抵抗してこない唇に浮かされて、舌で少しだけ舐めた。

やはり抵抗は無い侭、身体が僅かに震えた。

名残惜しげに唇を離して顔を見れば、赤い顔で俯いていた。

此処で押し倒したい気持ちを堪えて、言わなくてはと思う。

もうずっと彼方を愛していて、涙が出るほど想っていると。

互心

名を呼んでも俯いた侭だが、逃げ出す感は無かった。

、愛している」

その言葉にの身体がびくつき、より赤い顔になる。

その愛らしさに夏侯惇の心は痛みを増す。

そんな顔をされて諦められる訳も無いのに、嫌われたくない故に強引にはなりきれなくて。

……」

思わず手を伸ばす。どうせ避けられ空を掴むと思ったのに、掴んだのは細い腕だった。

「……なのに」

の声が微かに聞こえた。

「ん?」

「駄目なのに!」

思いの外大きな声にたじろぐ。

「好きにはならないのに! アンタの軍が城に攻め込んで、父は死んだのよ?! 母は逃げ惑う内に訳も解らぬ侭殺されたわ!」

は聞いた事もない大きな声で夏侯惇に怒鳴った。普段の冷静さも欠いている様だ。

「アンタは他の軍人より優しくて大切にしてくれるけど、アンタの軍が両親と故郷を奪ったのよ?!」

涙を零して怒鳴るに、夏侯惇は都合の良い事を考えてしまう。

少しは自分を想ってくれているのではないかと、そんな筈無い事は解っているのに淡い期待を止められない。

「アンタさえ居なければ曹操と刺し違えてもいいのに…!」

その言葉に夏侯惇は混乱する。

夏侯惇さえ居なければ曹操と刺し違えるのに、夏侯惇がいるから出来ない。それの意味する事は何だ?

……俺の事ちょっとは好きか?」

思わず聞いてしまう。

「なっ?!」

の顔が益々赤くなる。

それを見て夏侯惇も吊られて赤面するが、いよいよ答えが聞きたくなる。

「ちょっとは……好きか?」

もう1度訊ねてを見れば、赤い顔に涙が浮かんでいて。

「アンタなんか嫌いだ!」

屋敷内に走って行くを見る夏侯惇は、恥ずかしそうに顔を赤くした。

その顔は肯定の表情で、恋心を煽るばかり。

*****

予想に反し余りへタレていませんね。寧ろ強引。

ヒロインの言う「アンタの軍」というのは夏侯惇の軍ではなく、曹操軍全体を指しています。別に夏侯惇に殺人者のレッテルを貼るつもりはありません。素直にラヴくなってほしいので。

ヒロインだって別に夏侯惇が嫌いなわけじゃ無いんですよ。寧ろ好き。無骨な軍人の癖に自分に死ぬほど優しいから。だけど其れを認められない乙女心と想って下さい。でも次くらいで素直になる予定。