午後の優雅なるひと時。
たまの休日を一人のんびり過ごしていた高崎の部屋に宇都宮は突如現れた。
休みの自分と違い、彼はこれから休憩に入るらしい。
「ねぇ?高崎」
「・・・・ああ?」
ニッコリ微笑むあの顔に何度自分は騙され、酷い目にあってきたことだろう?
できるなら速攻で逃げ出したいがそんなことをしたら後が怖いので、
とりあえず頬を引きつらせて返事をした、が・・・・。
〜宇都宮と高崎の優雅なるお散歩〜
高崎は今、なぜか宇都宮と一緒にお散歩をしている。
そう、これは散歩だ。
誰が何と言おうと散歩なのだ。
なぜならただただ駅の構内を歩いているのだから。
突然部屋を訪ねてきた宇都宮が言った言葉は、
『ねぇ、君。たまには自分たちが使う駅構内を散歩してみないかい』
であった。
もちろん、高崎としては今日は貴重な休みなので丁重にお断りした(つもりなのだ)が、
悲しいかな・・・・、結局は宇都宮の言いなりになってしまっている。
「(つーかコイツ、昼休みを散歩なんかに費やして良いのかよ?)」
と、疑問に満ちた目で彼を見れば、高崎の言わんとしていることが分かったのか、
宇都宮はニッコリ微笑んで、
「君が休みの分、今日の僕の勤務は長いから休憩は3時間あるんだよ」
だから散歩の時間はある、と言いたいのだろうが、
高崎には嫌味のようにも聞こえ、から笑いで返事を返すしかなかった。
様々な路線が乗り入れしているこの駅は平日の昼間とはいえそれなりにごった返していた。
そういえば宇都宮とこうしてこの駅を歩いたことはなかったな、と、
何となしに歩いていたら聞いたことのある声が少し先から聞こえてきた。
「ああ、高崎。埼京だよ」
「・・・・そうだな」
そういやアイツ、昨日は人身を2回も起こして朝から晩までダイヤが乱れに乱れ、
俺も迷惑を被ったなぁ・・・、などとぼんやり思いながら、
埼京の行動を目で追っていると、埼京は徐に誰かに抱きついた。
「おわっ!!」
抱きつかれた人物は大層驚いたのか、バランスを崩していたが、
埼京が抱きついている為、転んだりはしなかった。
埼京はよく止まったり遅延したりするが、
なかなかどうして・・・・、体躯は結構恵まれていた。
だからこそ抱きつかれた人物は「重い〜〜!!」と叫んでおり、
埼京がくるまで彼と話をしていた金髪の男が慌てて止めに入っていた。
「さ、埼京!それじゃ東上が苦しいって!!」
金髪の男、メトロの有楽町の言葉に我に返ったのか、
埼京は照れ笑いを浮かべながら抱きついていた男、東武東上線から少しだけ離れた。
でも、まぁ、相変らず腕は東上の首に回っているが・・・・。
東上は息を乱しながら埼京に何か言っているが、
埼京は「えへへ」と笑いながら小さく謝っている。
そしてその様子を有楽町はなぜか苦虫を潰したような顔で見ている。
そのあとも彼らの会話を少し離れていたところで聞いていると、
そうやら昨日の人身事故での振り替え輸送のお礼を埼京がしているようである。
まぁ、昨日は忙しくて礼なんか言うヒマがなかったんだろうなぁ・・・、
と高崎が思っていたら、横にいた宇都宮が何故かクスッと笑ったので、
高崎は意味もなくゾクッとしてしまった・・・、もはや条件反射であろう。
「・・・お前、何笑ってんだ?」
「ふふ・・・、いや、なんかおかしくて、ね」
「・・・は?おかしい??」
何が??と高崎は思う。
多分、宇都宮も自分と同じく埼京と有楽町と東上の様子を見ていたと思うのだが、
それなら何故、そんなことを思うのか疑問だ。
彼らのやり取りにおかしいところなどないはずだからだ。
「どの辺がおかしいんだよ?」
「・・・ねぇ、高崎・・・、君は、さ」
「・・・・?」
宇都宮がスッと自分の顔を見つめフイにニコッと笑う。
まるで自分が常日頃、何かを失敗した時に向けられている小ばかにされた時のあの「笑み」だ。
「君は鈍いから気がついていないと思うけど、有楽町は東上が好きだと思うんだよね」
「鈍いってお前・・・」
・・・相変らず失礼なヤツだよなぁ・・・、
俺だってそんなに鈍くないはずだ・・・・、
と口には出さず愚痴っていた高崎だが、
フと宇都宮の言葉が頭の中をぐるぐる回り、
ある言葉でピコンと音を立ててその言葉を正確に理解していく・・・。
「えぇぇぇっ!?有楽町ってそうなのか??」
「・・・・・・」
それは知らなかった、やっぱ自分は鈍いのか?とうな垂れると、
宇都宮の盛大なため息が聞こえてきて更に肩を落としてしまう。
ま、いいや・・・、とりあえず話しの続きを聞いて、
落ち込むのは後にしよう・・・と宇都宮に視線を戻した。
すると宇都宮はニッと笑って、
「・・・おかしいよね」
と、もう一度言うのだった。
「はぁ?」
当然だが高崎は分からない。
有楽町が東上を好きなことがおかしいのだろうか?
