**いつも以上に内容もオチもないです・・・イチャイチャ?してるだけ**




〜リップでビビッ〜



「・・・あれま・・・」

駅員から来ている、とはここに来る途中で聞いていたが、
まさか休憩室のソファーの上で気持ちよくお昼寝をなさっているとは思わなかった。
テーブルの上には昨日の遅延時の時に振り替えをしたときのであろう書類の茶封筒、
その横には駅員が出したのであろう日本茶が置かれている。
来たのが30分前ということらしいが、お茶に手を付けられていないことから
お茶を出され、ソファーに座るなりそのまま寝入ってしまったのだろう。
まぁ、昨日はラッシュ時の事故の遅延・運休、振り替え要請、
尚且つ夜はその書類作成で疲れていたのだろうから仕方ないのかもしれないが・・。

「それにしても・・・・」

武蔵野は東上が寝ているソファーの前に立ち屈みこんで、改めて相手の顔をよく見てみた。
子供は寝ているときが一番可愛い、という親の言葉はよく聞くものだが、
東上にもその言葉がよくあっているような気がする。
黙っていればそこそこだというのに口を開けば「うーん?」な彼、東上。
酷い時には手や足が出てくるのだから、
まさしく「黙っていればそれなりなのに」の代表のようなものだ。
ソファーの上で横向きになって眠りこけているからか、
いつも横に分けられている前髪は顔の中心に垂れ下がってきている。
東武の連中はその小柄な体のせいで多少他の路線より幼く見えがちである。
当然、東上もその一人であるがまぁ、それでも伊勢崎の童顔には適わないだろう。
けれど今、こうして前髪が横わけではなく前にかかっているといつもより幼い印象を受ける。
口を薄っすらあけて寝ている姿はなんともイケナイ気分を呼び起こさせてくれる。

・・・武蔵野はブンブンッと頭を横に振る。

「・・・・俺、ホモじゃねーし・・・?」

女の子がいいし・・・と、ブツブツ言い訳しながら、
なんとなく東上のたれてしまった前髪をいつものように横に分けてやった。
すると見慣れた「東上」に出来上がるわけだが、
目が閉じられているせいか、
それとも眉間に皺がよってないせいか、
東上はやはりいつもより随分幼い印象が消えないのだ。
何か夢でも見ているのか、時折口をモゴモゴさせる姿に武蔵野はゾクッとしてしまう。

「・・・いや、だから俺、ホモじゃねーし・・・!」

と、その時、語尾が強くなりすぎたのか、東上は眉間に皺を寄せてモゾモゾ動きだした。
武蔵野は慌てて自分の口に手をあてて東上を覗き込んだ、

「・・・ん?・・・んー・・・、・・・・」
「・・・東上?起きたのか?」
「・・・んー・・・・、むにゃむにゃ・・・」
「・・・・とーじょー??」

武蔵野は覗き込みながら東上の名前を呼ぶ、が、
東上は起きることなく眉間に寄せた皺を元に戻すと再び寝息をたてて寝ていた。


「・・・ほっ、起きなかったか・・・・ん?あれ???」

なんで俺、東上が起きなかったことに安心してんだろ?
と、武蔵野は首を傾げつつ、東上を見つめる目線を逸らすことはしなかった。

「だってもったいねーもんな?いつも怒ってる東上のこんな無防備な姿なんて滅多に見れねーし?」

そうだ、折角だから写真でも撮っておこう、と、
ニヤリと笑った武蔵野は確か使い捨てカメラが机の引き出しにあったはず、とクルリと机に足を向ける。
無防備な姿の写真の東上を隠し撮りして、
その写真を脅しの材料に使えば少しは自分への暴力が減るかもしれない。
振り替えを頼む時だっていつもは罵詈雑言の後やっとしてもらえるのだが、
写真があれば1つ返事でやってもらえるはず・・・、
人の悪い笑みを浮かべつつ机の引き出しを開けるとそこにははやり使い捨てカメラがあった。


