「だーかーら!俺は東武副都心線なんて作る気はねーんだよっ!!」



休憩時間が丁度重なったので、
僕は最近、会った時に必ず言う言葉を今日もまた投げかけた。







〜僕の理由〜







『お前、つまらなくねぇの?』



初めは何のことだかわからなかった。

僕はそんなにつまらなさそうに映っていたのだろうか?
それを言った時のあの人の目がやけに印象的だった。

怒っているでもなく、
笑っているのでもなく、
どこか寂しげで、無気力な目だった。







『おや、東上さん。やっと僕と子作りをする気になったんですね?』


すると彼は決まって青筋を立てながら僕の言葉を全力で拒否する。
僕が腕を掴み後ろ頭を捕らえて強引に唇を奪えば、
初めのうちは抵抗するけれども彼は段々抗わなくなる。

・・・ああ、そういう態度を取っているから勘違いしてしまうんですよ?
と、言えば、彼は真っ赤な顔で僕の腕から逃げてしまう。
ちょっと力を入れてしまえば逃げられてしまうことはないけれど、
僕はそれをしない。
だってこれは臆病な彼から近寄ってこないと意味の無いことだから。

キスの直後の彼の何かを言いたげな、
あのどこか寂しげな、無気力な目が気になる。
はやく全て認めて僕の手をとればいいのに・・・。。

キスをすればおとなしくなる。
でも僕のことを全力で拒否してくる、彼。

どうしてキスは逃げないのに、僕からは逃げようとするんだろう?
僕にははじめそれが分からなかった。






そして彼は最近、新しい『言葉』を覚えた。



『そんなに○○副都心線がほしいなら東急に頼みやがれ!!』



僕は目を丸くした。
まさかそうくるとは思っていなかったから。
僕だってバカじゃないんだからそれくらいはちゃんと考えて行動しているのに。
僕は東急さんじゃなくて貴方がいいのに。
フツフツと湧き上がる怒りで、このまま彼を頂いてしまおうかと思ったけど、
『東急に頼め』と叫んだ東上さんの顔があの時と同じ顔をしていたので僕は言葉を飲み込んだ。




『お前、つまらなくねぇの?』

あの言葉を聞いたのはいつだったか?
そう、確か偶然彼と休憩が重なった時だった。
唐突に言ってきた言葉。


『お前、つまらなくねぇの?』

初めは何のことだかわからなかった。
多分それは『お前、俺といてつまらなくねぇの?』
という意味だったんだろう。

僕はそんなにつまらなさそうに映っていたのだろうか?
それを言った時のあの人の目がやけに印象的だった。

怒っているでもなく、
笑っているのでもなく、
どこか寂しげで、無気力な目だった。

だから僕は思わず言葉を返した。

『なんのことですか?』
『会話もないのにお前はこうして俺と居ることが多い気がする。
 だから、俺といてつまらなくねぇのかなって思った』
『・・・・・!』

まさかそんなことを指摘されるとは思ってもいなかった。
僕としては一緒にいられるだけで十分だったし・・・。
言い返す言葉を考え、黙っていると東上さんは僕の返事もまたず喋り続けていた。
怒っている時以外は無口(と、誰かが言っていた)な彼にしては珍しい光景だった。

『・・・・やっぱりお前がそんな態度なのは・・・』
『・・・・・?』

あの時の東上さんは何かを言いかけ、結局その先を言うことはなかった。
でもあの時の怒っているでもなく、
笑っているのでもなく、
どこか寂しげで、無気力な目は今でも目に焼きついている。

あの時の言葉の続きはなんだったのか?
僕はそれが分かっている。
分かった時に、バカな人だなぁ、と思った。
でも同時になんだかとても可愛く見えてしまった。









「だーかーら!俺は東武副都心線なんて作る気はねーんだよっ!!」



休憩時間が丁度重なった。
今日も彼は可愛らしく僕に向かって吠えてくる。


「だいたい!その話はもうしねぇって約束・・・」
「その約束はあの日限りでしょう?
 次の日のことは約束しないといったはずです!」

僕は椅子から立とうとした東上さんの肩を両手で押さえ込んで
すばやく顔を近づける。
東上さんはスッと頭を横にずらしたけど、その程度じゃ僕からは逃げられない。
僕は小さく笑って逃げる唇を追いかけた。