それは言いすぎだろう?と思う。
メトロと東武で会社が違うから可笑しいのかもしれないが、恋愛は自由だ。
それなのに何が可笑しいのだろう・・・?と、眉間に皺を寄せて宇都宮を見れば、
宇都宮は高崎の考えなどお見通しのように、「違うよ」と一言。
「誰が誰を好きかなんて僕はさほど興味ないからね。」
「あ、そ・・・。なら何が可笑しいんだよ?」
「まず、有楽町。」
「・・・・ああ」
「埼京をあんな目で見るくらいならさっさと告白するか、
いますぐ引っぺがせばいいのに、それをしない。
彼は博愛主義者だから争いごとは好まないんだろうけど、
でもそれってただ自分が傷つくのが怖いだけだよね?
・・・・・ね、可笑しくない?」
「・・・・・・・・っ」
・・・相変らず、毒舌だな、と高崎は返事をせずにかわりに頬を引きつらせる。
「ま、有楽町の恋愛云々はどうでもいいんだけど、ね」
「・・・そーすか(なら、けなしてやるなよ)」
「それでね、高崎。あの光景にはもっと可笑しなことがあるんだよ?」
「・・あ?」
・・・・どこが?
と、高崎は相変らず東上にじゃれ付いている埼京と、
それをどこか面白くなさ気に見ている有楽町を見やる。
「埼京ってさ」
「・・・・ああ?」
「りんかいとぶっちゃけヤってると思う?」
「・・・・!!??ぶはぁーーーー!!!」
「うわっ、・・・・汚いなぁ」
淡々と、けれども口にした内容は口調ほど淡々としたものではなく、高崎は噴出した。
だが宇都宮はあくまで冷静だった。
「げほっ・・・!げほっ!!・・・すまん!!」
「・・・ふぅ・・・、君は本当に・・・ま、いいけど・・・、で、どう思う?」
「・・・ごほっ・・・、ど、どう思うって・・・・」
俺がそんなこと、知るかよ・・・、
だって普通、そんなこと本人にも聞けないだろー?
