副都心&有楽町&東上だけれども、西武池袋×東上オチ?
ギャグです。



「ヨリイさん!」

誰かが誰かを呼ぶ声に東上は一瞬だけ足を止めたが、
呼ばれたのが自分の名前ではなかったので、
足を止めることなくそのまま歩き去ろうとしたその時だった。
誰かに型を掴まれ、無理やり身体の向きを変えられると、
そこにはニヤニヤ笑う東京メトロ副都心線と、
なにやら胃の辺りを押さえている同じく東京メトロ有楽町線が居た。








〜改名しませんか?〜






「イヤだなぁ・・・、声をかけたのに無視しないでくださいよ☆」
「は?」


ニヤニヤ笑っている副都心。
彼は開通当時から時々わけの分からないことをいう路線であったが、
今日、話す言葉もまるで意味が分からなかった、
宇宙人と話しているようだ・・・、
実際には宇宙人なんかと話したことはないが、
気分はまさしくそんな感じなのだ。

「・・・声をかけたって・・・、俺にか?」

最早呆れ顔で一応、副都心に返事を返せば、
読めない笑みを浮かべつつ副都心が、そうですよ、と答えた。

「・・・俺の気のせいじゃなければ、
 お前さっき、『ヨリイさん』って言ってたよな?」
「はい!言ってました」

HAHAHAHAH!と笑う副都心の横では相変らず有楽町が胃をさすっている。
どうやら『先輩』は『後輩』の言わんとしている事を既に知っていて、
それで胃を痛めながらもこうして一緒についてきたのだろう。
・・・副都心を諌める為に。

「・・・何だよ、ヨリイって・・・。
 俺の名前は東武とう・・・・」

人の名前を勝手に違う名前で呼ぶなとばかりに、
呆れ顔で、言う必要もないと思いつつ自分の名前を口に出そうとしたが、
副都心は手でそれを制してニコニコ笑うのだった。

「ええ、知ってますよ。貴方の名前は東武東上さんです。
 でも『東』はともかく、『上』はもう関係ないじゃないですかー?」
「・・・・!!?」

相変らずはっきりいうヤツだな、と、
多少のダメージを受けつつ東上が反論しようとしたところで、
またもや副都心の手に制され、言葉を飲み込んでしまう。

「ですから『ヨリイ』さんが宜しいかと思いまして☆」
「・・・・は?」

名案でしょ?とニコニコ笑う副都心の鳩尾に、
胃を押さえていた有楽町の肘が入った。
グエッとワザとらしく副都心は声をあげるが、ダメージはないようだ。

「副都心!いい加減にしろ!」
「せんぱーい!痛いじゃないですか〜」
「お・ま・え・が!その口を閉じれば痛い思いはしないんだよ!」
「えー?先輩も途中までは僕に賛同していてくれたじゃないですか!」

裏切るんですか!?と有楽町を眇めた目で見るが、
それ以上に東上が有楽町をすごい形相で見ているのに気がついたので、
副都心は口を閉ざした。

「・・・有楽町・・・、てめぇもグルだったのかよ?」
「え?・・・は?・・・い、いやいやいや!!違うって!!」

東上が指をポキポキ鳴らしつつ、メトロの二人に近づいてくる。
メトロ二人に比べ、多少体格の劣る東上だが、
いかんせんガテン系の体育会系なので、
メトロ二人を投げ飛ばすくらいは朝飯前なのだ。

「『先輩も賛同してた』ってそこの後輩が言ってたじゃねーか!」
「『途中までは』って言ってただろ!!副都心が話をはしょりすぎてるだけだ!!
 俺は無実だーーーーーー!!!!!!!」
「途中まででも何でも賛同はしてたんじゃねーか!」
「待て!東上!!俺の話を聞け!!賛同してたのは東急との直通の話までだ!!」
「あぁ!?東急だと!?」


・・・最近の東上は『東急』に弱い。
人見知りが激しいゆえか、まだ本決まりではないとはいえ、
ほぼ確定しているに近いその話を持ち出すと、
東上は少しだけ大人しくなるのだ。
鳴らしていた指を鳴らすのをやめ、
東上はとりあえず有楽町の話を聞くことにした。

「・・・・副都心と路線の名前の話をしてたんだよ」
「僕と東急さんが直通したら紛らわしいですね、って話をしてたんです」
「・・・紛らわしい?何が?」
「東急さんは東急東横さんでしょう?」
「・・・ああ、お前が直通すんのは東横ってヤツだよな、確か」
「・・・で、東上は東武東上だろ?」
「・・・・まぁな」

