嫌だと言っているのに、ガイは肩に乗れと言い張る。
それを見ていたテンテンが笑い、ネジは呆れた目を向けている。
「せっかく外に出られるようになったんだ。でも、長時間は歩けないだろう?」
「そうですが……」
リーは渋る。着物の少年は、松葉杖を突き、左の手足には包帯が巻かれている。
その日は天気がとても良かった。リーを散歩に誘ったのはいいとして、体を思えばそれが得策なのだ。
「でも、ガイ先生。肩車と言うのは……」
「おんぶの方がいいか?」
ガイはすでに膝を折って、リーが体重を預けるのを待っている。その横を、病院から出てきた人間が、くすくす笑いながら通っていく。
中忍試験で重い傷を負ったリーだったが、今日、ようやく三時間の外出を許可された。松葉杖を突いているリーを心配したガイが、肩車をしてやろうと言い出し、かれこれ数十分、こうして押し問答しているのだ。
「おんぶとかそう言うのではなくて……、むしろ、ネジの方がいいんじゃないかと」
リーがネジを振り返る。大人に肩車されるなり、背負うなりしてもらっては、自分がもっと幼く見えてしまう。ならば、同年代の方が格好はつく。
「ばかを言うな。なんで、おれがお前ごときを、担がなくちゃいけないんだ? 子供は子供らしく、大人に甘えろ」
ガイとテンテンに説得されて、いやいやながら散歩に付き合うネジは、案の定、吐き捨てた。だが、テンテンはその横顔を見て、ころころと笑った。ネジの白い頬に、かすかに赤が差しているのが分かったからだ。
「リー。なんなら、あたしがおぶろうか?」
テンテンはにやにや笑いながら、申し出た。が、それはさすがに全員が止めた。
「ほら、外出時間がどんどん過ぎていくぞ、リーよ」
ガイは大きな背中の裏で言った。テンテンがリーの松葉杖をそっと受け取って、促す。ネジは黙って空を見上げている。
じゃあ、と小さく言うと、ガイの肩に足をかけた。
立ち上がると、慣れない体勢だからかリーは慌てて、その頭にしがみついた。ガイはもろともせずに歩き出す。そのすぐ後ろをテンテンが、さらに数歩置いて、ネジが続く。
さすがに、市場や演習場は避けて通った。と言うよりは、リーとネジが大反対をしたからであるが。そうなれば、歩くのは里のはずれの遊歩道や、川べりになる。
リーはいつもより高い目線で里を見渡していた。そして、なにかあるごとに先生、先生と声を上げる。
「ガイ先生、あそこですよね? よく、修行しましたよね」
「ああ、大岩を三十分で砕いたな」
快活に笑う二人の後を、テンテンとネジがゆっくりと着いて行く。
「退院したら、またやりましょうね、修行」
リーが大声で宣言する。もちろんだ、とガイも答える。テンテンとネジが顔を見合わせて、肩をすくめる。
「……ぼく、また修行できますよね?」
ぽつりと呟いたリーの言葉は、誰もが無視した。否、戻ってくると思っているからこそ、無視した。
リーもそれを感じ取ったのか、ガイの頭に頬を押し付けた。
「どうした? リー」
優しくガイが聞く。
「なあに、甘ったれてんのよ、リー」
テンテンが笑う。
「……」
ネジは無言で、リーを睨む。
「……なんでもありませんよ」
いつも通りの三人の感情が見え隠れして、言葉が詰まってしまった。
その泣くようなリーの声も、三人は無視した。
散歩は続く。四人は、当て所(あてど)も無く歩き続ける。


2007/01/06?〜2008/08/07