「絶対、イヤだってばよ!!」
火影の執務室にこだましたのは、無論、ナルトの声である。こんな語尾をつけるのは、どこを探しても彼しかいない。
少し蒸し暑い日で、開け放たれた窓から、声が零れ落ちていった。
「これは命令だぞ、ナルト」
座り心地の良いイスに座って、半ば予想していたと言う表情で、五代目火影のツナデは返した。側にはシズネが控え、同じ顔をして立っている。
「命令でもなんでも、おれは絶対にイヤだってばよ!」
「隣の奴はそうは思っていないみたいだぞ」
「ゲジマユ!?」
勢い良く振り向いたそこには、ゲジマユのあだ名どおり、太い眉を持った青年が、
「だって、任務ですし」
あっさりと言った。
「ナルト、お前もリーを見習え。なあ、リー?」
にっこりと美しいツナデの笑顔に、ロック・リーは苦笑で答える。
部屋の中で納得がいかないのはナルトだけのようだ。とはいえ、形勢が不利だと分かっても、諦めることはしない人間だ。
「でも、だったら、他の奴に頼めば良いだろ!」
「お前、里の大事な人間をこんな任務に使う気か?」
「だったら、おれだって里の大事な人間だってばよ!! 火影候補が危ない目に遭ってもいいのかよ!」
「ほう? 火影になるのではなく、候補と言ったか。なかなかに現実が見えてきたんじゃないのか、ナルト」
「ぐ……!」
突っ込まれて、ナルトは肩を落とす。
「ナルトくん、大丈夫ですよ。君に危険が及ばないために、ぼくが一緒に行くんですから」
「そりゃ、ゲジマユはいいよな。なんてったって……」
「ナルト! それ以上言うと、私が怒るぞ?」
ツナデが遮った。しかし、リーはいいんですよ別に、と笑う。
「ぼくにはできないことなんですから」
「……そうだな、真実だ。ナルト、リーは必ず、お前を守ってくれる。それでも不満か?」
「……おれが言いたいのはそんなことじゃなくって! なんで、女体変化で、しかもゲジマユと夫婦にならなくちゃいけないんだってことだってばよ!!」
「ぶっ!!」
シズネが堪えきれずに、吹き出した。
「シズネのねえちゃん……!」
絶望した表情のナルトに名前を呼ばれ、彼女は顔を引き締めた。しかし、目の端がおかしさに引きつっている。
「ナルトくん、ぼくと夫婦になるの、いやですか?」
「ちが……」
反対側ではあからさまに落胆したリーを、ナルトは懸命になだめる。ここまで他人に気を使うのは、年にあるかないかで、ナルトの精神も焼ききれる寸前だ。
「……なあ、ナルト。変化の術が得意なお前でないと、成功率は低い任務なんだぞ」
「だからって……」
「お前が行くことで、どれだけの人間が救われると思うんだい?」
ナルトが喉を鳴らす。
もう少しで陥落とばかり、ツナデは真剣な顔を作り、机に豊満な胸を押し当て身を乗り出す。
「ナルト、いや、ナルコ!! お前しかいない!」
「……分かったってばよぉ」
半泣き状態で、ナルトは了承した。
シズネがまたしても堪えきれずに噴き出し、その場に座り込んでしまった。ナルトが笑い事じゃないと、地団太を踏む。ツナデは満足そうに頷いて、任務の辞令を書き始めた。
三人三様の反応を見ていたリーが、ぽつりと言った。
「ぼく、胸はあまり大きくないのが好みです」
三人の動きが止まった。
開け放たれた窓から、風が優しく吹き込んだ。


2007/07/30?〜2008/05/25



たまにはこんなのもいいですね。
もちょっと長くなる予定で書いていたのですが、最後のところで見事にオチたので(この話自体が導入部でしたが)。弱冠の手直しはしています。
ナルトになら、こんな任務が来ても面白いかな、と思いまして。他の人の変化の術、見てみたいね〜。…………カカコ…………が、頭をよぎった。いかんいかん。
リーくん、今回はオトボケ役です。
最後の最後で自分の願望を言い放つとは……!!