的な顔で宇都宮を咎めれば、彼は肩を上下させて、雰囲気でわかるでしょ?と言うのだった。
雰囲気・・・?そんなのでわかるものなのか?と思ったが言わなかった。
馬鹿にされるのは分かっているからだ。
「・・・で、実際ヤってるとしてさ」
「・・・ああ・・・(それはもう決定なのか?)」
「多分、埼京が下だと僕は思うんだよねぇ」
「・・・・下・・・、って・・・(もしかしなくてもアレの時のことだよな)」
エッチの時ですか?と目で問えば、ニッコリ微笑まれたので肯定と受け止めた。
何が悲しくて他人のベッド事情を話しているのか、高崎は混乱し始めていたが、
とりあえず、埼京は「下」っぽかったのでコクンと頷いた。
すると宇都宮も笑顔で一つ頷き、
「・・・で、東上・・・」
と、彼を指差した。
「・・・・ああ、東上な」
東上がどうした?と思うが、話の流れ的にはやりそっち方面の話しなのだろうことは分かる。
「(・・なんだ??何を言うつもりだ??宇都宮ぁーー!!)」
「今のところ、東上にそういう相手がいるかどうかは知らないけど」
「・・・俺も知らねぇ・・・」
「でも彼は秩父鉄道に『ホの字』だよね?」
「・・・あー・・・、まぁ・・・、そう、かな??」
いつだかのハイキングで見かけたとき、彼は明らかに秩鉄をキラキラした目で見ていた。
それが尊敬なのか、恋愛感情なのか高崎には分からないが・・・・。
「と、いうことは彼も下だよねえ・・・」
「は?」
何がどうなってそうなるのかは分からないが(いや、わかるが)、
確かに東上と秩鉄なら下は東上だろう。
ま、逆でもいいがどうもしっくりこない。
高崎はウンウンと唸りながらも宇都宮の言葉にとりあえず頷いて見せた。
「(つーか東上の感情が恋愛感情じゃなかったら失礼じゃねー?上とか下とか・・)」
「だよねぇ・・・、ねぇ?高崎?」
「・・・あー?」
今度はなんだ?と言う目で宇都宮を見れば、なにがそんなに面白いのか宇都宮はキラキラしていた。
・・・・よくない、これはよくない前兆だ。
高崎はヒクヒクと頬を引きつらせる。
「やっぱり可笑しいよね、あの光景」
「はあ?」
またその問題に戻ってしまったことに高崎は混乱していく。
だから何が可笑しいというのだろう?
もう、さっぱりだ。
・・・・うん、諦めよう。
高崎は早々に白旗をあげることを決めた。
「・・・・宇都宮」
「うん?」
「・・・・降参」
本当にわからない。
高崎が素直に両手を挙げると、宇都宮は楽しげに笑った。
そして少しだけ遠くにいる三人を見つめながら、黒い微笑を浮かべながら教えてくださった。
「わかったよ。じゃあね、有楽町は無視してみて、さ」
「・・・・ああ(それって有楽町に失礼なんじゃ・・・?)」
「埼京と東上だけをみると、まるでカップルがじゃれあっているように見えない?」
「・・・・・カップルが?」
目を凝らし、(失礼と思いつつも)有楽町を無視して、彼ら二人だけに集中する。
埼京の腕は東上の首に回され、彼を抱きしめている。
東上の顔は半ば呆れ気味だが、埼京を追い払うこともなく埼京の方に片手が置かれていた。
・・・・なるほど、確かにカップルに見えなくはないような気もしなくもない。
「まぁ、見えなくはない・・・ような?」
「でしょ?・・・で、よしんば彼らが本当のカップルとしてさ」
「・・・・???ああ」
「その場合、エッチはどうしてるのかなー?なんて考えたら可笑しくない?」
「・・・・っ!!!」
ボッと高崎の顔が一瞬で赤く染まった。
もちろん埼京と東上のそういう場面を想像してではない。
彼ら三人を見た瞬間にそんなことを考えた宇都宮の思考に対してだ。
「可笑しいよねえ・・・、二人ともおそらく『ネコ』なのに、
その二人がくっついたらどうするんだろう?
二人して大人の玩具でも使うのかな???ねぇ??」
「!!!!?????(知るかよ!てか笑顔で言う言葉じゃねぇーーー!!)」
「本当、可笑しいよねぇ・・・?ね、君はどっちが上になると思う?
埼京かな??体格的には埼京だけど、性格的には東上だよねぇ?