「・・・ん?これは・・・」


そしてその使い捨てカメラの横には以前に間違って買ってしまい、
まさか使うわけにもいかずにそのまま放っておいたリップクリームがあった。
それもただのリップクリームではないのだ。
お洒落に目覚め始めた女子中学生がつかう色つきリップクリーム。
塗ればほんのりピンク色になり、「初めてのお化粧」にはうってつけのリップ。
武蔵野のはそのリップを手にとり、人の悪い笑みを浮かべると、
ゆっくりと東上の眠るソファーに戻った。
そして床に膝をついて改めて東上の顔を覗き込むと、
先ほどより更に人が悪い笑顔のままリップのキャップをとり、本体をまわした。
出てきたのはクリーム色のリップだが塗ればピンク色になるのだ。
東上は髪も目も黒いし、何故かそんなに日にも焼けていないのでピンク色は栄えるに違いない。
武蔵野は東上を起こさないように慎重にリップの先を東上の唇に近づけると、
優しい手つきで2〜3回唇に塗るのだった。

「よし、かんせ〜い!・・・次は写真っと・・・」

ニヤニヤ笑いながら使い捨てカメラ向け、レンズ越に東上を見る。
そしてシャッターをきると、使い捨てカメラを机の上に置いて改めて東上を見た。
眠る東上は武蔵野の悪戯に気がつくこともなく相変らずすやすや眠っている。
たださっきと違うのは唇が薄っすら桃色だ、ということだ。

「ありゃりゃ・・・これ、似合いすぎじゃねー?」

ちょっとした悪戯心でやってみただけなのに、変な発見をしてしまった。

「うーん、困った・・・なんかキスしてーかも・・・」

薄っすら桃色の唇は吸ってくれといわんばかりに薄く開かれているのだ。
隙間からは赤い舌もチラッとのぞいている。
しかも普段はリップなど塗らない東上の唇はだいだいガサガサだ。
それが色つきリップを塗ったおかげで瑞々しくなったものだから、
まさしく今が旬の果物のように美味しそうに光っている。

「あー・・・、だから俺ってホモじゃないはずなんだよねー?
 んー・・でも、据え膳喰わぬはってゆーし?」


それにここで何もしなかったら男じゃないし、それに気持ちよければ男も女も関係ないよな〜、
などとボジティブ武蔵野は一瞬で答えを出し、うんうん、と自分に頷いてみせる。

「ま、無防備に寝てる東上にも非はある、つーことで・・・頂きま〜す!」

ご飯を食べる時のように顔の前で手を合わせると、
武蔵野は東上の顔を覗き込んだ。
最中に起きて、反撃されても大丈夫なようにソファーの上に身体を乗り上げておこう。
体重をかけて押さえ込めば軟弱な自分でも押さえ込めるはずだ、多分。
武蔵野はそっと顔を近づける。
眠る東上の吐息が鼻にかかり思わず目を細めた武蔵野は、
そのままそっと唇を薄く開いた唇と合わせるのだった。


「・・・・ん?」

口が合わさった時、東上は一瞬だけ身じろぎしたが起きはしなかったようだ。
武蔵野は細めていた目を閉じ、今度はもっと深く唇を合わせた。

「・・・・ふ・・・ん、・・・んー・・??」

唇が合わさる音が五月蝿いのか、
口を塞がれ息苦しいのか、
東上の眉間にはいつものような皺が寄り、苦しげなくぐもった声が聞こえる。
武蔵野にキスを去れているのでくぐもった声しか出せないのだろう。

