「ぐふ!!」
気持ちよく眠っていたところ、不意に喉に衝撃が走った。
いきなり現実世界へと引き戻された男は、眉をしかめながら目を開けた。普段やらないような体勢で寝ていたため、右腕がしびれている。
飛び込んできたのは、こちらも気持ちよさそうに眠っている青年の顔だった。
しかし、青年の左手はカカシの喉にめり込んでいる。
(こいつ・・・・・・・・・)
男は心の中で悪態をつく。喉に青年の腕を受けたまま、目だけを窓に向ける。カーテン越しに、元気な太陽光線が滲んでいる。
寝台は、部屋を入って左の壁、頭を窓側にして置かれている。壁際を陣取っているのは、いつもカカシのほうだ。
青年の左腕は、寝返りを打った際、一緒に着いて来てしまったらしい。
(いい加減、どきなさいよ)
乱暴に、首に張り付いていた腕を引き剥がし、放り投げる。反動で、青年も今度は右側に寝返りを打った。そのまま寝台から落ちるかと一瞬思ったが、
「ん、んに・・・」
青年は妙な寝言を発すると、少しだけ身じろぎし体を仰向けにした。数秒後、また静かな寝息が聞こえる。
(器用な子だなぁ・・・)
すっかり眠気が吹っ飛んでしまったカカシは、寝たままで青年を観察することにした。どちらにせよ、起きる時間までは余裕があるし、昨日の疲れがまだ残っていた。右腕のしびれが取れないので、少しだけ動かすと、血液の巡りが良くなって、ちょっとは楽になった。
カカシや他の忍びが住んでいる官舎の寝台は、なにを想定してか、二人で寝るのにも充分な幅と造りをしている。
(誰かと寝るなんて久々だから、窮屈に感じるなぁ・・・)
青年の寝顔をぼんやりと見ながら、やはりぼんやりと思う。
二人の寝相が悪いのか、昨夜肩までかかっていた、薄い掛け布団は腰の位置まで下がってしまっている。それでも寒さを感じないのは、季節が変わったのか二人の体温のせいなのか。
(・・・なんて思うのは、おれも歳を取ったってことかねぇ・・・)
カカシは大きなあくびを一つした。青年はまったく起きる気配が無い。
視線をリーの顔から少しずらして、今度は胸を観察する。胸の大きさで悩んでいる女性が、少しだけうらやましがりそうなほど盛り上がっているそこは、呼気に合わせて規則正しく動いている。
腕を伸ばし、青年の胸に置いてみる。温かいというよりは、熱かった。手に神経を集中してみると、彼の心臓の鼓動が伝わってくるような気がした。
男はそこで、自分がちょっと妙な気持ちになっていることに気づいた。朝の生理現象は当に収まっているから、これは純粋にカカシの気持ちなのだろう。
(どうしてだろう?)
この子には、なんでもしてみたい、させてみたい、もっと触りたい、触らせたい、この子から何かを感じたい、おれから感じさせてみたい、一緒に笑いたい、笑わせてみたい、泣かせてみたい・・・・・・。
リーと居ると、ありとあらゆる感情を思い起こしてしまう。
どこかで、自分自身が必要ないと思って置いてきたものを、リーが満面の笑顔で持ってきてくれるような。
恥ずかしくなるほどに、純粋な気持ち。
「・・・・・・・・・げほっ」
青年の寝顔を見ながら、そんなことを考え、不意に我に返り、咳払いをした。
「・・・・・・ん〜・・・」
リーが寝返りを打った。
「ぐふっ!!」
天罰かどうなのか知らぬが、またしても青年の腕が、またしても喉にめり込んだ。
「・・・こいつ・・・」
今度は小さな声で言うと、リーの腕を握った。
「・・・い・・・せん・・・」
青年は寝言を呟くと、頭だけ寝返りを打った。ごり、とカカシの腕が不愉快な音を立てた。痛みに眉をしかめる。
(・・・・・・今度から・・・、今度は腕枕はやめよう。よし、そうしよう・・・)
男はリーの頭の下に置きっぱなしの自分の腕をぼんやり眺めた。昨日、半ば無理やりに一緒に寝ることを提案して、さらには腕枕まで強要したことを、やはり男は後悔していた。
(今度は・・・、寝返りが打てないように、身体を拘束しよう。そうしよう・・・)
男の不埒な考えとは裏腹に、リーは少しだけ笑ったような顔で、幸せそうに眠っている。


2008/03/14〜4/09・10・11




カカシは乙女。星座がまず、おとめ座(関係ない)。
個人的に、この人はまだ「子供の心」が、存分に残っているような気がする。「少年の心」ではなく、「子供の心」。
だから、割合、人間関係には疎いような表現になってしまう・・・。
世慣れた感じはするんだけど、やっぱり怖いわ、この男・・・・・・。
ほんで、「なんでリーくんと一緒に寝てるの?」とか、本当は説明する文章もあったんだけど、そこは見る人に考えてもらおうかと(逃げ)。
皆様の「妄想力」で、お願いします(なにが?)。