寝ても覚めてもこの世は悪夢。
ぼくはそう思っていたんですよ。

そんなに顔をしかめないで下さい、ツナデ様。
ぼくはあの時のことを悔やんでも、悲しんでもいないんですから。
むしろ、そのおかげでツナデ様にめぐり合ったようなものなんですから。

ぼくがこの話をする時は、目付きが悪くなる? それはそうかも知れません。
だって、楽しい思い出ではありませんから。

・・・覚えていますか?
いいえ、ツナデ様のほうが鮮明に覚えていらっしゃるでしょうね。
道端に捨ててあった肉片のぼくを最初に見つけてくださったのが、ツナデ様でしたね。
諸国を視察していて、ぼくが育った村・・・、今となっては村だったのか悪漢達の根城だったのか定かではありません。
死体がいっぱいでしたね。生きている人間の方が少ないくらいでしたから。

ツナデ様もぼくが死んでいると思ったでしょう?
血の赤、肉の赤、内臓の赤。本当に真っ赤だったのでしょうね。
そうなる前の記憶は、幸いにもあまりありません。
けれど、あの時、空気が変わったことだけは覚えていますよ。

邪魔だったのでしょうね。
ぼくのような子供は。略奪の際に連れて行けるほどの年齢でもなく、炊事洗濯ができるわけでもなく・・・。
・・・そうすると、まあ、やることは絞られてくるわけですが・・・。

え? いいえ、あんなやつらの手が気持ちいいなんて思ったことないですよ。
今はツナデ様の肌が一番、心地いいんですから。

・・・叫び声をどう上げたのか、ぼくにはやはり記憶はありません。
内部に腕を突っ込まれて・・・、話す必要はないですか?
そうですよね、あの姿を見ればなにがあったか、大抵の人間は分かるでしょうね。

息をしているとは思わなかったでしょう? ぼくも、目が覚めたときにはいぶかりましたから。
悪夢が続いているのか、そして、ツナデ様のことも地獄の使者と思ってしまいました。
・・・ごめんなさい。そんな悲しそうな目をしないでください。

あの時は、誰も彼もが亡者に見えていたんですよ、ツナデ様。
そして、本当に皆さんに迷惑をかけてしまいましたね。
大兄(おおあに)様は、今でもそのことをチクチク言うんですよ。
心配されていることは分かっていますが、あの人はしつこすぎます。

そのすぐ後でしたね、小さなリーくんと、もっと小さなリーくんがここに来たのは。

「で? お前は今も、この世は悪夢と思っているのか?」
ツナデは、桜色に染まった肌を見せ付けるように、着物を肌蹴ている。
二十畳ほどの和室に、今は二人。床には銚子が何本も転がっている。
かたわらについて、酌をしていたリーは、ゆっくりと顔を上げた。
「そう見えますか? ツナデ様。ぼくがまだ、この世をそんな目で見ていると」
「・・・・・・いいや」
「ツナデ様に出会って、ツナデ様のような主人に仕えて幸せだと、ぼくは思うんです。」
リーの言葉に、ツナデは猪口を膳に戻した。
「いつ、私がお前を下僕にしたというんだい?」
強い光を放つ瞳に射抜かれて、リーは背をわずかにくねらせた。そして頬を赤く染めて、ほう、と息をつく。
「・・・ツナデ様はどうお思いになられようと、ぼくはツナデ様の従者でいたいのです」
少しだけ躊躇したが、リーは甘い匂いのするツナデに擦り寄った。
「・・・ばかもの」
ツナデは、傷だらけの小さな体を、強く抱きしめた。

悪夢から覚めたら、あなたの笑顔がそこにあったんです。


2007/03/24



まずは、Lリーくんの生い立ちのようなものをはっきりさせたくて・・・。
そのほかのリーくんはその辺の村から引き抜いてきたんですよ、ツナデ様が。
「おお! 可愛いな、お前。どうだい? 私の屋敷に来ないかい?」
な、感じで。うーん・・・、犯罪?