縺れる様に抱き合う事しか出来ない。

余裕も無く、唯ひたすら白い肌を求めて彷徨う。

舐める様に撫で回して、快楽で気が遠くなってくる。

嬌声を聞いては意識を取り戻して、一層激しく求めずには要られない。

唯もう君以外見えなくなるまで、ずっとこうしていたい。

千夜愛話

孫堅の私邸は、華美な装飾など無く必要最低限の物を拘って揃えてある粋な造りだったが、城は大層豪奢な造りをしていた。決して華美ではないが、贅を尽くして造られた事が素人目にも一目で解る。

「此の部屋は「殿の部屋」ぽいが、俺の部屋ぽくは無いだろう」

孫堅は苦笑した。

孫子の血を受け継ぐと言う孫堅だが、早くに父親を失った所為か若い頃にそれなりに苦労をしている。名門の出では無い孫堅は、下級公吏から現在の地位を築いた。其れを快く思わぬ者が居るのも事実だが、気にする様な孫堅では無い。

ただ、其れ故雅な事に疎い孫堅は、城内の装飾などは一切を周瑜に任せていた。世に多くの三公を輩出する名門の出である周瑜は、成程大変趣味が良く、城は遠方からの使者に愚弄されたり低く見られる事が無いように装飾し整頓されていた。

「俺の部屋は私邸と同じ様にして欲しかったのだが、使者に信頼を示す為に部屋に招く事も必要だからといわれてな…」

武者者の孫堅は頭も切れるが、根が真っ直ぐなだけに政治的配慮は今一つ得意ではなかった。本心としては自室では呉の王たる事は持ち出されたくなかったが、其れが覇者の務めと言われれば逆らう事も出来ない。結局、私室とは言っても政務室の延長上にあるように思えた。

しかしが其処に居るだけで、何時もの私室とは全く違うものに思えた。私邸と同じ様に完全に心が休まる気がした。孫堅は、寝台に腰掛けると同時にを抱きしめた。

「でも、とても文台様らしい配色ですね」

は、恥ずかしそうに孫堅の部屋を見回してながら言った。

「配色か、多分呉が瑜に言っておいてくれたのだろう」

其れは、余りにも自然に口から出た言葉だった。

「まぁ呉殿は気が利く方なのですね」

「呉は瑜と仲が良かったのだ……?」

其処まで言った孫堅は、突然自分の失態に気が付いた。呉 −呉婦人− は孫堅の亡き正妻の事である。孫権の成人を待っていたかの様に他界した妻を孫堅はとても愛しており、存命中に妾の一人も持たなかった事は余りに有名だ。

も其の事に気が付き、思わず孫堅から視線を逸らした。決して孫堅の言葉に傷付いた訳ではなかった。呉婦人との事は承知で、其れでも孫堅に恋をした。思い出と争うつもりはないし、孫堅が余りに自然に話したのは、最早呉婦人の死を引き摺っていないからだと思った。呉婦人に対する愛情とへの愛情は似て非なるものであり、比較する事が出来るような物ではない事をは良く解っていた。第一、孫堅がに呉婦人の話をした事は唯の一度も無かった。ただ、余りに傷付いた顔で呆然としている孫堅が可哀想で、思わず取った行動だった。

だが孫堅は其れを傷心による行為と受け取った。孫堅は慌てた。孫堅にとって呉婦人は忘れる事の出来ない女性ではある。未だ貧しかった自分を支えてくれたのは呉婦人だった。地方の有力貴族だった呉婦人を娶った後も、孫堅は未だ一官吏に過ぎなかった。其の孫堅を支え、長沙太守となり遠く国を離れた時も家を守ってくれたのは呉婦人だった。孫堅にとって呉婦人は永遠に妻である。を妻に迎えたいと思っていた孫堅だが、其れは呉婦人を忘れたという事では無く、まして呉婦人の後釜という意味でもない。其の違いをきちんと話す事は孫堅には出来なかったが、だからと言ってへの愛が偽りだと思われるのは甚だ心外だった。

「……?」

孫堅が話しかけると、は何時もどおり微笑んだ。

「……俺を責めないのか? 俺はお前に酷い事をした。お前にも呉にも酷い事をした」

は孫堅の其の実直さを愛しいと思った。誤魔化したりせず、だが卑屈にもならない孫堅が愛しかった。其れでこそ身命を賭して愛するに値する人だと思った。自分の恋人がその様な素晴らしい人物である事を誇りに思った。