「ん、・・・んっ・・・!?んーーーー!!?」

そしてとうとう息苦しさに東上の目がバチッと開いた。
眠りから醒めた瞬間、東上はパニックに陥る。
武蔵野を待ってソファーに座っていたはずなのに、
いつの間にか誰かに圧し掛かられているのだから当たり前だが・・・。
東上は圧し掛かっている相手の胸をドンドンッと叩いた。
相手はグラリ・・・と揺れ動いたが、直ぐに体勢を立て直し更に深く口をあわせてきたのだった。
驚きで逃げ惑う東上の舌をいとも簡単に追いかけ追いつき、絡めて擦り合わせてくる。
手足をバタバタさせて押しのけようとするが、
いかんせんこのような口付けは初めてのため恐怖で身体に力が入らなかったのだ。
口内を舌でいいように犯され目じりから涙が溢れる。
息苦しさでウーウー、と唸った時にようやく誰かの唇は離れた。

「あっ?・・・ふぁ・・・、はー・・はー・・・」

東上が咽を押さえながらケホケホッと咳き込んでいると、
頭上から聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。
東上はその声の主が直ぐに思い当たり、涙の溜まった目でキッと睨んだ。

「てめぇっ!!武蔵野ーーー!何の嫌がらせだ!?」

上に乗っかっている武蔵野の服の襟を掴み右手を振り上げる、が、
初めての経験の恐怖で身体に力の入らない東上は軟弱武蔵野に易々とその拳を止められ、
さらに頭に血が上るのだった。

「やーだ、東上!拳にいつものキレがないぜ〜???ん?」
「うっ・・・、ぐぐぐぐ・・・・!!」
「目に溜まった涙もいつも以上に溢れてるし・・・?」
「・・・・!!!!うるさい!」

東上は軟弱武蔵野に小ばかにされたのが本当に悔しいのか、
その後もドンドンと力の入らない手で胸を叩くがその手も武蔵野に止められる。
東上はそれすら気に喰わないようで、ギロリと武蔵野を睨みあげる、が・・・。

「あー・・・、東上、それ、本当にヤベーわ・・・」
「は!?何の話だ!?てか手を離せってんだ!!」
「ウルウルお目々にピンク色の唇・・・誘われてるとしか思えねーよ?」
「はぁ!?ウルウルお目々、と・・・ピンク色の・・くちび、る・・・?」

ウルウルお目々、は東上も認めたくはないが理解は出来た。
自分の涙腺が脆いのは知っている、何かあると直ぐ目に涙が溜まってしまうのだ。
体質だから仕方がない、とコレまでも自分に言い聞かせてきた。
それに涙もろくとも自分は喧嘩が強いし馬鹿にされたら殴り倒せばいいのだから。
けれどピンク色の唇とはどういうことだろう??
東上は相変らず目に涙を溜めたまま武蔵野を見つめ、首を傾げる。

「ん〜・・・、その首を傾げるのも反則だわ。
 俺、ホモじゃないんだけどホモになっちゃうかも〜??どうしよう??
 あ、もうキスした時点でホモか!いや、まいったね!!」

ヘラヘラっと笑った後に、スッと目を眇めた武蔵野に見つめられ東上は無意識に体をビクッと揺らす。

「武蔵野?」

不安げに名前を呼べば、武蔵野はスッと東上の唇に自分の人差し指を寄せた。

「東上が寝てる間にさ〜、ちょっと悪戯したわけ」
「・・・悪戯?」
「ん〜・・・、出来心で色つきリップをちょっとね、塗ったわけよ」
「・・・!リ・・・ップ・・・!?」
「したら思いのほか東上、にあっちゃってさ〜、寝顔見てたらなんかムラムラッときっちゃって!
 で、ここで襲わなかったら男じゃねーでしょ??だから美味しく頂いちゃいました!」

武蔵野がニッと笑って東上の顔に吐息がかかるほど顔を近づけながら、

「唇、美味かったぜ?」

というので、東上はボッと顔に火がついた。

「おま・・・おま・・お前ぇ!!」
「いてっ!」

東上の右手が振りあがりぺチンという音が響いた。
どうやら武蔵野が平手打ちを喰らったようだが、
いまだ力の入らないためか、いつものような威力はなかったようだ。
その証拠に武蔵野は吹っ飛ぶことなく頬が少し赤くなった程度なのだから。

