指先に違和感。
「?」
小首を傾げて、さらに指で探る。確かに、感じる。
「どうした?」
床に胡坐(あぐら)をかいて新聞を読んでいた男、マイト・ガイが振り返らずに言った。
ロック・リーは、ガイの背中にもたれかかっていた。男が新聞を読んで相手をしてくれない腹いせのように、先程から指でガイの顔をいじくっていたのだ(無論、遠慮がちではあったが)。
リーは、ガイの髪の毛に指を突っ込んでいる。いつもは決して見えない場所、耳だ。右耳の上のほうをつまんでいる。
「先生の・・・、先生の耳・・・」
疑問を感じながらも、なぜか髪をかき上げて確認しようとしない。
ガイは笑って、リーの手を優しくどけると、
「ほら、これだろう?」
自ら手で髪をかき上げ、右耳を露(あらわ)にした。
リーは合点がいった表情で頷いた。
ガイの右耳、上のほう。ふちの部分が、五ミリほど綺麗に削れていたのだ。直接見てみれば大したことのない傷だが、指で触れると大怪我の痕に思えた。
「いつだったか・・・。手裏剣だか刀だかを避けた時に、な」
笑ったガイの顔は、どことなしか恥ずかしそうだった。おそらく、忍びになってすぐの時につけられた傷なのだろう。覚えているからこそ、言葉を濁しているように感じた。
そのことに気づかなかったように、リーはガイの傷を触る。
「リーよ?」
「はい、なんでしょう!」
ぼんやりとしていても、敬愛する師匠の声にはすぐ反応する。
「・・・・・・こんな傷跡まで真似したい、なんて思わないでくれよ?」
ガイの静かな諭しに、言葉が詰まった。
少年は、ガイにこれでもかと言うくらい、憧れていた。
太く強い骨、押しても引いても切れない筋肉。神経、細胞、脳髄に至るまで、ガイの全てが己の夢の全て。
だが、それが師匠の顔を曇らせる、唯一の事だった。
「・・・すいません、ガイ先生・・・」
ガイが身体ごと、リーに振り返った。口元は柔らかく微笑んでいるが、眉は悲しそうに下がっていた。
リーは師匠の前であったが、自分の両耳に触れた。ガイの表情が、さらに曇った。
「・・・それでも、ぼくは・・・、先生の真似をしたいんです・・・」
二人は、互いに泣きそうな顔で、見つめ合った。


2008/04/23〜05/12・13




久々のガイリーがこんなのって・・・・・・。
初期のラブラブガイリーは一体、どこへ・・・?
しかし、彼の「ガイ先生=(ほとんど)神」という図式は、どんどん大きくなってるな〜・・・。
ほとんど、強迫観念みたいなものなのでしょうけど・・・。
「憧れ=その人になりたい」って思ったことありませんか?

・・・で、オチですが、最初はこっちでした。
興味がある人のみ、反転してみてください。こうやると、長いな!
意気消沈して、柔らかく微笑んでいるガイから離れ、台所へと向かう。なにか飲みたいわけでも、食べたいわけでもなかった。ただ、考え事をするのに、ちょうど良い場所だった。
ガイが自分を気にしているのが何となく分かったが、真正面から顔を見るのが辛かった。
電気も点けずに、台所に入る。
そっと、リーは両耳を塞いだ。音を遮断したかったわけではなく、感触を確かめたかった。
(・・・ぼくにも、ガイ先生のような傷が出来るでしょうか?)
リーの、つるりとしたきめ細かい皮膚には傷一つ無い。
(すいません、ガイ先生・・・・・・。それでも、ぼくは、先生の真似をしたいんです・・・・・・)
それがどんなに師匠を苦しめることになるのかも、重々分かっていた。
泣きそうな顔をしながら、リーはただ、立ち尽くしていた。