〜お年玉〜
「越生、お年玉だよ〜」
と、東上がニコニコしながら(でも眉毛が少し下がっているので申し訳なさそうな)渡してきた。
中身は見なくとも分かっている。
もう何年も同じなのだ。
だからといって文句を言ったりなどしない。
越生だって姿はともかくもう何十年も鉄道をやっているのだ。
自分の家の『事情』くらい知っている。
だから越生は文句など言わない。
こうして東上から貰ったお年玉や月々の少ないお小遣いでおやつを買ったりしているのだ。
もちろんおやつを買えば東上にだって分けてあげる。
だけど東上は一口二口食べて越生に
「お腹いっぱいだから食べてくれる?」と、返してくるのだ。
でも越生は知っている。
東上だってもっともっといっぱい食べたいはずだ。
でも東上は自分よりいつも越生を優先してくれている。
その気持ちが痛いほど伝わってきているので越生は何も言わない。
でも本当は・・・・。
「・・・さんきゅー」
小さな声でお礼をいい東上からお年玉を受け取る。
東上の手がキチンとお礼を言えたね、と越生の頭を頭を撫でてくるが越生はそれをなぎ払う。
いつものことだ。
つまり、「子ども扱いするな」ということ。
東上も分かっているので苦笑を浮かべてそれ以上は何も言わない。
・・・と、ここまでが毎年の正月の風景。
けれど今年はそれで終わらなかった。
越生は40センチ上にある東上の顔を覗き込むように話しかけた。
「東上!」
東上の袖をクイッと引っ張れば、東上は「ん?」と返事をして屈んでくれた。
目線をあわせ越生が話をしやすくする為だ。
「なに?越生」
「・・・あ、あのな」
「うん?」
越生は珍しくモジモジしながら畳で足首をグリグリ回している。。
顔が赤くなっているし何か隠し事だろうか?
「どうしたの?」
「・・・!!だ、だから・・・その・・・」
「うん?」
「・・・・えっと、よ・・・」
越生の顔はますます赤くなっていく。
そんなに言いにくいことなのだろうか?
そして東上には言いにくいこと、で思い当たることは一つしかない。
大人ぶっていてもやはり子供。
粗相をしてしまうこともあるだろう、と東上は殊更優しく尋ねてみることにした。
「・・・越生、おねしょでもしちゃった??」
「!!お、おね、しょ??」
「うん。言いにくそうだし、赤くなっているから、さ」
「バッ!!バカ東上!!ちっげーよ!俺はおねしょなんかしねー!」
「・・・あ、違ったのか?」
じゃあなんだろう?
越生は怒鳴り終えると再びモジモジし始めてしまったので、
東上は辛抱強く待った。
おねしょでなく、こんなにモジモジするなんてきっと越生にとっては一世一代のことに違い、と思ったのだ。
そして越生がモジモジすること5分・・・。
「あの、さ」
「うん?」
「俺も、用意したんだ」
「用意?」
ついに話を始めた越生に東上は越生(と秩鉄)にしか見せない笑顔でうなづきを返し、先を待つ。
「いっつも東上にもらってばっかだから、俺もお年玉・・・、東上に」
「え?」
お年玉を用意した、発言に東上の目が真ん丸く見開かれる。
「俺に??ホント?」
信じられなくて、でも嬉しくて東上は確認するように越生に聞いた。
「お、男に二言はねーよ・・・、なぁ?受け取ってくれるか?」
「・・・越生・・・・!」
相変らず照れているのか、越生は真っ赤な顔で東上の顔を見つめる。
一方の東上も感動したのか膝立ちのまま越生をギューっと力加減もしないまま抱きしめてしまった。
「!!!ぐぇぇぇぇっ・・・とー・・じょ・・、ぐるじぃ・・・」
「・・・、あ、ごめん」
「・・・はぁ・・はぁ・・・ったくよ」
あわや越生を窒息させてしまうところで正気に戻った東上は力を緩める。
越生はゼーゼーと息をしながら、それでも息が整うと畳の上に胡坐をかいた。
「???越生?」
「ほら、お年玉を受け取れよ!」
「え?」
越生は自分の腿をパンパンッと叩き、
「寝ろ!」
と、言ってきた。
「ね、寝る??」
どういうこと?と東上が首を傾げれば、越生は真っ赤な顔でぶっきらぼうに言う。
「俺は『金』を用意できねーからな!だから身体で渡すんだよ!」
「・・・身体?」
「東上、たまに膝枕してくれんだろ?」
「・・・そうだね」
「あれ、すっげー気持いいんだ。瞼が重くなって、いつの間にか寝ちまって・・・、
でも夢見が良くて・・・、あったかい気分になれる。
だから東上に今年一番初めに見る夢は良いのを見て欲しいから!
だから俺の膝枕で・・・・って、なんんでにやけてんだよ!」
真剣に離しているというのに東上の顔はニヤニヤ、にやけ顔になっているではないか。
「おい!とーじょー!!?」
「・・・っ、ごめん!でもうれしくて」
「・・・う、うれしいのかよ?」
「もちろん!だって越生からのお年玉だからね・・・」
「本当か?」
「うん!ありがとう、越生」
「おう!じゃ、早く寝ろよ!」
「はいはい、ありがとうね、越生」
横になる東上の頭を、いつも彼が越生にしてくれているように撫でていたら、
いつの間にか越生自身が眠ってしまっていたらしい。
東上に膝枕をしていたはずなのに、
気がついたら自分も東上も寝転がっていて、
越生は東上に抱きしめられるように眠っていた。
こんなはずじゃないのに!と唇を噛みしめるが、
フと見上げた東上の寝顔がすごく安らかで微笑んでいるような感じであったので、
越生はなんだか心が解れていった。
結果的に「お年玉」は失敗してしまったけれど、
東上の寝顔が満足そうであったのでヨシということに出来そうだ。
越生はヘヘッと笑って東上の身体に腕をまわすと、
そのまま再び目を閉じるのだった。
・・・東上の見る夢が良いものでありますように、と願いながら。
2011/1/3
ありがとうございました。
なんとなく書きたかった親子の話。
この二人はお昼寝の時、いつも抱き合って寝てくれてるといいと思います。
大師から伊勢崎へのお年玉、という話も書いてみたいです、はい。
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