あ、むしろ日替わりで交代とかかな?ねぇ?高崎?」
「(んなこと俺に聞くなよ!?)」
高崎は真っ赤な顔で宇都宮から徐々に離れようとするが、
離れた分だけ彼は近寄ってくるので意味を成さない。
「ねぇ?高崎・・・、どう思う?」
ニコニコ笑いながら詰め寄ってくる宇都宮は脅威でしかない。
「う、宇都宮・・・」
「・・・ねぇ、高崎・・・・?」
「お、俺は・・・」
「うん?」
「その・・・」
「うん」
「だから・・・・」
「・・・だから、なに?」
「た、他人のそういう事情を色々詮索するのはよくねーとおもうぞ!」
「・・・・!・・・へー・・・」
やっとの思いでそう叫んだとき、
待ってましたとばかりに宇都宮の表情が歪んだ。
それはもう、悪魔の微笑が如く綺麗に歪んだのだ。
「他人の、ね・・・。」
「・・・お、おう・・・(なんだ??雲行きが・・・)」
「なら、さ」
「・・??」
クスッと笑う宇都宮だがまとう雰囲気はなんとも怪しげだ。
「なら、自分の事情のことは良い訳だよね?」
「・・・自分??」
「そう、例えば君と僕の事情なら・・・、さ」
「・・・!!」
ねぇ?そういうことだよね?とニヤッと笑いながら言われ、高崎は息が出来なくなった。
・・・そうだ、ここ1ヶ月くらいはお互いに忙しかったりなんだりで肌を合わせていない。
つまり・・・、まぁ、自分もだが自分より性欲の強い宇都宮はかなり・・・、
その悶々としているのだろうことは予想に硬くない。
高崎はもう笑うしかなかった・・・。
「・・・ははは、はは・・・は・・・」
「・・・本当、君の鈍さにはたまに呆れるよ?」
「・・・・ははは・・・、俺の鈍さ・・・?」
「池袋じゃなくて新宿にすればよかったかな?ねぇ?あぁ、赤羽もいいよね?」
「・・・赤羽・・・、新宿・・・?」
今、自分たちがいる場所は池袋だ。
それに新宿、赤羽とくれば・・・・・。
「!!!????」
「君は僕が本当に埼京と東上をみてそういう妄想をしたと思うの?」
「・・・・・・っ」
「ねぇ?高崎・・・・?」
ジリジリ詰め寄ってくる宇都宮についには壁際まで追い詰められ、高崎は焦った。
「君って本当に鈍いよね・・・?」
「・・・・・・」
言葉もなかく高崎は青ざめる。
急に始めた他人のエッチについての会話。
それから『池袋じゃなくて新宿にすればよかったかな?ねぇ?あぁ、赤羽もいいよね?』、
という言葉。
つまり宇都宮は誘ってきていたのだ。
ああ、本当に自分は何て鈍いんだろう、と後悔してももう遅いだろう。
「・・・僕の休憩時間、あと2時間はあるよ?」
「・・・・・」
スッと伸ばされる宇都宮の手。
取らないわけにはいかない、振り払ったら後が怖い。
無意識に高崎がゆっくりとその手を取ると、宇都宮は満足そうに笑った。
けれどその笑顔の奥にはきっと恐ろしいものも隠れていて・・・・。
高崎はブルリと身体を震わせた。
宇都宮は高崎の心を知ってか知らずか、怖いくらい優しく笑って、
「・・・2時間しかないからそんなに怯えなくても大丈夫だよ」
と、あまり慰めにもならない一言を耳元で囁いてきた。
・・・・つまり、裏を返せばそれは2時間しかないからちょっとしか苛めないよ、
ということで、高崎に待ち受けているのが甘美な試練であることは間違いないということだった。
「(俺、もっと鋭くなりてぇ!!)」
と、2時間後に無事に開放された高崎は思った。
そしてヨタヨタと歩くその姿は周りの人間の奇異を誘っていたという。
けれど鈍い彼がそのことに気づくことはなく、
彼の目指す鋭い人間になるにはまだまだ試練が必要なのかもしれない。
2011/1/23
ありがとうございました。
うつたかです、一応。
一応ね。高崎がどんな目に合わされたのかはご自由にご想像を。
多分、高崎よりは宇都宮のが性欲強いんじゃないかなー?という想像。
あ、埼京と東上は普通に仲が良いと、良いと思います←希望。
それに対し、モヤモヤな有楽町、な話も面白そうですよね!
本当は日光と伊勢崎のイチャイチャを見て、悶々〜、にしようと思ったんですけど、
それは次回に回しました・・・・・。
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