〜寂しさと愛しさは背中合わせ?〜



本屋に行く途中だった。
途中で、偶然に、そう本当に偶然に、
何気なく通り過ぎようとしたデパートのおもちゃ売り場で偶然見つけた。
多分、アイツが一緒に住んでいる子供にあげるクリスマスプレゼントを選びにきたんだろうな。
生活が苦しくてもそういうところは割りとしっかりやっているようだし。
誕生日とか、クリスマスとか・・・・。
あの頑固で意固地で偏屈なアイツもあの子供には甘いんだよな。
一人ぼっちというに相応しいアイツの唯一の家族。

自分がそんなアイツを目で追うようになったのはいつからだろう・・・?
思い出そうとしても思い出せない・・・、
ということは会った瞬間から実はそうだったのかもしれない。


本屋に行く途中だったことも忘れ、熱心にあるおもちゃを見続けるあいつを見つめ続ける。
何をそんなに見ているのだろう。
チラッとのぞき見た顔はまるでガラス細工のように繊細だった。
いつも怒っているアイツのイメージからかけ離れたマネキンのような目。
だけど目の奥の色は何故か悲しげで・・・・。

アイツが見ているものに自分も自然に視線を移していた。

それは有名な動物の小さな人形と可愛らしい家だった。
動物も家も何種類もあり、いくつか揃えると1つのファミリーが出来上がる代物だ。
女の子の玩具でアイツには用のない代物だと思うけど、
それでもマネキンのような顔はジッとそれを見続けている。

アイツが見ているのは大きな暖炉のある家の中に暖かな動物の家族が集まっているようだ。
おじいちゃんがいて、おばあちゃんがいて、お父さん、お母さんがいて、子供がいて・・・・、
今時珍しい大家族のファミリーだ。

その家を見ながらマネキンのような顔で、
アイツの荒れた手がその玩具に伸びた。


・・・その時・・・、わかってしまった。




ああ・・・・寂しいんだ。





いつもいきがって、自分は一人でも走っていけるなんて叫んでいるけど、
本当は寂しいんだ。


本線系統と一人離れ、独りで走り続けるアイツ。
支線はあれども本線に比べれば家族とはいいがたい人数だ。




初めて見るマネキンのような顔で全て分かってしまった気がした。




だから、たまらず・・・・、



おもわず・・・・、



人形に触ろうとしていたアイツを、



一目も憚らず背後からそっと・・・、



抱きしめてしまった・・・・。




こっちの存在に気がついていなかった東上線は大きく身体を揺らしたけど、
自分の存在に気がつくとあのマネキンのような表情は消え、
いつもの不機嫌な顔になっていた。


・・・そんな姿にしらず苦笑が漏れ、そしてなんだか心が締め付けられた。



そんなに強がらなくても良いのに。


ねぇ?東上・・・・?


身体を捩り逃げ出そうとするけど、
うしろからガッチリ抱きしめて逃がさない。



寂しいの?、と聞けば振り向いた東上の目は大きく見開かれた。
そしてやっぱり不機嫌そうに1本増えた眉間の皺にやはり苦笑してしまった。

人目が気になるのか懸命に逃げようとする東上を力の限り抱きしめ耳元にそっと囁く。



「・・・・もう東上は独りじゃないだろ?、・・・だから寂しくないよ」
「・・・・!!?」


ね?と笑ってやれば東上の顔が見る間に赤くなっていった。
そして目線を逸らしながら、

「・・・寂しくなんかねーよ」

と相変らずの憎まれ口だったけど、
だけど東上の自分より小さな荒れた手が、
自分の制服をしっかりと握り、
そして拗ねたような顔で、消え入りそうな声で、

「・・・・サンキュー」

と、言ってきて、そのあとに続いた言葉に更に胸が熱くなって、
東上も自分と同じ気持ちだったのが嬉しくて、
自分も同じ気持ちだよ、と告げたときの不器用そうな笑顔が可愛くて、
本屋に行くのも仕事に戻るのも忘れてもそのままお持ち帰りをしようとしたら殴られて・・・、
でも東上の目はもうマネキンではなく命が灯ったみたいだったから、
今回はそれでいいか、とキスだけでアイツを開放した自分を褒めてあげたい。



でも初めてのキスは触れた唇以上に心が熱くなった・・・・。



有難う御座いました。 有線で「薔薇が咲いた」が流れていたのでなんとなく思いついた文。 「寂しかった僕の心が明るくなった」という部分を聞いていて、書きました。 相手はご自由に想像してください。 けど、場所は東武百貨店だと思われます。 シルバニ●ーファミリーが売っているかは・・・知りません(笑) 2010/12/23 戻る