「まったく、つくづくお前はどうしようもないな」
ネジが冷たく言う。
「まあ、いいじゃないか! みんなこうして集まってるんだしな!」
ガイが豪快に笑いながら言う。
「ねー。ネジ、ガイ先生、甘酒飲むー?」
テンテンが台所から言った。
「…………」
そしてリーは、積み重ねられた布団に押し潰されながら、無言だった。
頭が鐘を打っている、喉は痛くて声が出せず、絶えず咳が出る。分かりやすい風邪の症状だ。
いつもならば一人で寝ているのだが、今日だけは家に客が来ている。師匠のマイト・ガイと、日向ネジとテンテン。 三人は、白いマスクを着けて(無論、飲食をする時は外している)、リーの家に居座って好き勝手に過ごしている。 リーは熱い甘酒を美味そうに飲んでいる三人を、ぼんやりと見ていた。
(どうして、ぼくはこんな日に風邪なんて引いたんでしょうか)

リーが熱を出したのは、昨日のことだ。日が沈むまで通常通りの鍛練をこなしていたが、帰る頃になってリーは自分の体の不調を訴えた。
それ以前にも咳が出たりはしていたが、誰も特に気にも留めていなかった。
ガイは大きな手でリーの額を触ると、すぐに言った。
『…………おぶされ、リー』
リーを背負い、風の速さで木ノ葉病院まで行き、医師には、
『君ね、鈍感なんだか知らないけど、もう少し自分の体のこと顧みてね』
と呆れられながら、薬を渡された。

「どうだ、リー? 少しは楽になったか」
甘酒を飲み終えたガイが、マスクをしてリーに近づいた。
リーは熱で潤んだ目で頷いた。実のところ、薬が効いている実感はあまり無いが、心配をかけたくなくてそうしてしまう。 ガイは優しく微笑むと、リーの額を撫でる。眠気が襲ってくる。
「だから、日向家特製の風邪薬を飲めと言ってるのに……」
ネジがその光景を見ながら、ぶつぶつと文句を言う。
「えー、あれ、ネジでさえ不味いって漏らしたことあるじゃん。そんなもん、リーが飲むわけ無いでしょ? あ、ねえ、みかん食べる?」
先程から、台所と居間を行ったり来たりしているテンテンが言う。彼女はリーの家には無い様々な食材を持ち込んでは、適当に料理をしている。
「大体だな、日ごろの行いが悪いから、こんな目出度い日に風邪なんか引くんだ」
テンテンから強制的に渡されたみかんの皮を剥きながら、ネジはさらに文句を言う。
「目出度いってのは、俺に言ってるのか? ネジ」
にやりと笑ったガイを睨みつけて、ネジはみかんを半分、口に放り込んだ。
(ああ、そうでした、今日はガイ先生の特別な日でもあるのに……)
耳鳴りの中、会話を聞いていたリーは、さらに申し訳なく思った。窓から差し込んでくる陽を見る限り、今日はとても天気が良いようだ。
世は一月一日。正月である。更に、今日はマイト・ガイの誕生日でもあった。
普段は年始周りで各々の家に出向くのだが、今年はリーの家に皆が集まった。その意味を知っているからこそ、リーは熱で痛む体を小さく丸めて、おとなしく寝ているのだ。
しかし、おとなしくしているだけあって、眠気だけは否応無しに襲ってくる。うつらうつらとした頭の中、三人の会話がやけに大きく聞こえる。
「……アシアリが雑煮を作って待っていると言うのに……」
「……ねえ、リーが良くなったら、他の班に乱入しない? 面白そうじゃない」
「……俺の誕生日も忘れるなよ、ネジ、テンテン」
いつもならば、会話に加わり、ネジに白い目で見られたり、テンテンに呆れられたり、ガイと抱き合ったりしているのに、今日は違う。
(早く、良くならなくちゃいけませんね……)
早く良くなって、いつものガイ班で、いつものように一年を過ごしたい。
リーはそこまで思って、眠りについた。
起きれば、いつもと変わらぬ日常がそこにある。そう願いながら。
世は一月一日。正月である。


2009/01/05〜06