砂上の楼閣。そんな表現がある。
脆弱なもの、崩れやすいこと、実現するのが困難な事柄。

ロック・リーは隣に立っている青年を盗み見た。
小さな窓から吹き込んでくる、砂混じりの風にも目を細めずに、腕組みをして砂の里を見下ろしている人間。
風影と人は彼を呼ぶ。我愛羅は、すぐに呼び名を受け止めて、今では自分の名前を呼ばれても数秒の間を作るようになっていた。
「我愛羅くん・・・」
けれど、リーが呼ぶ時だけは、すぐに首を向ける。
「なんだ」
「ただ、呼んだだけです」
「・・・そうか」
我愛羅が風影になってから、二人が会える時間は当然のように減った。リーとて、任務続きで自宅に帰ることも少なくなっていた。最近では、リーは任務が終っても木ノ葉には戻らず、砂の里に直行するようにしていた。無論、テマリやカンクロウが良い顔をするわけはなく、けれど末の弟で里の長の風影には逆らえない。それなのに、我愛羅がいくら、リーを受け入れるように言ってもそう簡単には首を縦に振らなかった。
そこで、我愛羅は風影の屋敷の近くに、一棟の楼閣を作った。中には簡単な寝台や棚を用意させ、ただの仮眠室だと首を傾げる者に言った。
楼閣が完成して一週間ほど経って、リーが会いに来た。我愛羅はすぐ、ここに青年を案内した。
「里に来た時、使えばいい」
風影直々に鍵を渡されたリーは、当初はためらった。
「ぼくなんかのために、こんな立派な建物を用意してくれなくてもいいんですよ?」
「・・・お前の匂いが残ればいいと思った」
お前がいない時でも、お前の匂いを嗅げれば、おれは満足だ。
鉄面皮の我愛羅は、こんな台詞を臆面も無く告げる。リーが赤面しても、まったく意に介さない。
「嬉しいです」
我愛羅といると、思ったことを全て言った方が上手くゆく。彼には嘘は通じない。すぐに見破られてしまう。
いつだったか、足を怪我して、痛みを我慢しながらも砂の里へ来た。自分では上手く隠しているつもりで、いや、普通の人間ならば絶対に分からなかっただろう。
我愛羅と肌を合わせている最中も、足の痛みよりは与えられる痛みの方が勝っていた。けれど、
「足を見せろ」
唐突に我愛羅は言って、青年の足を持ち上げた。腫れた箇所を確認すると、
「隠すな。おれにはすぐ分かる」
リーがうつむくと、髪の毛を掴まれて目線を合わされ、噛み付くような口付けをされた。
あの時も、本当に嬉しかった。鍵を渡された時も、実は泣きそうなほどに嬉しくて、我愛羅はそれさえも見破った。

「・・・毎日でも我愛羅くんと会っていたいです、本当は」
今日の砂の里はいつにも増して、風が強い。風鳴りが、会話さえもかき消しそうだ。
窓の外を見ていた我愛羅は、ゆっくりと振り返った。すると、青年が顔を逸らす。
「・・・ぼくが我愛羅くんに出来ることってなんでしょうか・・・」
「お前が砂の里の人間になれればいい」
振り返った青年の目が、大きく開かれていた。まさか、なんの迷いも無く我愛羅がそんなことを言ってくれるとは思わなかったからだ。
でも・・・。
「・・・ぼくは木ノ葉を離れる気はありません・・・」
「知っている。お前は、お前の・・・」
愛している里を守れ。
一際強い風が吹いた。我愛羅の顔が、砂煙で霞み、建物自体が軽く揺れた気がした。


(2007/06/07〜12)







どっかで「我愛羅くんはリーくんのために砂のお城でも作ればいいんだよ」とかなんとか言っていたのですが、「あ、本当に作っちゃったよ!!」と自分で驚いた(^^;)。
「楼閣」というのは、まあ、高層建築物みたいなんですが・・・、この話の場合は2階建てくらいのものです。ネットで検索すると、どの程度か分かります。むしろ、アジア圏内に多いものなのかも・・・。
いやぁ、この「砂上の楼閣」と言う言葉を知った瞬間に、話が思いつきました。勉強って大切ですね(おせぇ)。
我愛羅くんとリーくんには、心の隔たりはすでに無いと思いますが、里が絡んでくると、やっぱり一緒には暮らせないみたいです。