『東武』と付けられるのは不本意なのだろう。
東上の眉間に少しだけ皺がよる。

「東武東上に、東急東横・・・、紛らわしいですね、
 って副都心が言うから俺もそうだなって言ったんだ。
 俺が賛同したのはそこだけだから!!誤解するなよ!!」

有楽町が青い顔で東上に詰め寄る。
あまりの迫力に少しだけ負けそうになるが、そこは東上。
ガテン系だ。
すぐにキッと有楽町を睨むと、

「話をはしょりすぎててわかんねーよ!!
 大体なんで俺と東急東横が紛らわしいんだよ!?」
「・・・それは・・・・」

有楽町がツイ・・と目を逸らす。
東上の怒りが再び爆発しそうになったとき、
副都心の陽気な声が聞こえてくるのだった。

「『東』が2回出てくるでしょう、2路線とも」
「・・・は?東?」

副都心に視線を戻した東上は、何度目かの首を傾げるのだった。

「『東』急『東』横に『東』武『東』上・・・・。
 ね?『東』が2回出てくるでしょう?」
「・・・・そうみたいだな」

けれど東上の目はそれで?と言っていた。

「行き先がA線B線と違うとはいえ、
 世の中には目の悪い人間さんがごまんといますからね!
 パッと行き先表示の変わる電車の表示では、
 間違えて乗っちゃう人も居るのでは?と思ったわけですよ!」
「・・・・えー?びー?」

聞きなれない言葉に東上の眉間に更に一本皺が出来る。
するとそこは有楽町だ。
フォローの達人である彼は、すかさず教えてくれるのだった。

「東上達で言う、上り線・下り線の意味だよ。
 地下鉄だとそういうの分かりにくいだろ?」
「・・・А・Bのが分かりにくいじゃねーか・・・・。
 新木場・渋谷方面を上りにしろよ!」
「まぁまぁ、細かいことは気にしちゃダメですよ☆
 それで話を戻しますとですね、
 東急さんと東上さんの名前がややこしいので、僕なりに考えたんです。
 東横さんは東京と横浜で『東横』で正しいですからそのまま使っていただいて、
 東上さんは正しくないので改名してもらおうと・・・・」
「・・・それでヨリイって呼んだわけか・・、ん?それじゃヨリイって・・・」

何かに思いあったたのか、東上は半ばゲッソリして副都心を見た。

「・・・東上の終着駅が寄居だから東武寄居線に改名してもらいましょう!
 って、副都心が言うもんだから俺は止めさせる為についてきたんだよ」

これで誤解だって分かっただろ、と同じくゲッソリしている有楽町に、
東上は小さく頷いて、同時にため息を吐くのだった。
ナリは大きくなってもまだまだ子供・・・、
それが二人の副都心に対する思いであった。

「・・・にしてもなんだって寄居なんだよ?」
「え?だって東武さんって大抵終着駅がお名前じゃないですかぁ?」
「・・・・そうかぁ?」

言われてみて、東上は東武の路線を振り返ってみる。
・・・東武越生・・・、うん、終着駅だな。
東武伊勢崎・・・、終着駅だ。
日光もそうだ・・・、大師もか??
宇都宮もだな〜・・・、でも野田は違うぞ??
などと考えているなかも、副都心はケラケラ笑いながら話を続けていた。

「東武小川町線や、森林公園線でも良かったんですけど、
 なんだかイマイチじゃないですかぁ?
 東武川越線だとJRさんとなんとなく被りますし、
 ・・・・それに・・・・・・」

そこまで言い終えると副都心はプププッと笑いつつ、
東上を上から下まで見つめた。
有楽町は何を言うつもりなのか、おそらく分かったんだろう。
言わせる前に後輩の口を塞ごうとしたけど、一歩遅く・・・。
副都心の口からその名前は出されてしまうのだった。

「・・・それに東武池袋線だと、どなかたと被ってすっごく紛らわしいですからねぇ。
 そう考えると東武寄居線が一番シックリくるわけですよ〜。
 と、いうわけで東上さん!いえ、寄居さん!改名しましょう!」

それはもう本当に面白おかしく笑いながらの提案に、東上は真っ赤になっていた。
いや、真っ赤になったのは副都心の態度のせいではない。
副都心の放った言葉のせいだろう。
ブチブチブチ・・・、という音が有楽町の耳に確かに聞こえた時、
ものすごい速さで副都心のネクタイは東上に引っ張られていた。

「ぐえぇぇっ!!」
「わーーー!!東上!!落ち着け!!
 それ、絞めてるから!副都心を絞めてるから!!」
「五月蝿い!!これが落ち着いていられるかってんだ!!
 このやろぉ・・・よりにもよって東武池袋線だと・・・・?」
「ぐ・・・ぐ・・・せんぱ・・・たすけ・・・」
「てめぇ・・・・」
「と、とーじょー!!落ち着け!!」
「あのヤローが妙な誤解をしてくれたらどうしてくれんだーーー!?」
「うわぁぁぁーーーー!!」

