01:そこに住むのは


昔々、深い林の中、そこに一つの高い塔があった。
そこには、一人の長い金の髪を持った美しい青年が閉じ込められていた。
そこに訪れるのは、食事を運ぶ為の使用人と彼をそこに閉じ込めた中年というには
まだ若い男だった。
その男の名はアレク。
青年の名はルイーズと言った。
ルイーズの美しく長い金の髪は、綺麗に編み上げ、それを綱代わりにアレクは伝い昇る。
アレクは彼に『愛』を与えることを約束し。
長い年月、アレクの言う『愛』は与え続けられた。

だが、ルイーズは知っていた。
彼の言う愛は嘘だと言うことを。

そして彼は…

ラプンツェル、ラプンツェルお前の髪を垂らしておくれ

『なぜ拒めなかった?』

彼には自分以外にも肉体関係を持つものが複数いる。
自分の母親だった人間も含めて。
あるとき、自分は彼の与えるもののままに惑わされ12歳になったころ
この塔に繋がれる様になった。
それが、何がきっかけになり彼にそうさせたのか。
そして、自分がそれに従ったのか、今では思い出せない。
それは、さほど苦痛なことではなく。
ただ、あの頃感じなかった虚しさを今は感じるようになった。

『なぜ拒めない。』

この髪があるからだろうか。
彼はこの髪を伝ってくる。髪を下ろさなければ上ってこられないにも関わらず、
彼が詠えば、自ら髪を下ろした。
この長い髪がある限り、何か理由をつけて引き入れてしまう。

切り落としてしまおう。そうすれば…


しかし、彼は上ってきた。断ち切れない…このまま自分は彼に囚われ続けるのだろうか。
「なぜ…髪を切ってしまったんだい?」
「傷んでいましたからね、それにこれぐらいの長さもあれば十分でしょう」
ルイーズは嘲るような笑みを浮かべ、淡々と答えた。
「それでは君に会いにこられなくなってしまう」
それに対して、アレクは感情豊かにとても悲しそうに答える。
ルイーズはそんな顔をするアレクを知っていたから、彼の顔を見ようとはせず、
何処を見るともなく外へと視線を向けた。
泥臭い生活をした記憶はあまりないが、あの土や草の匂いを昔は知っていたような
気がする。それに外へ出たくなるほどの魅力がある訳ではないが
この男と一緒にいるこの場の空気よりは極上なものに違いないと思った。
「そんなことを言って、ここまで上って来たではないですか」
「…鍵を使ってか?なぜ私を拒むようなことをした」
「気まぐれに抱きに来るだけなら、私が手を引き上げる必要はないでしょう。
それに…鍵があるなら、私の手を煩わさずともそれで上ってくればいいんですから」
自分が引き上げなくとも、使用人が食事を運ぶのに使う階段を使って登ってくればいい。
「それでは意味がない。君が私の手を引き上げることに、君から私を引き入れることに
意味があるのだからね」
わかり始めていた。そうすることによってアレクは楽しんでいることを。
「…それで?」
軽く触れるだけの口付けを落としてくる。
「愛してるよルイーズ。これからすることも君は拒むのかい?」
「拒んだら?」
その口付けは、熱をこもらせ濃厚になっていく。
耳元で囁き、耳たぶに舌を這わせ濡れた音が鼓膜を震わせた。
「愛しているものに拒まれもしたら、悲しくてここから飛び降りるかもしれないね」
「また…嘘を…」
嘘だとわかっていても、アレクの手が肌をすべり快感を覚えこまされた体は
その手に感覚を集中させるようになる。
息は次第にあがり、ルイーズは拒むことなど考えもせずにそのまま
与えられる口付けに素直に返すようになっていく。

「私だけが君を愛してる…ルイーズ愛してる」

その言葉は既に、ルイーズには麻薬となって脳裏に響く。

なぜ拒めない。
なぜ拒まない。


なぜ、自分はここから出ようとしない。
出ようと思えば出れるはずなのに…



そして、幸福となるのか不幸となるのか
彼は運命と出会う。







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