ツナデは執務室の大きな机に突っ伏していた。
しかし、ささやかな抵抗も山積みにされた書類で邪魔されていたが。
「ツナデ様、いい加減、本気を出してください!」
手に分厚い帳簿を抱えたシズネが、執務室に入るなり大声で言った。
「ああ? この状況を見て、私に本気を出せと言うのかい?」
ツナデは火影という立場を忘れて、ぞんざいに答えた。
シズネは足元にもうず高く積まれている書類の山や川を器用に渡って、机を手で叩いた。
「ツナデ様が悪いんでしょう! こんなになるまで書類をほったらかしにしたんですから!」
シズネの言っていることは事実である。事務仕事は疲れる、と美貌の火影は自分でも任務を買って出ては里を空けることが多かった。そうでなくても、ツナデは視察と称してぶらぶらと里を出歩くことも多い。結果が、この書類の山だった。
「ああ・・・、帰りたい、酒が飲みたい、賭けがしたい・・・、暴れたい・・・」
「ツナデ様!」
ばんばん。シズネは大きな音を立てて机を叩く。体に感じる振動でさえ、今のツナデには慰めになっている。
「ツナデ様、はかどってますか?」
がなっているシズネの声に紛れて、穏やかな声音が入ってきた。
今日はガイスーツとベストではなく、ロック・リーは濃紺の着物姿だった。
「リーくん、任務明けですか?」
振り向いたシズネは、先ほどまでの怒り顔を笑顔に変えてリーに聞いた。
「はい。昨夜は帰りも遅くて、ツナデ様もこちらに詰めていたそうで・・・、様子を見に来たのですが・・・」
そこまで言うと、リーは口を結んで苦笑した。シズネも同じ表情をして、まだ頑固に突っ伏しているツナデに目線を落とす。
「・・・はかどっていないようですね」
「ああ、リー・・・。私はもう駄目だ。鬼のような数の書類に、鬼のような秘書に・・・。全てに押しつぶされそうだ・・・」
「鬼のような秘書?」
シズネが眉根をかすかに上げた。目から光が消える。
やれやれ。リーは心の中でため息をついた。任務完了報告も兼ねて来たのだが、自分の持っている書類も差し出したら、ツナデは本当に発狂しかねない。とはいえ、シズネやリーにとって、いや、木ノ葉の里にとってこの光景はほぼ日常茶飯事である。
それでも、この悪癖は直る見込みが無いのも、木ノ葉の里にとっては当たり前のことなのだ。
シズネと共に何度か仕事を手伝ったことがあるが、ツナデのあまりの根気の無さに辟易した。体を動かす任務は嬉々として出かけていくのに、それが頭を動かす作業になると途端にやる気を捨てる。
結果、書類に判を押すだけの仕事はシズネに回されることになる(とはいえ、その数は半端ではない)。
「ああ・・・、帰りたい、酒が飲みたい、賭けがしたい・・・、暴れたい・・・」
ツナデは先ほどの言葉を繰り返した。こうなると、完全に彼女の気分はそがれている。つまり、片付くはずのものも片付かない。
「ツナデ様!」
怒鳴るシズネの肩を、リーがやんわりと叩いた。そして、にっこりと微笑むとツナデの顔を覗きこむように話し出した。
「・・・ツナデ様、ぼく、任務に行った先でとっても良いお酒を買ってきたんですよ」
現金なもので、ツナデが目を輝かせて顔を上げた。
「本当か! ロック・リー!」
「はい。それと、とっても賭けの強い御仁とも知り合いになりました」
ツナデは体ごと起き上がった。
「あと、リーくん(M)がぜひ、ツナデ様と稽古をつけたいと・・・」
「なに! リー(M)直々に私に稽古をつけろと! あの頑固で甘えてこないリー(M)が」
ツナデは頬を赤くして喜んでいる。
「リーくん(S)はお手伝いさんと一緒にツナデ様のために、お酒のあてを作ってくれていますし・・・」
「そ、そうか・・・! リー(S)の料理は食えたものではないが、上目遣いに様子を窺う姿は本当に酒のつまみになる!」
その様を思い出してか、酒豪の火影は目をうっとりとさせた。
「それに、リーくん(L)は新技を開発したそうで、今日の夜、ツナデ様に一番に試してみたいと・・・」
「な、ちょ、おま・・・」
ツナデは身もだえして、椅子に背筋を伸ばして座り直した。
「ほ、ほんとうか・・・、ロック・リー・・・」
「もちろん。みんながツナデ様のお帰りを待っているのですよ」
最後の一押し。必殺の笑顔を見せると、ツナデの表情が一変した。
「シズネ! 早く書類を持って来い!」
「・・・・・・はあ」

その数時間後。
ツナデは屋敷に帰って、四人の可愛い小姓たちと、濃密な時を過ごした。


2007/03/20



得意のぶったぎり!
このあとにダラダラ続けると、収拾がつかなくなる時は、ぶったぎりで!!
あと、シズネさんも敬語キャラだったんですね。知らなかった・・・。
リーくんたちからツナデ様へのご褒美。さて、どれが一番お好みですか(聞くな)?