東上の叫びとともに副都心は軽々と持ち上げられ、
遥か彼方へ投げ飛ばされていた。
それをボーゼンと見守る有楽町・・・・。
ハァハァ・・と、息を乱す東上を横目で見ると、
副都心を投げ飛ばしてスッキリしているはずなのに、
なぜか顔は青ざめていて、
なにやらブツブツ独り言を言いながらその場を去っていくのであった。
そしてしばらくして我に返った有楽町は、
副都心が投げ飛ばされた方面に急ぎ足で向いつつ、
東上はなんであんなに顔色が悪いんだろう?と考えていた。

「・・・あのヤローが妙な誤解とか言ってたよな・・?
 あのヤローって・・・、西武池袋か??どういう意味だ??」

けれど考えても考えても分からない。
頭に浮かぶのは『会長』と叫ぶあの宗教軍団・・・・。
・・・ああ、何も起きなければいいな、と、
痛み出した胃を押さえつつ、後輩のもとへ急ぐ有楽町なのであった。

















翌日の西武線宿舎。

「・・・新宿」
「ん?何?西武有楽町」
「西武池袋の持っているあの紙はなんですか?」
「あー、あれななぁ・・・・」

西武有楽町にお昼を一緒にと誘われて池袋に出向いてきた西武新宿。
なぜだか不機嫌な西武池袋に近寄りがたいのだろう。
西武有楽町は新宿の袖を握りながら質問をした。
西武新宿は休憩所までの道中、
いつものように喧嘩をしている西武池袋と東武東上を見かけるのだった。
いつもの『東』と『西』の言い争いとはいささか違っていたのにも気がついた。
なぜなら西武池袋が『婚姻届』をチラつかせながら二人は喧嘩していたからだ。


『貴様!東武池袋線になるとか言っていたそうだな?』
『は?言ってねーよ!』
『照れなくても良いのだぞ?
 それが貴様の可愛らしい告白だということは分かっている』
『照れてねーし!それにわかってもねーじゃねーか!』
『私はいつでも貴様を迎え入れる準備は出来ている!
 その証拠に・・・・見ろ!』
『・・・!!こ、婚姻・・届け・・・?』
『だが東武よ。無事婚姻を済ませれば貴様も西武になる。
 貴様までもが西武池袋だと紛らわしいぞ?
 ここは一つ、西武寄居線に妥協をだな・・・・・』
『だーー!!どいつもこいつも勝手に俺の名前を改名すんな!!
 そ・れ・に・だ!俺はてめぇなんかと婚姻しねーよ!!』
『フフフ・・・、照れるな、西武寄居線』
『やーめーろーー!!ぎゃーー!!何しやがる!』
『何とはまた珍妙なことを・・・、婚姻届には印鑑が必要なのだぞ?
 まぁ、今は持っていないだろうからこうして貴様の拇印をだな』
『人の許可なく押すんじゃねーーー!!げっ』
『フフフ・・・、これで後は提出するだけだ』
『・・・・っせ、西武!』
『ん?んぅ???』
『・・・・・っ』
『ん・・・・、・・・・っ』
『・・・・ぷはぁ・・・、取った!』
『ん?はっ!貴様!!それを返せ!!キスで私を騙して奪うなどと・・・・』
『お前だってだまし討ちで拇印を押したじゃねーか!』
『おい!破るな!!』
『破るに決まってんだろーが!俺は西武になんかならねーよ!』
『なんだと!!』



・・・と、あとはまぁ、いつもの喧嘩が始まり、
喧嘩に疲れた二人はお互いの休憩所まで戻ってきたというわけだ。
東上に破られたはずの婚姻届をなぜ西武池袋が持っているのか。


「・・・まぁ、あいつの照れ屋は今に始まったことではない。
 一枚目が破られることなど予測がついておったわ!」


・・・そう、今、西武池袋が持っているのは予備の婚姻届。

一枚目をだまし討ちのように取られ破られたのには腹が立ったが、
それもこれもあの照れ屋の照れ隠しと思えば憎くはない。
それに珍しく東上のほうからキスもしてきたし、と、
西武池袋はニコニコ笑って予備の婚姻届けを2〜3枚、
自分のコートのポケットへしまうのであった。


・・・急に笑顔になった西武池袋に、
西武有楽町が怯えたのは言うまでもない。
西武新宿はそんな西武有楽町を宥めながら、

「(てゆーか東武も池袋にキスできるくらいなんだから、
 観念して池袋と結婚して西武に入りゃいいのに。
 エッチだって何回もしてんだろー???)」

そしたら池袋の暴走も安泰!
会長バンザイだ!と、有楽町の頭を撫でつつ、
空腹でグーとなるお腹を押さえる西武新宿であった。


2011/9/11


ありがとうございました。 こんな話に付き合ってくれて、本当にありがとうゴザイマシタ(汗) 私が書く西武池袋×東上は、西武池袋→東上だけれども、 西武池袋→←東上でもあるので、似通った話になってしまうのです。 電波な西武池袋に振り回されつつ、拒否しつつ、落ちちゃうんだよ、 な、話が好きなんです〜。 戻る