拒絶された心は確かに傷付いていた。

しかしお前の心はもっと傷付いているのだろう。

両親を失い異国の地で生きるお前に、俺は何が出来るのだろうか。

お前の美しく凛々しい横顔を戦場で見る度、その侭抱き締めたくて堪らない。

いつか心を開いてくれるのではないかと、淡い期待に縋っている。

求心

の眼の傷は比較的直ぐ癒えた。

は典医の勧めを断って断り、義眼を入れ様とはしなかった。

夏侯惇同様眼帯をし ――その黒い眼帯は美しい形ではあったが――黒い着物に身を包み、夏侯惇の家臣同様軍人らしい井出達を貫いていた。

夏侯惇は、何度か自分の影を止めるよう進言したが聞き入れられる事は無かった。

は夏侯惇の囲われ者になる事を恐れる余り、夏侯惇の優しさも拒絶していた。

曹操や司馬懿はのその姿を見るたび痛々しく思っていたが、夏侯惇以上に拒絶された身では進言も出来ず見守るしか無かった。

夏侯惇の想いは、曹操や司馬懿からして見れば周りの者が恥ずかしくなるほど解りやすかったが、当のは其の想いに気が付いているのかも怪しかった。

それでも夏侯惇はを寵愛していたし、から心を開いてくれる日を楽しみにしていた。

木陰に佇んでいたの余りの美しさに、夏侯惇は思わず声を掛けたが返事は無かった。

無視はされた事が無かったので、訝しく思った夏侯惇が顔を覗き込むとは眠っていた。

長い睫が白過ぎる肌に影を落とし、僅か覗く細い首が痛々しかった。

女性にしても細過ぎる身体で刀を振る。指も手首も美しいが骨ばっていて、他の部位も大差無く細い事が容易く想像できた。

お前が欲しいと言えば、きっとは死んだ魚の様な覇気の無い目で従うだろう。或いは自害するだろう。

しかしそれでは意味が無い。

お前に微笑みかけてもらいたい。字で呼びかけてもらいたいたい。

その手で俺に触れて欲しい。

其の願いが叶うならば、俺は何でもするのに。

今以上、死ぬほど優しく扱うのに。

お前の心は何も見ないまま、悪戯に歳月だけが過ぎていく。

若いお前に早く幸せになって欲しいと、俺が幸せにしてやりたいと思うのは、感傷や傲慢に過ぎないのだろうか。

「夏侯将軍?」

気が付くとは眼を覚まし、夏侯惇を見上げていた。

「何か御用ですか?」

冷たくは無い。だが警戒した眼差し。

半年一緒に過ごし、やっと得たのがこの眼差し。

他の武将に対するものと比べれば、それでも上等と言える。

だが一目見た時から恋焦がれ、半年以上見守って、なおお前は硬質の侭。

感極まった夏侯惇はを抱き締めた。

身長こそそんなに変わらないが、体格差は否めない。は夏侯惇の腕に捕まった。

「……何時になれば心を開く?」

「無理な事を。曹操は私の両親を殺し、故郷を奪った。そなたはその曹操の従兄弟殿。心を開くなど……!」

「俺は夏侯元譲だ! 孟徳の従兄弟殿ではない!」

は夏侯惇の大声に思わず見上げた。

「俺はお前を愛している。お前が望む事全てを叶えてやりたいと思ってる」

夏侯惇のを抱き締める力が増す。

「俺だけ見てくれ……」

夏侯惇の顔がに近づく。

「夏侯……将軍……」

はどうして良いか解らないらしく、反射的に顔を背ける。

「俺を見ろ……」

夏侯惇の手がの顎を掴み、その侭唇が触れる。

からの拒絶は無い。

*****

相変わらず微妙ですみません。此れから甘くなる筈なんですが。

個人的に夏侯惇のテーマソングは、BUMP OF CHICKENの「dandelion」。

純情髭面オヤジ今回は若干強引? でも次はまたヘタレます。