『本線で会議って言ってなかったっけ?』


普段はにこやかな笑顔の彼の怖いくらいの真剣な眼差し。
瞳の奥は怒りと悲しみが交差して揺れている。

『そうだけど?』

と、返したら、有楽町の目がスゥ・・と細まった。
ネクタイに指をかけ、シュルンと外す動作に、
東上の咽が思わずゴクリと上下に動き、
本能が逃げろと脳に告げ、有楽町に背を向けたときだった。
信じられないくらいの力で腕を掴まれて引き戻される。

『・・・・っ!!』

痛い、と叫ぶ間もなく後ろ手に工作された手首は、
有楽町のネクタイによって縛められていた。





〜フレグランス〜






「・・・・っ・・・ぅ」

つなぎの上をいつものように腰で縛っていたのが仇となっている。
後ろ手に縛められていても、
腰に巻きつけてある部分を解かれれば下半身は既に無防備だ。
Tシャツを上にたくし上げられ有楽町の冷たい指が乳首を摘んだ。

「・・・い、・・痛っ!」

イヤイヤ、と、頭を左右に振っても有楽町の力は弱まらず、
冷たい目をしたまま反対側の乳首を口に含まれた。
指とは違い優しい触れ方に東上の身体が震える。

「・・・すごく敏感・・・、やっぱり誰かにさわってもらったばっかりなんだ?」
「痛っ!!!」

乳首に歯が立てられたのだろう、指よりも痛い鈍痛が広がる。
いや、乳首に広がる痛みよりも東上の心にはそれ以上の鈍痛が広がった。



『誰かにさわってもらったばっかりなんだ?』


有楽町はどうやら自分が浮気をしてきたと思っているらしい。
どうしてそう思ったのかは分からないが、
おそらく嫉妬して普段の冷静さと平和主義からはかけ離れた行動を取っているのだろう。

「・・・に・・言って・・んだ・・よ!
 お、・・おれは・・昨日は・・・か、会議・・・に!!」

身体を捩らせて有楽町の下から抜け出そうとするが、
足の間に有楽町の身体はあるし、
肩を押さえつけられているので出来ない。
なんともいえない恐怖が東上に襲いかかり、有楽町を青ざめた顔で見上げるが、
見上げた先の有楽町の目がとても傷ついていて東上は言葉を失った。

「(なんでお前が泣きそうなんだよ!?)」

泣きたいのはコッチだつーの!と心の中で悪態をつくことしか出来ない。
なぜなら開こうとした口の中に有楽町の指が入れられてからだ。

「・・・ん・・・んんぅ・・・」

強引に入ってきた二本の指は東上の口の中を好き勝手に動き回っている。
上顎を奥のほうまで撫でなれ、舌沿いに指を這わされる。
咽の奥まで指が届き、えづきそうになったときに指がフイに抜かれた。

「ふぁ?・・・はぁ・・・?!・・・ア・・・んんぅっ!!」

指は東上の下着の中に入り込み、後ろに移動していく。
そして何のためらいもなく思いっきり2本、いきなり突き入れられるのだった。

「あっ!・・・くっ・・い、痛ぇっ!痛い!!」

容赦なく二本の指で掻き回される狭い入口。
気持ちの伴わない行為には痛みしか伴わず吐き気がこみ上げてくるが、
有楽町冷たい声で突き放すように言った。

「・・・痛いわけないだろ?」
「!!?」

いったい有楽町は何を言っているというのだろう。
突然、濡れているとはいえ2本の指をあんな場所に入れられ、
容赦なくかき回されたら痛いに決まっている。
それなのに『痛くない』と決め付けて相変らず冷たい目で見下ろしているのだ。
・・・・東上の中で何かが切れた。
プツッという音が自分でも聞こえ、唯一自由に動く足をバタバタさせながら激昂するのだった。

「いってぇーに決まってんだろ??!
 お前と最後にヤッたのは2週間くらい前だぞ!?
 とっくに硬くなってんだよ!?」

指を抜け!と怒鳴りながら足をバタつかせるが、
それは有楽町の指の動きを助けるだけになってしまう。
痛いながらも時折、イイ場所を掠め東上の声色が甘いものになる時があった。

