夏侯惇の声が聞こえたが、何と言っているのかは解らなかった。
看病
「全く……」
夏侯惇は器用に梨を剥きながら苦笑いを浮かべた。
「倒れるから一体の何の病かと思えば食中毒か……」
夏侯惇は可笑しくて仕方が二と言うように笑ったが、にしてみれば腹痛は勿論高熱は出るし頭は痛いしで散々だったので、大分剥れている。
「そう仰いますけど、私は死ぬかと思うほど苦しかったんですよ!」
梨を食べようと手を出すと、夏侯惇は皿を高みに持ち上げた。
「未だ駄目だ。腹を壊したんだからお前は少しで我慢しろ。今切ってやるから」
「えー! 好物なのに……」
しょんぼりしたを愛しく思った夏侯惇は悪戯心を出した。
「代わりに俺が口移しで食わせてやろうか」
ほんの冗談のつもりだったが、は真剣に頷き小さく口を開けた。
「なっ……本気か?」
は不満そうな顔をで夏侯惇を見詰めた。
「食べさせてくれるんでしょ? 早くー」
渋々夏侯惇は梨を銜えてに渡す。僅かに舌が触れた。
「じゃー次はねー……」
「未だ何かあるのか?!」
「いーじゃない。偶には甘えたいー」
懐っこい笑みに誤魔化されながら、夏侯惇は此れでいいのか考えずにはいられなかった。
本当はもっと甘えていいんだよ、という言葉を飲み込んで口付ける。
+++++
第十回更新「夏侯惇に甘える話」。ベタに看病とか選んでみました。短すぎてゴメンナサイ。
2004.09.18 [23:21]