〜暑い日のおやつ〜
「あ、日光おかえりー」
と、にこやかに迎えてくれた伊勢崎。
けれど日光は青い顔をしながら一歩、また一歩と後に下がってしまう。
「・・・ま、待て!!早まるな!俺が悪かった!!」
両手を前に突き出し、覚えもないがとり合えず謝った。
それはそうだろう。
相手は爽やかな笑顔で出迎えてくれたが、
手にトンカチを持っていては日光でなくとも慌てるだろう。
身に覚えはないが謝って怒りを解いておくにこしたことはない。
トンカチで殴られてしまっては遅延、運休はまぬがれないし、
打ち所が悪ければ死んでしまうかもしれないのだから。
「何謝ってんの??」
ブンッとトンカチを振り回しそのトンカチで日光を差してくる伊勢崎に、
日光は「ウワッ」と声をあげながら更に一歩下がった。
「お前がそんなもん持って出迎えるからだろーが!」
「・・・・・!ああ」
すると伊勢崎はやっと合点がいったのか「そうだよねぇ」と照れ笑いしながら、
とり合えずトンカチを持った手を下ろしてくれたので、
日光は内心ホッとしながらトンカチを持っていた理由をきくことにした。
「こう暑いから大師が元気なくてさ」
「・・・・まぁ、ガキは俺らより体感温度が高いらしいからな」
「うん。夏バテかな?何とかしてあげたいけどウチにはクーラーを買う余裕もないしね」
「アイスノンでも抱っこさせとけよ」
「この前やぶけっちゃたから今ないよ、アイスノン」
「・・・マジでか?」
誰かが今度熱出したらビニール袋に氷水か?と真剣に聞けば、
伊勢崎は飄々と「そうだねー」などというから日光はゲッソリした。
いくら家計が苦しいとはいえアイスノンも買えないとは、
・・・なんだか虚しくなってくるではないか。
「ま、アイスノンはいいや・・・で?」
「うん?」
「『うん?』じゃねーよ!トンカチを持ってた理由はなんだ!?」
「あ・・、ああ!そうだった!大師が辛そうだったからアイスでも食べさせてあげたいなー、
って思ったんだけどウチではアイスなんて買えないだろ?」
「アイスノンも買えねーのにアイスなんて夢のまた夢だろ」
「だろ?でもこの前、大師と東上のトコに行ったらさ!」
「ああ!?」
今伊勢崎は何と言ったのだろう?
確か『東上のトコに行った』と言っていた。
「いつだよ!?俺は知らねーぞ?!」
「・・・え?言ってなかったっけ??この前の休みに大師と俺出かけてただろ?」
「・・・・・・・」
そういえばそんなこともあったなと日光は反芻した。
あの日は伊勢崎を独り占めにされ気分もムシャクシャしていたから、
伊勢崎と大師が帰ってきても会話を交わさなかったのだ。
「そしたらさ、東上の家もクーラーなんてないだろ?」
「ああ・・・(行ったことねーけどな)」
「暑くて皆でグテェ・・ってしてたら東上がアイス出してくれたんだよ」
「ああ!?あいつらそんな贅沢してんのかよ!!?」
こちとらアイスノンも買えねーんだぞ!と咽まっでかかったとき、
伊勢崎が再びトンカチをかざしてきたので言うのを止めた。
・・・・殴られたら、死ぬ。絶対。
けれど日光のそんな心配はまたまた杞憂に終わる。
それどころか意表をつく台詞に言葉を失ってしまうのだ。
「氷をねぇ・・・こぉ・・ハンマーでガチンガチンつぶしてねぇ・・。
あ、東上のトコはトンカチじゃなくてハンマーでやってたんだ。」
「・・・・は?」
「微塵切りならぬ微塵たたきしてさ!シロップなんてないから砂糖を水で溶いてかけるんだよ」
「・・・・・・・・」
「即席のカキ氷!美味しかったよ!大師も気に入ってたから作ってあげようと思って」
伊勢崎は日光に背中を向けると徐にトンカチを振りかざした。
そして次の瞬間には部屋中にガチンガチン!という音が響きだし始めた。
もう結構前からやっていたのか、
台所には不似合いの銀盥には氷の欠片が沢山詰まっていた。
どうやら大師だけではなくみんなの文も作ってくれているらしい。
よーく台所の奥をのぞけば大師と佐野が一生懸命に砂糖を水に溶いているではないか。
「いささき〜、まだ〜??」
「もうちょっとだよ!シロップはできそう?」
「うん!佐野がまぜまぜしてるー」
「伊勢崎、この氷もう器に入れていいのか?」
「あ、うん。お願い」
するとどこからともなく現れた亀戸がご飯の茶碗に砕いた氷をよそい始めた。
「(おいおい!器が茶碗かよ!しかもそれカキ氷じゃねーだろ!?
ただ凍り氷を砕いて砂糖で味付けしただけじゃねーかよ!)」
などと日光が心の中で悪態をついているのを誰も気がつくことはなく、
伊勢崎の「できたよ〜」と言う声とともに
それまで奥に引っ込んでいた面子もぞろぞろ顔を出し始めた。
しかも日光は食べる気はなかったのに伊勢崎に腕を取られ渋々席につき、
渋々とカキ氷・・・ではなく砕き氷を口にした。
まぁ、それが案外熱く火照った身体には心地よく美味しかったのだが、
実はこれが夕飯なんだよ、と知った日光がブチ切れるのは1時間後のことである。
2010/7/24
ありがとうございました。
私が書く本線はギャグちっくになってしまうのは気のせいでしょうか?
伊勢崎&大師の&日光の3セットが好きです。
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