ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、日向ネジだった。
早朝に呼び出され、いつものネジの部屋で、リーはほうじ茶と共に、ケーキを出された。
「これ、なんていうケーキですか?」
「抹茶ケーキだ。アシアリに作らせた」
「・・・アシアリさんて、なんでも出来るんですねぇ・・・」
リーは感心した。
ケーキは、円柱の形をしており、真ん中で切られていて、その間にこし餡が挟まれている。そして、上から抹茶クリームが程よい固さでデコレートされ、ちょこんと割られた板チョコがトッピングされていた。
「美味しそうです」
「美味いぞ。おれも昨日、試食させてもらった。なにしろ、こんな異国の食べ物を作るのは初めてだそうでな。口に合うかどうか、今も心配しているんじゃないか?」
あいにくと、そのアシアリは山を二つほど越えた村に、買出しに行っているそうだ。
「ええと、じゃあ、いただきます」
リーは、皿の横に置かれていた、和菓子用のフォークを手に取った。漆に繊細な蒔絵が施された、日向家らしいものである。 ケーキを慎重に小さく切り、口に運ぶ。
「・・・美味しいです」
うっとりと、青年がため息をついた。
ネジは満足そうに頷いて、自分の湯飲み茶碗を手に取ると、照れ隠しなのかいつもはたてない音を出して、茶をすすった。

ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、テンテンだった。
日向家から帰る道すがら、
「やっと見つけた。ちょっと家まで来て!」
と彼女の家まで引っ張られ、どん! と目の前に出されたのは、またしてもケーキだった。
「これ、なんていうケーキですか?」
「シフォンケーキって言うの。普通は麦の粉を使うんだけど、お米の粉を使って作ってみたんだ」
いそいそと、テンテンは茶の準備をしている。
ケーキは分厚く、山のような形をしている。真ん中には穴が開いていた。そういう型で作るのだそうだ。
「・・・大きいですね、これ。一人では食べられそうにありませんが・・・」
正直にリーが言うと、テンテンはにやりと笑い、
「あたしも食べるに決まってるじゃない!」
と笑った。そして、いったん台所に引っ込むと、右手に大きなボールを持ち、左手に木べらを持って帰ってきた。
「これをかけると、美味しいんだって」
べちゃり、と大胆な音を立てて、テンテンはケーキに生クリームを載せた。
「さ、食べよ?」
一人満足した顔のテンテンがケーキを切り分けた。
どん、と目の前に置かれたケーキは、生クリームのほうが多かった。
リーは金属製のフォークで、ケーキというよりは、むしろ生クリームを掬って(すくって)、口に入れた。
「・・・・・・どう?」
テンテンが、急に不安そうな顔で聞いてくる。きっと、初めてのケーキ作りだったのだろう。
「・・・美味しいです」
うっとりと、青年がため息をついた。
テンテンは満足そうに頷いて、ざくりとケーキを刺すと、生クリームがしたたるそれにかぶりついた。

ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、はたけカカシだった。
テンテンの家から帰る道すがら、
「あ、リーくん。ちょっとさらっちゃうよ?」
いきなりカカシが目の前に現れ、リーの細い体を抱きかかえるとカカシの部屋まで連れて来られたのだ。
目の前には、明らかに出来合いのものであろう、果物がたくさん載ったショートケーキが置かれている。
「・・・ショートケーキですね」
「あ、分かった?」
「・・・誰でも分かります」
リーは部屋を見回した。本棚と、リーが座っている安物のイスとテーブル。ちらりと後ろを見ると、扉があったので、あちらは寝室なのかも知れない。
「まあまあ、食べてよ」
カカシが玄関を入ってすぐのところにある台所から、茶を二つ持って帰ってきた。
リーは疑わしそうに、茶とケーキを見つめて、最後にカカシを見た。
「・・・妙な薬が入っているんじゃないでしょうね?」
「うん、入れた」
「・・・・・・・・・」
「うそ」
リーは茶にもケーキにも手を出す気が無くなり、カカシを睨むことに専念した。
「あのさ、そこまで信用されないと、おれも困るんだけど」
「だったら、普段から常識的な行動を取ってください」
リーに言われ、男はため息をつくと、ケーキの上のフルーツを指でつまんで顔布の隙間から、口に入れた。何度か咀嚼(そしゃく)したのち、ごくりと音を立てて飲み込んだ。
「ね? 大丈夫でしょ? 出来合いだけど、本当に美味しい店から買ったんだよ。食べてやってよ」
「・・・・・・・・・」
ようやく、リーはフォークを手に取った。カカシは顔布の奥で、やった! とほくそえんだ。
青年は小さく小さく、ケーキを切ると口に運んだ。
「・・・おいしいです」
棒読みでリーは感想を言った。
カカシは満足に頷いて、青年の口元についたクリームを拭おうとして、やはり振り払われた。

ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、マイト・ガイだった。
いかがわしいカカシの家から解放された道すがら、
「よう、リー!! やっと見つけたぞ。おれの家に来い!!」
敬愛する師匠のマイト・ガイと会い、喜んで着いて来たのだった。
「先生! これはなんていうケーキですか!」
「パウンドケーキと言うらしいぞ! おれの手作りだ!!」
リーは感心した声を出して、目の前のケーキを見た。
それは20センチほどの長方形で、表面はこんがりと焼けている。見た目にはとても美味しそうなケーキだ。が、しかし。
「・・・ちょっと変わった匂いがしますね」
青年は小鼻をひくつかせた。そう、ケーキからは、なにやら苦そうな匂いがしてくるのだ。
ガイが台所から、皿と包丁を持って来る。リーの真向かいに座ると、ケーキに包丁を入れる。
「う・・・」
一層、匂いが濃くなった。なんとなく、リーはケーキの正体が分かってきた。
ぱくりと、ケーキが真ん中から割れ、断面が見える。色はどす黒く、目を凝らすと、小さなゴミのようなものが見える。
「・・・先生、まさかこれ・・・」
リーの質問に、ガイはにやりとする。
「そうだ、リー! 特製漢方薬入りケーキだぁ!!」
それは、ガイがリーの体調が悪くなると持って来る、とてつもなく食べにくい、数十種類の漢方を混ぜ込んだものだ。いつもは団子の形をしているのだが、今回はケーキに変わっていた。
「・・・・・・・・・」
青年は黙り込んだ。とてつもなく食べにくい漢方の味を、嫌というほど知っているからだ。
「どうした、リー。美味いぞ」
リーよりも先に、漢方入りケーキを食べ始めたガイが、手をつけようとしない弟子を怪訝そうに見る。どうやらガイは、この漢方が好きらしいのだ。
「・・・えっと・・・」
リーがどうにかして、ケーキを食べないようにする方法を探していた。しかし、上手い答えは出そうにも無い。
「・・・最近、任務続きで疲れているだろうと思ってな・・・」
突然、ガイが神妙な声で言い出した。
「え?」
「・・・だいぶ、疲れているんじゃないのか? 顔色も少し悪いし」
「あ・・・」
ガイが青年の額を指で軽く小突く。それだけで、弟子は幸せそうな表情をする。
「・・・おれはお前と、ずっと一緒に忍びをやって行きたいと思っているぞ、リー・・・」
「・・・せんせい・・・」
双方、鼻声である。
「ぼく、食べます!!」
がばり。リーはケーキにかじりついた。
「美味いか? リー!」
「・・・・・・・・・とってもおいしいです」
少し無理をしている声と表情で、リーは言った。

ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、うずまきナルトだった。
ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、はるのサクラだった。
ロック・リーの前には、皿に載ったケーキがある。用意したのは、五代目火影・ツナデだった。

「・・・・・・一生分のケーキを食べたように思います・・・」
夜。やっと家に帰ってこれたリーは、寝台に寝転ぶと、苦しそうに呟いた。
(でも、とても嬉しかったです・・・)
そして、体中を甘くしながら、ゆっくりと目を閉じた。
(皆さん、本当に、ありがとうございます・・・)

ケーキと一緒に、誰もが言ったことがあった。
「誕生日おめでとう!!」


2007/11/29



よっしゃあ!! リーくん誕生日小説、なんとか書けました!!
木ノ葉って、ケーキとかの需要ってあるのかしら? と思いつつ、材料だけはありそうだな、と思って・・・。
あんまり「NARUTO」世界で西洋文化とか出さないようにはしていたのですが・・・。
そして、ガイ先生までもが手作りケーキだなんて!! 「ありかな、これ・・・」と思いつつも、作ってる姿を想像して、なんだかニヤニヤしてしまう・・・(アホ)。
もっと長くして、いろんな人の色んなケーキを語ろうかとも思ったのですが・・・、ちょっと知識不足で断念。一応、我がサイトでの主要人物たちを出してみました。
ん? 我愛羅くん? 多分、誕生日を祝うとかいう習慣は無いと思いますよ・・・? 単に長くなりそうだったのでやめた、というのは内緒です(おい)。
しかし、みんな何でケーキばっかり出したんだろうね(知らん)?