リーが水の中から顔を出した。三日月のように裸の上半身を反らして水を払い、そして岸辺を振り返る。そこには、赤茶色の髪の毛の青年がいた。
「気持ち良いですよ、我愛羅くん」
呼びかけても、青年は言葉も笑みも返してはくれない。だが、視線だけはリーをずっと追っていた。
二人は、砂の里近くのオアシスにいた。ただの水溜りや、泥のオアシスもあるが、ここは木と草があり透明な湧き水を湛えていた。数人が水浴びするには、丁度良い深さと広さだ。
木ノ葉の里の任務を終えたその足で、我愛羅に会いに来たリーは、お世辞にも清潔とは言えない格好だった。泥にまみれた服に、誰もが眉をしかめた。
普段から人の身なりなど気にしない我愛羅は、すぐさまリーに擦り寄ってきた。リーは我愛羅を押し留めて、水浴びをしたいと申し出た。我愛羅は数秒考えた後、リーと共に里を抜け出した。
オアシスに着いて、すぐさま下着姿になったリーは、水へ飛び込んだ。汚れた服も、オアシスの端へ浮かべておいた。それだけで、十分に泥は落ちる。
「……今頃、砂の里は大騒ぎになっていないですかね?」
砂の里の長、風影でもある我愛羅に聞く。
「かまわない」
「本当ですか?」
「お前が水浴びをしたいと言った」
里を抜ける理由など、それで十分だと言わんばかりの答えだ。
「我愛羅くんも入りませんか?」
リーが、立ったままの青年に呼びかける。
すると、我愛羅はいきなりオアシスへ足から飛び込んだ。面食らったリーの元へ、ざぶざぶと水を掻き分けて近寄る。
「服は脱ぐんですよ!」
慌てて我愛羅の服に手をかける。子供のようにじっと、服が脱がされるのを待っている我愛羅に、苦笑してしまう。
「……ぼくは我愛羅くんの付き人じゃないんですよ?」
呟きに、いち早く反応した我愛羅が、リーの肩に鋭い歯で噛み付いた。痛みに小さな呻き声を出すと、甘噛みに変わる。
怪訝に、我愛羅の頭を見下ろすと、
「そんなこと思っていない」
はっきりとした否定が返ってきた。
上半身だけ裸になった我愛羅が腕を伸ばして、リーの体を掻き毟るように撫でる。
そっと、リーが我愛羅の体を押し返す。普段と何も変わらない、薄い色彩の両目を覗き込んで、頬を両手で包む。
「分かっています。我愛羅くんはいつも、ぼくを思っていてくれます」
言って、目を開けたまま、短い口付けをした。
顔を離すと先程から自分を追っていた、冷たい色彩の燃える瞳が自分を見据えている。
「……砂の里、大騒ぎになっていませんかね……」
再度、風影でもある我愛羅に聞く。
「かまわない。お前と居たい」
返事は、先程と少しだけ変わっていた。
オアシスが、二人ぶんの熱に応えるように鼓動していた。


2008/06/01



めっちゃ、恥ずかしい!! なにこの二人!?
オアシスネタ、好きです。
砂漠に突如現れるオアシスって、やっぱり不思議(原理は不思議でも何でもないけど) あの情景が。
書くにあたり、ちょっとオアシスとか砂漠のことを調べて、勝手に、「砂の里は無塩砂漠だ(オアシスの形成が簡単というか、水が導入しやすいって言うか)!!」とか。あと、オアシスの砂の状態にもよるみたいですけど。
とりあえず、砂漠に住んでいる人はオアシスを生活の拠点にするのでしょうが、まーその辺は、ね……。
そもそも、砂の里のお水事情ってどうなってるんだろう……? お風呂はどっちかっていうと、沐浴(宗教的なものではなく)に近いものだと考えるのですが。