「私が何を責めるのですか? 私は、呉婦人の代わりに自分が愛されていると思った事など一度もありません」

は自分の気持ちを如何伝えるべきか解らず、はにかみながら孫堅に囁いた。

「好きです、文台様。誰よりもお慕い申し上げております」

孫堅は其の言葉を聞くなりの身体を寝台に押し付けた。ただ愛しかった。決して饒舌では無い孫堅の気持ちを汲み取ってくれる少女が愛しくて堪らなかった。

激しい接吻には必死で応えた。もっと求めて欲しかった。

何度も舌で口内を舐った。孫堅の舌がの小さな口を支配して、は喘ぐ事しか出来なかった。孫堅の着物を乱すほど肩口を強く握った。孫堅もの腰を強く掴んで離さなかった。

やっと離れた孫堅の唇は、熱を持った儘の身体を丁寧になぞりながら舐った。時々、華奢なの身体に浮き出た骨を甘噛みし、其れが何とも言えない快楽を与えた。背筋が妙な感触に震えたが、其れが堪らなく悦かった。 身体を震わせて悶えるに、孫堅が軽く笑った。惚れ惚れする様な精悍な顔立ちが痴態に眼を細める様は、ひどく卑猥ではあったが思わず眼を奪われた。元より容貌にも気質にも惚れ込んでいるは、顔を赤らめて喘ぐしかなかった。

「悦いか?」

態と訊ねる孫堅に、は必死で首を振った。孫堅は微笑むと、一層丹念にの身体を舐った。少し歯を立てながらなぞる様に舐められると、は一層高い声で嬌声をあげた。

は、弱々しく首を振りながら、自分の身体を貪る孫堅の頭を押した。孫堅は笑いながら其の腕を掴み、甘い顔で微笑みながら組み敷いた。

「……文台様」

消え入りそうな声で孫堅の名を呼んだ。何度抱かれても此の顔には弱い。

「嫌……か?」

微笑んだ儘訊ねる。潤んだ眼差しを愛しく思う。

返事を待たず片手で着物の帯を解く。既に衣服としての意味を成さなくなっていた其れは、孫堅の手で取り払われると音も無く床へと落とされた。

孫堅は、自身も上半身を露にするとに身体を押し付けながら乳首を執拗に責めた。は身を捩りながら声をあげた。其の声は、孫堅の愛撫を受ける度に淫らに響いた。満足げに微笑んだ孫堅は、やっと其の手を下腹部へと滑らせた。

既に蜜を零していた其処は、孫堅の指を容易く飲み込んだ。ざらついた内膜を無骨な指が擦りあげると、は孫堅の髪を乱して喘いだ。孫堅は、髪を撫でる指の動きに目を細め、ナカに挿入した指を不規則に動かした。其の儘親指を蕾に当てると、ゆっくり擦り徐々に加速した。は、細い脚を孫堅の身体に絡めて悦がった。

「……悦いか?」

孫堅が再び訊ねると、はコクリと頷いた。孫堅は満足げにの髪を撫でながら、其れでも蕾を擦るのを止めず、部屋はの嬌声に包まれた。

ゆっくりと蕾の皮を剥くと摘むように弄る。は一層高い声をあげて啼いたが、孫堅は其の姿に甘く微笑むだけだ。性器は痛い程勃ち上がっていたが、決して焦る様な事は無かった。

指を挿入しての悦い様に動かしながら、皮を剥いた蕾を丹念に舐った。舌で押し潰す様に擦ると、のナカは激しく収縮した。

引き抜いた孫堅の指は蜜によってすっかり濡れていたが、孫堅は指から蜜を舐め取り、其の姿は言い様も無く卑猥だった。

「文台様……そんな事をしては嫌です……」

は息遣いも荒く潤んだ眼で懇願した。

「嫌なのか?」

孫堅は其の可愛らしい文句に眼を細める。愛しい者を見詰める眼差しだが、其の姿は卑猥極まりなかった。

自らの着物を剥ぎ取った孫堅は、態と勃ち上がった性器の上にを座らせた。孫堅がの腰を支えているので挿入される事は無いが、熱を持った性器がから溢れる蜜を絡み取る様に動いた。

「やっ……文台様っ……!」

はどうして良いか解らず、処女の様に恥ずかしそうに身を捩ったが、其れは返って孫堅を刺激するだけだった。

「今日のは嫌ばかりだな……」

孫堅は、態と拗ねた様な口振りで文句を言った。は困った様に孫堅を見詰めた。

「俺が嫌いか?」

「そんな……大好きです! 誰よりもお慕い申し上げております。」

孫堅は必死な顔でそういうに満足し、刹那ゆっくりとの腰を下ろし、性器を挿入した。

は突然の行為に驚き、孫堅にしがみ付いた。孫堅は片腕をの腰に廻し、もう片腕で頭を抱き抱え接吻しながら抽出を繰り返した。

月明かりが照らす影絵。 妖艶にして絶美な乙女を抱く幸せ。

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今回は若干シリアス? 正史では呉婦人の他に、長沙に出向いていた頃唯一の妾(側室?)がおり彼女が孫朗の母親になる訳ですが、話が混乱するので居なかった事になっております(笑)。従って呉国太も出てきません。呉婦人は本当はパパより長生きなのですが、無双設定なので既に他界している事に致しました。ゴメンナサイ。

2004.03.11 viax