唇に触れれば、唇に熱が宿る。

指先に触れれば。指先に熱が宿る。

其の絹の様に細く美しい髪が、樹海の糸の様に俺の心を緊縛する。

其の美しい姿が脳裏に焼き付いて離れず、眼を瞑れば瞼に其の姿が映し出されるかの様。

妄想の恋人相手に欲情する俺は、穢れている。

自慰

が夏侯惇の寵愛を一身に其の身に受けるようになって半年。

勿論夏侯惇とは仲睦まじく過ごしており、魏将で知らぬものは無い状態だった。

は相変わらず曹操に近付こうとはしなかったが、意外にも諸将とは打ち解け始めていた。

典韋や張遼と特に仲が良いらしく、夏侯惇はしばしば彼らの話をの口から聞く様になった事を嬉しく思っていた。しかし、仲が良ければ良いで悩みは尽きぬもの。午後の鍛錬でからかわれた結果、夏侯惇は益々悩みを深めたようだった。

其の悩みとは、未だ清らかなる2人の関係について。

 ―― 未だ手を出していらっしゃらないのですか? なんと美しくない……!

 ―― 付き合って半年になるというのに…馬鹿めがっ!

 ―― 本当に乙女な事だな。

 ―― ま…まさか元譲殿は初めてなのでござるか?

修練場で散々な目に合った夏侯惇だが、別段初めてでも何でも無い。唯大事にしすぎて収拾がつかなくなってしまったのだ。

元より親の過保護の余り19まで嫁ぐ事無く過ごしてきたに何処まで性的な知識があるのかも解らず、その内そういう雰囲気にでもなる事があれば…と思っていたのだが、そういう雰囲気になっても接吻で蕩けているらしいにそれ以上の事をすると自分の歯止めが効かなくなりそうで不安になったり…結果抱けず終いの侭此処まで来てしまったのだ。

けれど夏侯惇とて初々しい少年ではない。肉欲に押し流されそうになる事も有るが、何しろ愛しくて堪らぬの事ゆえ耐えてきたのだ。

だが限界は近いように思われた。

元より遊郭など好まぬ夏侯惇だが、思わず行こうかと考えた事は此処数ヶ月何度か有った。だが、知ればが悲しむと思い結局自分で慰めていたわけである。

まさか34にもなってこの様な事をするとは……とは夏侯惇の胸の内である。そんな風にの事を想っていると、心だけではなく身体まで熱帯びてくる。

夏侯惇が自身の性器に触れてみれば、すっかり勃ち上がっている。

は先程湯殿へ行ったばかりだから、当分戻ってこないだろう。

仕方なく夏侯惇は着物裾を割って性器を取り出し、自らの手で扱き始めた。

思い浮かぶのは淫らに乱れるばかり。

男など知らぬ身体に、己が性欲を注ぎ込むのだ。

事が終われば、の顔を見るだけでそんな事を考えた自分を恥ずかしく想うのに、猛る身体は有らぬ姿を思い浮かべるのだ。

「……はっ……っ……!」

思わず声が漏れる。

抱きたいのに抱けぬもどかしさ。

「う……!」

夏侯惇は空に性器を放ち、気だるそうに、だが手早く事後処理をした。こんな事がに解れば、気恥ずかしくて堪らぬ。

廊下を歩くの足音に気が付いた夏侯惇は、素早く着物の乱れを直し、何事も無かったかの様にを迎え入れた。

だが愛し合う者の気持ちを想うのは女とて同じ。

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あー……まず謝ります。すみません(土下座)。こんな情けない惇はアリですか?