〜僕の理由2〜

「おつかれー・・、ってもう晩酌かよ?」

今日の業務を終えて僕は一足先に晩酌をしていた。
僕は今日、池袋に泊りだけれど、
彼、東上さんも同じだったらしい。
呆れ顔でメトロの詰め所に入ってきた。
手には茶封筒を持っている。

「僕はもう上がりですから!東上さんもですか?」
「俺はお前にこれを届けて終了。有楽町から連絡いってるだろ?」
「さっき窺いましたよ。なんの資料ですか?」

そんな会話をしながら、ほらよ、と渡されたのは東武鉄道の茶封筒。
なんだろう、と首を傾げれば、

「・・・今度の東武ファンフェスタの案内だ」

と、教えてくれた。

「別に明日でも良かったんだけど、
 さっき有楽町と電話で話したらお前が今日は池袋に泊りだから、
 渡しておいてって言うからさ」

・・・なるほど。
東上さんはこういう重要な書類はだいたい先輩に渡すから、
先輩から連絡がきたときはおかしいと思ったんだ。
けど、そのおかげであれ以来逃げ回るこの人に「仕掛ける」ことができるんだけど。
・・・そう、最初に抱いたあの時以来、逃げ回ってくれているこの人を。

「どうもありがとうございます」
「・・・別に、ついでだしな。
 ・・・じゃ、俺はこれで・・・・」

僕に封筒を渡すと東上さんはそそくさと帰ろうとした。
でもね、今夜はそうはいかない・・・・。

「・・・東上さん」
「?」

自分を呼ぶ声に、東上さんは怪訝そうな顔ながらも振り返った。
僕は心の中でほくそえみながら、ワイングラスを差し出す。

「・・・僕、実はお酒がさほど強くないんですよ」
「・・・・ふぅん?」
「でも折角、ヴォジョレヌーボーを頂いたので飲まないと失礼じゃないですか?」
「・・・まぁ、な」

彼が物を大切にする性分であることは知っている。
まぁ、それはお家事情もあるんだろうけど、
だからそんな彼を引き止めるための言葉はあと一つで十分。

「なんだか酔ってきちゃって・・・。
 かといって捨てるのも勿体無いし、
 東上さん、僕の飲みかけで申し訳ないですが、
 残りを飲んでくれませんか?」

僕の言葉に東上さんの顔が呆れたものにかわった。
そしてヤレヤレ、とため息を吐きながらまた僕に近づいてくる。
これで彼が飲んでくれれば作戦は成功だ。

「酒が強くないヤツが飲むんじゃねーよ」
「・・・すみません」

謝りつつも東上さんの手がグラスに伸びたので、
僕は黙ってそれを見守る。

「東上さんはお酒が強いんですか?」
「俺?」

ワイングラスを口元にまで持っていきながら、首を傾げている。

「どうだろうなー?焼酎なら一升瓶はいけるけど・・・」
「は!?」

一升瓶って・・・・、かなり強いのでは?
僕は引きつりそうになりそうな顔を何とか抑えて、頷くだけの返事にした。

「まぁ、滅多に飲むことはねぇけどな!」

正月とか、あとは秩鉄や八高が持ってきてくれた時かなー?
と言いながら、グラスに半分ほどあったワインをゴクゴク飲み干していく。

「そんなにお酒が強いんじゃ、
 その程度では酔いませんよね?」
「あ?・・・ああ、・・どうだろうな?
 ワインはあんまり飲んだこと・・・、あれ?」

その時、何か異変が起きたのか、
東上さんはグラスをテーブルの上に置くと、目頭を手で押さえた。

「・・・東上さん?」
「・・・わり・・・、なんか・・・視界が・・・」
「ひょっとして酔ったんですか?」
「・・・いや・・・、この程度じゃ・・・、んな・・はず・・・」
「でもワインはあまり飲んだことがないんでしょう?」
「・・・そ・・・だけど・・・・、それにしたって・・まわるの早・・」
「大丈夫ですか?」

その場に崩れ落ちそうになる東上さんの腰を支え、僕は歩き出す。

「・・・ふくと・・しん?」
「奥にベッドがあるので少し休んでいくといいですよ」
「・・・・ん・・・悪い」

僕に身体を預けながら東上さんも歩き出す。
奥の部屋の扉を開けて、
ベッドへ座らせると僕は徐につなぎのファスナーに手を伸ばす。

「・・・・く・・としん?」

なにするんだ?と潤んだ目で、
呂律のまわらない口で聞いてくる。
そんな態度をされたら・・・・僕は・・・・。

「大丈夫・・・、あの時と一緒で怖くないですよ」
「・・あの・・時・・・・」

ファスナーを下ろしながら徐々に前に体重をかけ東上さんを押し倒す。
頬に唇を寄せて、首筋に噛み付いて、最後に唇を塞いだ。

「・・・ふ・・・、ンンン・・・ッ」
「・・・僕とのキス、好きでしょう?」
「・・・・っ・・・・!」

幾分か思考が戻ってきているのか、東上さんの肘が僕の顔を押し返す。
だけど力が入らないのか僕を遠のけることは出来なくて、
東上さんは熱い息を吐き、目には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。

「あれから随分と僕から逃げてましたけど、
 僕とのエッチは嫌じゃなかったでしょ?」
「・・・・っ」
「ただ恥ずかしかっただけですよね?」
「う・・・っ」

真っ赤な顔で悔しそうに睨みつつも反論しないところをみると、
僕の自惚れではないはず・・・・・。
僕は手を動かし、なすがままになっている東上さんの身体からつなぎを剥いていく。
東上さんは必死につなぎの裾を握り締め阻むけれど、
僕はその行動を小さく笑っただけで簡単につなぎを剥ぎ取ってしまう。

「・・・!!やっ」
「大丈夫・・・、だってまだ下着もつけているし、Tシャツも着てます」
「・・・そういう・・問題じゃ・・・、く・・・ぅ」

太ももに手を這わせ、ゆっくりなぞるように撫でた。
彼の腰が揺れ動く。

「や・・、やだ・・・副都・・・」
「・・・・大丈夫。怖くないです」
「・・・・っ・・・っ、うそ・・だ!この前だって・・・痛かった・・・」

挿れられる時、と真っ赤な顔で小さく訴える声。
確かに最初は苦しそうだったけど、途中は・・・・・。
それに僕もそろそろ限界だし。
だからこそあのワインに・・・・。

「大丈夫。今夜は気持いいだけです」
「・・・んで・・・わかんだよ・・・?」
「さっきのワインのおかげでですよ」
「・・・ワイ・・・ン・・・?」
「お酒が入ると余分な力も抜けるでしょう?」
「そ・・・だけど・・・でも・・・」
「僕は嘘はつきませんよ、貴方には。
 ・・・それはもう分かったでしょう?」

頬を撫でながら、確認するように、ゆっくりと言った。
東上さんは一瞬だけ瞳が揺れたけれど、
やがて小さく頷いて、全身をベッドに預けた。

僕はゆっくり覆いかぶさる。
東上さんの腕が背中に回ってきた。


・・・そしてそのまま、熱い彼の身体を僕の欲望の全てで抱きしめた。











・・・・あのワインに実は即効性の媚薬が入っていたことを彼はまだ知らない。


2011/11/19


ありがとうございました。 いつぞやの副都心×東上の続き。 うん、マイナーなのは分かってるよ。 でもわりと好物です、この二人も。 戻る