アーネスト・デザイア
女は、余りにもあっさりと内通に応じた。
「、過日の書翰に応じて参りました」
凌統配下の副将で、鮮やかな火計に惹かれて請うた。おっとりした顔立で敵を殲滅する様子は、余りにちぐはぐで背中が薄ら寒くなった。其れでも、見過ごせぬ才だと思い関平は内密に書翰を送った。
断るだろうと思った女は、関平の予想を裏切って数日の内に参上した。嬉しさの反面、心を許すには相応の歳月を必要とする人物だと思った。鮮やかなのは、変わり身も同じらしいと感じたからだ。
しかし、思いとは裏腹に関平はに心を許してしまう。其れが恋だと気が付くまで、流石の関平にも大した時間感は掛からなかった。
「関将軍、如何されたのですか?」
其れは、賭だった。
が関平を拒むのならば、もう二度と部下との関係に色恋を持ち込むつもりはなかった。
其れなのに、彼女は又もやあっさりと関平を受け入れた。それどころか、閨事の経験が少ない関平に代わって主導権を握る様子さえ見せた。関平は夢現の心地で、それでも何とか彼女を組み敷く事で男としての威厳を保ったつもりになった。
無論、其れが虚勢である事がに解らない筈はないが、彼女は特に何も言わなかったし態度にも表さなかった。
そういう、外見と余りに反比例の内面に関平は戸惑いを隠せない。自分は彼女に愛情を持っている、のに自分は愛されているのかさっぱり解らないというのは不安だった。だが、女子供の様にわめき立てるのは関平の潔いとする事ではない。黙ってを見守るほか無かった。
は、関平以外に閨事を共にする様な男性が居る様子はなかった。
当たり前だと思いながらも、安堵する気持ちがなかったと言えば嘘になる。は、にこやかな表情をしていながら全く感情の読めない女だったので、男性関係は愚か友人関係も良く解らなかった。幼なじみの星彩ならば、無表情に見える顔からも僅かな心の機微を読む事が出来るのに、何故かの心は見えなかった。
其れが恋の醍醐味と言えばそうなのかもしれないが、それ故心の安まる時は無く、戦場に置いてさえ彼女の姿を探す自分に関平は呆れた。
戦場で凌統に出会った時、関平はの心が乱れるのではないかと或いは寝返るのではないかと思ったが、そんな事はなく彼女は躊躇無く凌統を撤退させた。その淡々とした様子は、何時か自分もああなるのではないかと、反って関平を不安にさせる。けれど、内通しなければ良かったとは考えなかった。関平にとって、のいない生活は最早考えられなかったからだ。
「……なぁ、何故拙者の誘いを断らなかった?」
其れは、情事の後には相応しくない会話だったが思わず口をついて出た。
「何故、とは?」
着物も羽織らず、堂々と煙草に火を付けようとして照らし出された乳房に関平の方が目を背ける。はすっぱな振る舞いだが、関平には其れさえも好ましく思えるので病的だと自覚する。
「質問を質問で返すのはずるいぞ」
子供の様にむくれた関平に、は笑顔を浮かべる。その満面の笑みは、質問の答えを言うつもりが無い事が明白で、関平は諦めた様に溜息を吐いた。
「拙者は……を愛している」
そう言いながら再び覆い被さった関平を、は愛おしそうに眼を細めて見詰めた。
人は裏切るのだ、という事をあなたに教えてあげたいの。永遠に其れを口にするつもりはないけれど。
、生没年不詳。
乱世に身を立てんと凌統の軍に参じた。目立った戦果こそ無いが、常に凌統に従っていくつもの戦に赴き、生き抜いてきた。
計略において卓抜な才を発揮し、並み居る敵の将兵をその明晰な頭脳で打ち破って多大なる戦果を上げた。
の戦歴に置いて最も輝かしい戦績が記されたのは襄陽の戦いである。
敵陣深くへと偵察に赴き、見事的の兵糧庫を発見したのである。此が呉郡の勝利に大きく貢献した。
その知略は、戦場にて対峙していた敵将関平が感嘆の声を上げる程であった。
乱世も終わりが見え始めた頃、は凌統の下を去った。凌統は、右腕と頼んでいたその才と人柄とが自らの下を去った事に深く落胆をしたという。
知略、武勇何れも秀で、知勇を縦横に振るい戦場を制したは、後に知勇兼備の士と評された。
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穢れない者を穢したいと思うのは、誰しもが持っている性だ。
最後の文章は、立志モードクリア後の評価を引用致しました。
2005.09.28 viax