おれ、すき?」

だーかーらー!そんな顔で聞くなよな!
強く言えなくなるだろーが。

「・・・ぁ・・・ぅ・・・・おう・・・」

仕方なしに答えて「好きだ」とやれば今度はスッゲー嬉しそうに笑った。
・・・東上の笑った顔は好きだ。
滅多に見せないけど、俺の前でだとよく見せてくれるからかもしれない。

「おれもおごせがだいすきだよ!じゃぁ、ちゅーしよーね?」
「なぬ!?」

おわっ!去ったはずの危機がまたきやがった!!
しかもさっきより抱きしめる力が強くねーか??
酔っ払いのドコにそんな力があんだよ!
うぅっ!酒臭い息が近寄ってくるーー!
クソッ!これだけは嫌だったけど、背に肘はかえられねぇ!(ん?肘で合ってたか??)

「は・・ハト!助けろ!」
「えー?何で?・面白いのに?」
「俺は面白くねーよ!今無事なのお前だけなんだから助けろ!」
「どうしよーかなぁ・・・」

俺は東上の頭を両手で押さえつけながら真横で酒を飲んでいるハト、
八高に助けを求めた。
これだけはしたくなかったけど背に何とかだしな!


・・・ちなみにハトの後ろでは有楽町が鼻血を垂らして気絶してやがる。
んで、東上の後ろでは武蔵野のバカが腰にキタから立てない、
とかわけのわかんねーこと抜かしながら股間に手をやってこっちの様子を悔しげに見てやがる。

実は東上の奴は始めとなりに座ってた有楽町にチューをしたんだ。

ビールの何杯目かはしらねーけど、急に横向いて有楽町のネクタイを引っ張ったと思ったら、
ブチュッって音と一緒に二人の顔がくっついてた。
で、俺が「何してやがる!」と有楽町に蹴りをかましたらそのままノックダウンしやがった。
これだから営団は貧弱で困る・・・国鉄よりは貧弱じゃないけど。
あ、でも鼻血を流してんのは俺がキックしたせいじゃないぜ!
あいつ、俺が蹴る前から垂らしてたしな!
「東上とのチューが嬉しかったんだね」ってハトが言ってたし!
真面目そうな顔して変態だったんかい!
当然、気絶している有楽町にもう一発蹴りを入れたのはいうまでもねぇ!

んで、有楽町が気絶したから次は有楽町とは逆隣にいた武蔵野を東上は選んだ。

ヘラッって笑いかけて、
武蔵野のバカは滅多に東上に笑ってもらえねーから嬉しそうにつられ笑いした。
したら今度は武蔵野の服の襟元を掴んだ東上は、
これまたブチュッと・・・・・。
うわっ!思い出しただけでムカつく!
しかも何かよくわかんねーけど、チューの音がいっぱいして、
したらよくわかんねーうちに武蔵野が自分から東上を引き剥がしたんだ。

『ちょっと俺下半身がやべーんですけど・・・マジで・・どうしよう??』

とか何とか言ってやがった。
で、トイレに行きたいけど立てない!
とかなんとかわけわかんねーことばっかいってやがった。
さすが武蔵野・・・わけがわからんキングだな。

『越生、連れてって〜、てか肩かして』

とか言ってたが貸してやるギリもねーしほっといた。
武蔵野は『抜かないとおさまらないからおねがい』
とかよくわかんねーよとをその後も散々喚いてたが、放っておいた。
だいたい「抜く」ってなんだよ?
ビールの栓はこれ以上抜く必要ねーだろうが!

で、そのあとのターゲットが俺になったわけだ。

・・・ハトは東上から一番遠い位置にいたから今のところ逃れられている。
だから俺はハトに助けを求めたんだ!
なのに!アイツはたのしそーに笑っているだけでなにもしちゃくれねぇ!

ムカツク!
今度アイツのハトをとっ捕まえて丸焼きにしてやる!!