「・・・・そんな気持ちよさそうな声出してたら説得力ないけど?
 それに俺とはしてなくても他の誰かとはしてるんだろ?
 ・・・・・昨日とか、さ・・・・・」
「はぁ!?何言ってやがんだ!?
 昨日は・・・、ほんせ・・んで・・か、かい・・ぎ、んぅっ」
「勃ってきた・・・・」

有楽町の顔が冷たげに微笑みながら、東上の敏感な部分を強く擦りあげる。
下半身を支配しつつある痺れるような甘い感覚に、
次第に息が上がっていく東上だが、有楽町は比例するように冷たい目になっていた。

「・・・ア・・アッ・・やめ・・・ろ!ソコばっか・・擦ん・・・っ」
「なんで?ココ、好きなんだろ?
 昨日も誰かにココをいっぱい気持ちよくしてもらったんだろ?」
「!!??」
「本線で会議だなんて嘘・・・、っ!!」

その時だった。
むやみやたらに振り回していた東上の足が、
見事に有楽町の鳩尾にクリーンヒットしたのだった。
有楽町は蹲り、ゲホッゲホッと咳き込んでいる。
東上も上体を起こし、高まりつつある熱を沈める為に深呼吸をするのだった。

「・・・・ったく」

東上がモゾモゾと身体を動かしながらため息を吐いていると、
いまだに咳き込んでいる有楽町が恨めしげに東上を見ている。

「・・・んだよ、その目。お前が悪いんだろー?
 勝手に人を浮気者扱いして!」

許せないとばかりに怒鳴れば、有楽町も負けじと怒鳴り返してくる。
・・・・かなり珍しい光景かもしれない。

「扱いじゃなくて東上は浮気してたんだろ!?」

普段は怒鳴ることの少ない彼の大声に、東上は思わず身体を竦めてしまうが、
ブンブンと頭を左右に振って気合を入れなおすと、
ズリズリと身体を有楽町へと移動させて聞くことにした。
・・・彼が何故そんな誤解をしているのかを。

「・・・なんで俺が浮気をしてると思ったんだよ?」

冷静沈着、とまでは言わないが、常にまわりに気を使って生きているせいか、
有楽町は色々なことを広い視野で見ることが出来る。
それなのにどうして東上が浮気したと思い込んでいるのか、
不思議で仕方がないのだ。
睨みをきかせながらきかれ、
有楽町は諦めたようなため息を吐きながらポツポツ話し始めていく。


「・・・・いつもと違ったんだ」
「はぁ?」
「・・・香りが」
「・・・香り・・・?」
「・・・・東上は牛乳石鹸を愛用しているだろ?髪も身体も、さ」
「ウチにはシャンプーなんてねぇからな」
「・・・だよな。でも今日は違った」
「はぁ?」
「今日はジャスミンの香りじゃなかった」
「・・・ジャスミン?」
「・・・薔薇っぽい香りだった」
「薔薇って・・・、あ!」
「なに?」

何かに思いあったったのだろう、東上の表情が変わる。
その瞬間、有楽町は確信するのだった。
ああ、やっぱり浮気してたのか、と・・・・。
ガックリ肩を落としながら東上の腕を縛っていたネクタイを外していく。
解いた手首は暴れたからだろうか、
クッキリと跡がついていて有楽町の心がズキンと痛んだ。
やはり自分は冷徹にはなれない、だから浮気とかされちゃうんだよなぁ・・と、
暗い顔で東上の手首を擦っていたら、
その手首は有楽町から離れ、冷たくなった指が頬に触れてきた。
東上はどこか困ったように苦笑しながら、有楽町の唇を指でそっと撫でると、
唇を重ねてきたので、有楽町の身体が思わずビクンと動くのだった。
東上の舌に誘われるがまま、自分の舌を東上の口内へ移動させる。
舌を絡ませあい、唾液を交換し合いながらの溶けそうなキス。
没頭して無意識に手を東上の腰まで移動させ撫でていたら、
唐突にその甘い時間は終わりを告げるのだった。
・・・・舌には鈍い痛みが広がっていた。

「・・・と・・・とうひょう・・?」

噛まれた舌を出したまま東上の顔を見つめていたら、
東上は悪戯が成功した子供のような笑顔を向けてきた。

「ばーか!それは俺の受けた心と身体の傷の痛みだ!
 ったく無茶しやがって・・・、それくらいじゃ足りねーくらいだぜ!」
「・・・・・っ」
「勝手に浮気者にされるしな!」
「・・・・浮気、してないのか?」