「ったく、本当に乱暴だよな、東上は?」
「う、うるさい!!い、今のは完全にお前が悪いだろ!!お、俺は悪くない!あやまんねーぞ!?」
「・・・いつもだって謝らねーでしょうーが」
「・・・・うっ」
「ま、いいや!そーゆーとこも好きになれば可愛いだけだし?」
「はっ?・・・って、ちょっとまて!何でまた顔を近づけるんだ!?」
「何でって・・・、東上が大人しいうちに沢山キスしとかなきゃもったいねーじゃん?
 大丈夫だって!さっきも気持ちよかっただろ〜??」
「き、気持いいわけあるかーーー!!息苦しいだけだ!」
「ふぅん?・・・・すぐに答えは分かるからいいけどねぇ・・・。
 あ、息苦しいのは東上が息しないからだぜ?」
「口が塞がれてるのに息が出来るかーーーー!?」
「へ?」

その瞬間、一瞬だけ沈黙が過ぎる。

「(あり??キスの経験ねーのかな??)」

と、首を傾げれば東上も失言に気がついたのか真っ赤になっている。
けど武蔵野は馬鹿にすることなく適切にアドバイスをすることにした。
からかってもいいが、今はそんなことよりキスすることが優先だと判断したからだ。


「・・・鼻で息すれば解決だぜ?」
「・・・!!成る程、鼻か、・・・って、わわわっ」

確かに息は鼻でも出来る、と東上が納得していると、
いつの間にか東上の肩に手を置いていた武蔵野にソファーの上に押し倒される。
普段なら決して適わない「押し倒す」に武蔵野は上機嫌に笑いを浮かべ、
顔を東上に近づけた。
東上も東上で力の入らない腕を動かし、
何とか武蔵野の顔を引き離そうとするが本調子でない為やはり適わない。
悔しさに東上は再び目頭が熱くなっていく。

「む、むさしのっ・・・、や・・やだっ」
「あー・・・やっぱその顔は反則だわ」

本気で怖いのか、目には寄り一層の涙が溢れんばかりに浮かんでいる。

俺、ホモじゃねーし、でも好きになったら性別関係ないし?
好きなやつを泣かせたいわけでもねーし?

武蔵野はそんなことを考えながら自分の下で本気で泣き出している東上に苦笑すると、
唇ではなくおでこに唇を寄せた。
音を立てておでこから離れると、涙でいっぱいの瞼に唇を寄せて涙を舐める。
そして最後に唇に唇を寄せて軽く吸い上げると、

「俺、腕の中では別として他の意味で泣かせるのは趣味じゃないんだよね」
「・・・・?」

と、しばらくの間は東上のおでこと目と唇に軽いキスを繰り返していた。
そして東上の体から緊張が取れたのを確認した後、深いキスを仕掛ける。
深いキスの最中、相変らず東上は暴れていたが、
そのうちに鼻にかかった甘い声を出すようになっていた。
東上はそのたびにハッと気がついて再び暴れだすが、
数分もしないうちに再び甘い声を出すようになり、ハッと気がついては暴れる、を繰り返していた。

武蔵野はそんな東上の様子に、

「(東上って案外チョロいかもな〜)」

などと思いながら東上をキスでメロメロにすることに没頭するのだった。



2010/10/11


ありがとうございました。 いやぁ・・・、本当にオチとかなくてすみません(汗) 内容もないし・・・でも、ま、イチャイチャ(ではないけど)が書きたかったのでヨシとします! ちなみに題の「ビビッ」ですが意味不明な感じですよね? 私、駄文を作る際「サブタイトル」にも力を入れている(?)んですが、 それを見るときっと納得できますよ。 携帯から見てる方はブックマークするとサブタイトルが分かるはずです。 と、プチ(?)情報でした。 戻る