こうしている合間にも東上の顔が近づいてくる。
俺の力じゃそろそろ限界だーー!
と、思っていたら頭上からまたあのお気楽そうな声がきこえてきた。


「ねぇ、越生」
「なんだよ!早く助けろよな!」
「うん。助けてあげてもいーよ!
 ただしその場合キミはこれから起きることを黙って見守らなきゃだよ?」
「はぁ!?何言ってんだ!?」
「だってキミがもし僕を殴って気絶させたらキミがまた餌食になるからね」
「・・・?????」

何言ってんだ、コイツ?
ま、確かにハト俺と東上を放してもハトが気絶したらまた東上は俺のトコにくんだろーけど。

・・・ん?放す・・・?俺と東上を??
東上は今、酔っ払ってる。
で、酔っ払い東上はみんなにチューしまくってる。
・・・・てことは・・・。

俺は青くなるのを感じながらハトをみた。

「うん。僕、東上を殴って気絶させるのはイヤだからねー☆」

だから仕方ないでしょ?と、
俺がまだ了解してないのに八高は強い力で俺と登場を引き剥がした。
・・・・JRのくせに力がすげーな・・・ヤな感じだ。

「はちこー?」

急に俺とはがされてビックリしらしい東上が八高の名前を呼んだ。
八高は東上の頭の後にでっけー手を添えると、チラッと俺のほうをみて言った。

「東上は昔からお酒が入るとキス魔になるんだよ。
 しかもキスで満足するまで絶対眠らないんだ。
 だからね、越生が僕を気絶させたら大変なことになるよ、キミが☆
 ああ、キスに満足したらコロッって寝ちゃうからお布団敷いといてくれる?」

って爆弾発言を残して・・・・目の前で・・・・!
てか『昔から』ってお前、知ってたんかい!
あ、だから東上から一番遠いトコに座ってたのか!
最初と二番目にチューした奴は俺にセーバイされるから!
なんてずるがしこいんだ!これだから大人は・・・!

「・・・んっ・・・は・・・ち・・こう・・」

目の前ではヤロー同士がチューしている光景が広がっている。
しかも二人してなれてやがるのかあまり違和感がねぇ・・・。
けっこうしてんのか、この二人・・・。
東上、俺に黙って・・・・?
なんかすっげーイヤだ・・・悔しい・・・。
俺がこどもじゃなくて大人だったら・・・・このモヤモヤの正体がわかんのかな?

「・・・・ん・・・・ぅ・・・」
「・・・東上・・気持ちいい?」
「・・・ん・・・うん・・」


わーー!変な会話すんな!
と、とりあえず、目の前の二人から逃げる・・わけじゃねーけど!
チューに満足したら寝るらしいから!
東上のために布団を敷こうと俺はいつも布団を敷く部屋へ急いだ。




でも二人をこれ以上みて痛くなかったのが本当だ。

てか、金輪際!東上には酒を飲ませねー!
禁酒だ!禁酒!


俺は決して広くない家の中を走る。





・・・部屋に行く途中、何かを踏み潰した気がした。
どうやら武蔵野が自力でトイレまで這って行っている途中だったらしい。
いつの間に部屋から出て行ったんだ???

ふんじゃったけど、ま、いっか・・・・。








俺が布団を敷いて二人のトコに戻った時には登場はハトに抱きしめられて眠っていた。
そんな東上をみるハトは気に要らなかったけど、
それ以上に幸せそうに眠っている東上はもっと気に食わない。

明日、東上が起きたらとり合えず一発殴ってやるんだ!

それくらいは許されるよな。


あー、俺って大人!


2010/7/17


ありがとうございました。 なんで酒を飲むことになったのか・・・?その辺はスルーでお願いします。 八高が狡賢い大人になってしまった気がしますね。 一番の悲劇は有楽町かな?一言もしゃべってない・・・? 戻る