細い腕が伸びてきて、背中の傷を撫で上げた。
「ん・・・」
軽い吐息を漏らして、リーは顔を上げた。
「なんですか?」
まどろみを邪魔されて、いささか不機嫌になったようだ。
まるで猫みたい。カカシは薄く笑った。
「なんでもないよ」
狭い寝台を二人で使うのは、やはり苦しい。なのに、いつもいつも、会えば必ず最後はこうなってしまう。この男と肌を合わせるようになって、どれだけ経つのか。理性が無いだとか、代わりがいないからだとか。理由をつけようと思えば、それは風にあおられる木の葉のごとく限りなく湧き出てくる。
けれど、実際にリーとカカシは答えを見つけようとはしなかった。
ぎしり、と寝台が軋んでカカシがリーの隣に入ってきた。壁際を占領するのはいつも男の方だから、むしろ後ろに割り込んできた、と言ったほうがいい。多少、押し出される形になっても、青年は文句を吐かない。
抱きしめられ、カカシの息を背中に感じる。また、まどろみの中に入ろうとした時、ぬるりとした熱い感触が走った。
「ん・・・!」
カカシが今度は舌で傷を舐め上げたのだ。悪寒が頭からつま先まで走る。任務の際に、背中を取られた時と同じ感覚だ。真っ先に思いつくのは、死という単語。
「だから、なんなんですか!」
首をひねってカカシを睨む。
「・・・傷だらけだね」
「え?」
「リーくんは、どこに触っても傷だらけだね」
肩に口をつけて吸い上げられる。歯が当たって、新しくできた切り傷から血が滲んだ。かすかな痛みに眉をしかめたが、リーは身体を反転させると、そっと手を伸ばした。
「・・・カカシ先生こそ・・・」
「ん?」
手は口元にある、大きな傷に触れていた。皮膚は赤黒く、肉は隆起している。なのに、妙になめらかな質感だ。それは、左目の傷と頬から混じりあい、首まで続いている。さらに、反対側の頬にも小さいが同じような傷跡と、唇も刀で切られたのか、いびつに変形している箇所がある。
左側のものは暗部時代につけられたのだと、最初に顔布を外した時に、カカシは教えてくれた。右側の傷はさらに古いらしいが、もう覚えていないそうだ。
「おれのはいいんだよ。こんな傷、取るに足らないよ」
「でも・・・」
「大丈夫。もう痛くないから」
本当にこの人は、どうしてこんな表情が出来るのだろうか。辛いことや悲しいこと残酷なことを思い浮かべるほど優しく笑う。同じような経験をしたならば、おそらく、リーはただ泣くだけだろう。それほどに、正反対の生き方をしていることの表れだ。
「ん・・・」
吐息を漏らした。カカシが全身を舐めるように撫でてきたからだ。ぞくりと、今度は悪寒ではなく興奮が走る。リーの心情を知ってか、男は青年の顔を両手で上向かせた。瞳が熱で潤んでいる。恥ずかしそうに微笑むリーが、本当に可愛いと思った。
「リーくんの・・・」
「え?」
「リーくんの身体で傷ついていないところって、どこだろう?」
考えようとした青年に口付けをした。絡めた舌をもっと奥まで差し込もうとした瞬間、そっと胸を押され顔を離した。
どうしたの? 目で問いかけると、
「・・・カカシ先生の傷ついていないところって、あるんですか?」
先ほどの熱っぽい視線とは正反対の表情で聞かれて、カカシは拍子抜けした。
「・・・さあね・・・」
呟いて、青年の髪をかき上げると、額には小さな傷があった。
「やっぱり、傷だらけだね」
言って、できたばかりの瘡蓋(かさぶた)を啄ばんだ。
「・・・そうですね・・・」
青年は笑うと、カカシの顔の傷を確かめるように舐め始めた。
「体のさ、傷は治るのにどうして・・・」

精神の傷はいつも、いつまでも、一生、永遠に消えてくれないんだろうね?
どうしてでしょうね。

答えはやはり見つからず、二人は苦笑して、再度口付けを交わした。


2007/06/28〜07/02・3





最後、「精神の傷」とカカシ先生が言ったのは、おそらく「心」のことなのだろうけど・・・。
どう考えても、リーくんの手術跡って残るんだろうなぁ、と思って。
NARUTO世界では案外、傷跡があるキャラが多いので、きっと医療忍術でも消えない物は消えないんだろうな〜、とか。
まあ、私のサイトでは捏造なんですけど。カカシの顔の傷なんてのはその最たるものであって・・・。やはり、彼は「ただの美形」で終ってほしくない(なんの主張?)。
カカシの傷はどちらかというと、火傷(やけど)・・・かな〜・・・。っていうか、彼の傷を描くのが楽しくてさぁ(最低だ)。
リーくんとガイ先生はね、やっぱり体術使いだから傷は必須アイテムかと・・・。ガイ先生の拳にも実は傷をずっと描いてるんですけど。気づいた人・・・・・・、いるのか? まあ、どっちでもいいです。
他は、ツナデさまのところの「LLリーくん」なんかもでっかい傷があったり、ね。サイトではまだ発表? してませんけど。