愛していると囁いて。
優しい彼方の激情を見たい。
触れられた頬が熱い。
彼方の激しい想いが伝わってくる様で。
私を抱いた優しい指先が、僅かに強張る意味を知りたい。
示唆
湯殿から帰ったばかりの部屋は、甘い空気が立ち込めていた。
少し慌てたような素振りの夏侯惇が、いつも優しく迎え入れてくれた。
は男性と付き合った事は愚か、見合いの1つもした事は無かったが、この甘い香が意味する事が解らない訳ではなかった。
夏侯惇が自慰をしている事は、何となく気が付いていた。しかし其れを責めるつもりは無かった。夏侯惇は、を至宝の様に扱い、それは大切にしてくれていたし、接吻以外を無理矢理求める事も無かった。
其れは夏侯惇の優しさを伝えると共に、に僅かな苛立ちを与えた。
猛将と恐れられる夏侯惇は、女に関しては特筆すべき奥手さで、従兄弟曹操の様に半ば無理にでも求めるという事は思いも至らぬ様だった。
とて無理矢理奪われたい訳ではなかったが、僅か足りとも求める素振りをしない夏侯惇をもどかしく思う気持ちが無いわけではなかった。
の気持ちの中にも、夏侯惇に触れたいと言う想いが有った。
其れは秘めた想いであったが、確かにの心を締め上げていった。
無骨な指先が触れるたび、少し乾いた唇が触れるたび、熱い舌が口の中を舐るたび、の胸を苦しくさせた。
夏侯惇にならば、この身を捧げる事も厭わないと思った。
夏侯惇が望むならば、婚姻の約束などしなくとも身体を繋げる事も厭わないと思った。
だが夏侯惇は、を抱き締めた腕を時々強張らせながらも、決してそれ以上求めてくる事は無かった。
それは夏侯惇の誠実さの現れで有ったが、奥手故の戸惑いでもあった。
「温まったか?」
床に腰掛けた夏侯惇が、微笑みながら傍に来たを抱き締めようとする。
少しぎこちない仕草だが、其れが愛しさを増す。
「……元譲」
は意を決して話し掛けた。
「ん?」
夏侯惇の優しい眼差しが、膝の上に抱き抱えたに注がれる。
は、瞬間戸惑う。大事にされているのに、此れ以上何を求める事が有るのだろうか。身体の繋がりが、心の繋がりではないという事は良く解っているのに。
女から浅ましく求めて、誠実な夏侯惇を困らせて…。
けれど、それでも、私は夏侯惇が欲しい。
押し殺した感情を無理矢理引き出した夏侯惇。
それならば、私も夏侯惇の激情を引き出しても許されるだろうか。
「一人で……してた……?」
の真っ直ぐな問いかけに、夏侯惇は身体を強張らせた。
「……え?」
夏侯惇は、冷や汗を流しながら必至で言い訳を考える。
は、少し戸惑いがちに恥ずかしそうな眼差しを投げかける。
「あ……その……俺は……!」
夏侯惇はしどろもどろで言い訳をしようとするが、その様子では肯定したも同然だった。
「元譲……好き……」
は、そんな夏侯惇に寄り添い、首に腕を廻した。
「えっ? あ……そのっ……?」
夏侯惇は戸惑いを隠せぬまま、を抱き締めたがる腕を宙に彷徨わせた。
「元譲……私を、抱きたい?」
夏侯惇は、またも真っ直ぐな問いかけに顔を赤くして俯いた。
「いや……俺は、別に……我慢出来るぞ……」
消え入りそうな声でに応えると、夏侯惇はを力強く抱き締めた。
この腕に抱き締めた華奢な身体に、無理強いする事など何も無い。
夏侯惇は、少し気まずそうにしながらもの髪を優しく撫でた。
「私は……抱かれたいです」
「えっ?」
夏侯惇は、の言葉に顔を真っ赤にさせて見つめた。
「……抱いて下さい」
しな垂れかかってきたを抱きとめながら、夏侯惇は逡巡するような表情を見せ、やがて意を決した表情をした。
「途中で止めてやれるか解らんぞ?」
夏侯惇の真剣な眼差しに、は顔を赤らめながら頷いた。
「元譲の望むままに……」
その言葉を聞いた夏侯惇は、素早くを抱き抱えると床に寝かせ、ゆっくり被さった。暫く見詰め合うと、夏侯惇の端整な顔がに近付く。
改めて見る男らしい精悍な顔立ちに恥ずかしくなると同時に見惚れる。
唇が熱い。
*****
長らくお待たせ致しました。1ヶ月ぶりの更新です。
夏侯惇ヘタレ気味ながらも甘めです。しかも次は強引夏侯惇ぽいです。素晴らしい!(笑)
次は恐らく性的表現を含むと思います。苦手な方の為にお読み頂かなくても10話に続けるように巧くかけると良いのですが。
2003.12.19 viax