「ちょ・・・っ、おい!!やめろって・・ふくと・・・んぅ」
「東上さん・・・?僕とのキス・・・、好きでしょう?」
「んっ・・・ん・・・や、や・・やめ、ろ・・・っ」

彼の手が僕の顔面を押し返した。
キスで濡れた唇をつなぎの袖で拭い、目を潤ませて息を乱している。


僕を拒否しているのに拒否しきれていない。
彼が僕を拒否する理由。
彼が東急さんを勧める理由。

彼は恐れているんだ。

また捨てられるかもしれないという現実を。



『・・・・やっぱりお前がそんな態度なのは・・・』

あの時の言葉の続きはなんだったのか?
僕はそれが分かっている。
分かった時に、バカな人だなぁ、と思った。
でも同時になんだかとても可愛く見えてしまった。


『・・・・やっぱりお前がそんな態度なのは・・・、
 俺のことはどうでもいいと思っているからだろう?
 お前もいずれ俺を捨てて東急と、西武とだけ繋がるつもりだからだろう?』

彼はそう言いたかったに違いない。
なんでそんな風にネガティブに思うのか?
僕は不思議でならないけど、彼の過去を思えば仕方ないのかもしれない。


『お前、つまらなくねぇの?』

ああ、本当にバカだなぁ、と思ってしまう。
あの寂しげな顔をされるのは好きじゃないんだけど・・・。

僕はその時何を思ったのか、顔面に置かれた彼の手の平を舐めてみた。

「!!」

すると当然の反応なんだろうけど、ギョッとした東上さんの反応が面白くて、
僕はいつものヘラヘラした顔を彼に向けた。

「東上さん、僕ね・・・、今、とっても楽しいんです」
「・・・は?」
「顔には出ていないでしょう?でも僕は今、とても楽しいんですよ。
 ・・・・副都心線になってからは毎日が楽しい。
 新線の頃はつまらないコトだらけだったけど・・・・・」

新線の頃はあまり存在意義がなかったし・・・・、
なにより貴方に近づけない。

「ねぇ、東上さん?僕のつまらなさそうな態度は貴方の前でだけじゃないですよ?」
「・・・・っ」
「先輩の前でも西武さんの前でもこんな感じです。
 これは僕の癖のようなものですからねぇ・・・。
 あなただってもう分かっているでしょう?
 ・・・いいかげんに逃げるのはやめませんか?
 現実から目を背けるのは貴方の悪い癖です」
「前も・・・聞いた・・・、なんだよ、それ・・・?
 意味・・・わかんねーよ・・・・・」

・・・東上さんが僕から目を逸らす。

・・・本当は分かっているくせに、
過去が邪魔をして前に進めないだけの癖に。

僕は大丈夫なのに。
僕はあの私鉄とは違うのに。
だって僕は初めから、計画当初から貴方と・・・。


僕に決まって、ダメになって、三田線に決まって、ダメになって、
先輩に決まって・・・、でも先輩は西武さんとも繋がって・・・、
その西武さんに秩鉄さんと取られて・・・・、彼は臆病になっている。

でもね、東上さん・・・・。


「意味、わかるでしょう?
 だって僕は戻ってきたんですよ?
 話が一度ダメになっても僕は戻ってきた・・・・、
 まぁ、西武さんとも繋がっちゃってますけどね☆」
「・・・・・・」
「どうして東急さんに頼まないのか、って言ってましたよね?」

僕が聞くと、彼は小さく頷いた。

「それは当たり前ですよ?
 だって僕は貴方が好きなんですから」

彼の口がぽかんと開いていく。

「好きな人と子作りしたいと思うのは当然でしょう?」

彼の目が見る間に見開いていく。

「僕は今、貴方といる毎日が楽しいんです。
 だがらつまらなくなんてないですよ?
 だってやっと貴方を向かえにいけるまで成長したんですから」

彼の顔が見る間に真っ赤に染まっていく。

「最初に言ったでしょう?
 僕はあの私鉄とは違うって・・・・」

東上さんの腕が僕の首に絡まりついてくる。

「東武副都心線が欲しいなんて唯の口実ですよ・・・。
 でもやっぱり鈍い貴方にははっきり言わないと通じなかったみたいですね」

東上さんの吐息を近くに感じる。
そして小さな罵りの言葉とともに僕の唇と彼の唇が重なった。
首に絡まる腕が細かく震えているのに気がついて、
僕は東上さんを強く抱きしめた。

・・・ああ、時間がかかったけど、
ようやく手に入れた、と思った。










その夜、裸の彼を抱きしめながら、
・・・僕はずっとずっとこの瞬間を新線の頃から待っていたんですよ、
と、言ったら、彼は泣きそうな顔で笑うので、
なんだか胸が締め付けられ、もう一度抱きたくなってしまったけど、
その衝動は何とか抑えた。

・・・それも僕が大人になった証拠なのかもしれない。


2011/10/23


ありがとうございました。 ブログで書いていた副都心×東上の話しの続きのようなもの・・・。 途中からわけが分からなくなってしまったので、反省です。 やはり副都心×東上は難しいです・・・。 戻る