噛まれた舌を指で弄りながら恐る恐るといった感じで確認すると、
頭に東上の平手打ちをくらってしまった。

「痛ーーーー!!」
「・・・ふん」
「とうじょ〜!!」

酷い、と暗い空気を纏わせながら肩を落としていると、
東上の手がベルトを外しているのに気がついた。

「・・・・?何してるんだ?」

落ち込んだ顔のまま力のない声を出せば、
もう一度頭を殴られる。
・・・東上は乱暴だなぁ・・と一人落ち込んでいれば、
もう一度唇に軽くキスをされたので、
驚いたように東上の目を見つめ返すのだった。

「お前の疑問に答えてやるよ」
「へ?」
「お前が言うとおり、実は俺、浮気したんだ」
「・・・!!?・・・っ・・・ぅ・・・・」

ベルトを外した東上の手が有楽町の下着の中に入り込み兆していないモノを握る。
怪しく指が絡まり、優しく触られるうちにそれは兆しを見せ、有楽町の息が少し乱れた。

「・・・まぁ、浮気ッつっても石鹸の話だけどな」
「・・・せ・・・っけ・・ん・・・?」

次第に早くなっていく手の動きに有楽町身体を震わせる。
東上に何度もキスをされ、次第に自分の身体を支えられなくなり、
寝転がろうとした時、東上にちょっと待て、と言われたので理性だけで言うとおりにした。
東上がガサゴソと何かを探し何かを手に取ると、
有楽町の膝の上に乗り上げもう一度、有楽町に深いキスをする。

「ん・・・んん・・・」

シュルシュルと背後で音が聞こえるが、
キスに夢中になっている有楽町は気づかなかった。
やがて東上の唇が離れ薄目を開けたとき、
東上がニヤッと笑いながら有楽町の胸をドンと押し、押し倒してきた。

「・・・・へ?」

・・・・気づけば有楽町の腕は後ろ手に縛られている、
そう、まるでさっき自分が東上にしていた時のように、だ。

「・・・あ、あの・・・?東上・・・?」

なんで縛るのか、その真意を聞こうとしたがネロッとした何かに乳首を挟まれ声に出来なかった。

「〜〜〜〜〜〜〜!!?」

口に含まれていない反対側の乳首は捏ねられたりつままれたりしている。
あらかた弄り終えると、今度は反対側を口に含まれ甘噛みされるのだった。

「・・・へぇ?お前も結構敏感じゃん?」

まるで面白いものを発見したかのように東上は有楽町の身体のあちこちを撫で回す。
わき腹を舐められ、へその中も舐められ、足の付け根は吸われた。
悲鳴を何とか唇を噛むことでたえていた有楽町だが、
執拗な愛撫で本兆しになりつつある自身を生暖かいものに包まれた時には声を抑えられなかった。

そして限界も近くなった時にその場所から東上の口が離れた。
思わず不満げな声を出してしまったが、
ニヤリと笑った東上に心のソコからひんやりとした何かを感じ取る。
東上の手が有楽町の頬を殊更優しく撫で、限界も近い兆したものを容赦なく握りこんだ。

「・・・っ!!」

もうちょっと手加減してくれ、と叫ぼうにも急所を握られていては声も出ない。
やがて口とは違うものにソレは包まれ始め、
有楽町は溜まらず腰を揺らし背を撓らせた。

・・・腕が自由だったら上に乗っている東上の腰を掴んで思いっきり突き上げられるのに、
と、思うが、縛られている現実ではそれも出来ない。
東上は相変らず焦らすかのようにゆっくりと腰を落とし、
見せ付けるかのようにゆっくりとしか腰を揺らさない。

「・・・と・・・、とうじょ・・・」

頼むから焦らさないで、と頼むが、東上は意地の悪い笑みを浮かべるだけで、
相変らず緩慢に腰を動かすだけだ。
東上は緩く腰を揺らしながら上体を少しだけ屈め、有楽町の耳に口を近づけてきた。
東上の息づかい、それだけで完全に高ぶってしまっている身体には媚薬となり、
もっと強く突き上げたい衝動に駆られる、が、
上に乗っている東上に遮られそれが出来ず有楽町は快楽という拷問に苦しまされるのだった。

「・・・・浮気してるって疑った罰だ。
 今日はとことん焦らして、搾り取ってやるから覚悟しろよ・・・?」
「・・へ?・・・あ、あぁぁっ!と、とうじょ・・、そ、そんな急に動くな!」

搾り取られる、と有楽町は目を瞑るが、いつまで経ってもその時は訪れない。
絶頂まで登ろうとすると、東上が腰の動きを止めるのだ。
達せない苦しさに息を荒げていると、ニヤリと笑う東上と目が合った。

「そう簡単に俺の中に出せると思うなよ・・・?」

楽しそうに笑う彼もまた我慢しているのだろう、
少しだけ苦しげだがそれ以上に楽しそうだった。
どうやら有楽町が達せない苦しさに顔を歪ませるのが楽しいらしい。
とんだエスだったようだ・・・・、それに耐える自分はエムなのか・・・?
と、思う有楽町なのであった・・・・・。























本当にとことん搾り取られた・・・・・、
と廃人のようにグッタリしている有楽町に対し、
東上もまたグッタリと有楽町の横に寝そべっている。
それでもまぁ、途中で腕の戒めは解いてもらって、
途中からは有楽町が東上を焦らして泣かせていたのだが・・・。

・・・それにしても、と有楽町は思った。

「・・・東上?」
「うーん?」

なんだよ、と疲れた顔で身体の向きを有楽町へと向き返した東上を抱き寄せ、
『浮気』の真相を聞くことにした。

「石鹸は浮気してたってどういう意味だ?」
「・・・・あー・・・それなぁ・・・」

眠くなってきたのか、東上はトロンとした目をしながら、
モニョモニョと口を動かしている。

「・・・お前、俺の香りが違うから浮気してるって疑ったじゃん?」
「・・・あー・・うん」

申し訳ありませんでした、と有楽町は自分の行動を反省する。
よくよく考えてみれば、
東上が浮気したりなどするはずがないことは自分が一番よくわかっている筈なのだ。
東上は『裏切り』が誰よりも嫌いなのだから。

「・・・昨日、会議の後・・・こっちに帰ってくる途中・・気づいたんだ」
「・・・・?気づいた??」
「・・・石鹸・・・ねぇ・・・こと。
 越生も待ってるし・・・俺、早く帰りたかったし、
 もったいねぇけど・・・コンビニで石鹸買った。
 ・・・・いつもと同じの買ったつもりだったけど・・・・、
 いつもの青い箱じゃなくて隣の赤い箱買っちゃってさ・・・・」
「それって・・・・つまり・・・・?」
「・・・香りが違ったのは・・・石鹸、間違えて買ったからだ・・・。
 だから石鹸・・浮気したって言った・・・・」
「なるほど・・・・」

確かに有楽町だってシャンプーを変える事はある、
あるが、まさか東上宅でそんなことをするわけはないと勝手に思い込んでいたので、
今回のような結果に陥ってしまったようだ。
まぁ、いままでしたことなかったプレイも出来たから結果オーライなのかもしれないが・・。
でも自分もまだまだ出来てないなぁ・・・、と頭をかいていたら、
横からスヤスヤと寝息が聞こえてきたので、有楽町はビックリして東上を見下ろした。
あの東上が話しの途中で寝るなんて・・・・よほど疲れたのかもしれない。
特殊なプレイ云々は横においておいても、有楽町に疑われたことが。
有楽町は腰までしかかかっていないタオルケットを東上の肩までかけてやると、
そっと額に唇を寄せて意識のない相手に小さく謝罪をした。

「・・・・ごめんな」


その声が夢の中にまで聞こえたのか、それは分からないが、
眠ったままの東上は有楽町の身体をギュッと抱きしめてきた。
有楽町も同じようにギュッと抱きしめ返すと、
急に瞼が重くなってきたので、そのまま眠りにつくのだった・・・。
いつもと違う香りのする恋人を腕に抱きながら・・・・・。



有難う御座いました。 有楽町みたいなタイプは切れたら怖いかな、と、思い当たり書きました。 と、いうのは建前で、 個人的にネクタイで縛る、的な話しが好きなので書きました! そうなると相手は有楽町しかいません!(副都心でもOKですが) 途中、逆襲されてますが、そこは先輩ということで(笑) うん、でもはやり特殊プレイは先輩相手がいいと思います。 先輩、ごめんよぉ・・・。 2011/9/25 戻る