その眼は黒曜石のように静かに静かに輝き、肌は白磁の様に木目細かく白い。
異国の血が流れているのか、瞳は僅かに青みがかっている。
曹操は、閨の後疲れ果てて先に眠ってしまうを見詰めるのが好きだった。
傾国
「……美しいのう」
曹操は誰に言うでもなく呟き、その肌にそっと手を置いた。は眼を覚まさず曹操の熱い手にも心地良さそうにしている。
「どんな美しい女を……二喬を並べてさえも、儂の欲望は納まらないが……そなたを見ているともう良い様な気もしてくるから不思議だ」
眠っていても聞こえているのか、は少し嬉しそうな顔をした。
「……儂にそんな気を起こさせるそなたの様な女を傾国と言うのだろうな」
の細い首にてを置いても、は全く動かず、眠りから覚める気配も無い。
「、そなた安心しきっておるな? 儂は姦雄だぞ。恐ろしくは無いのか?」
当然、は目覚めるはずも無く、唯規則的な寝息を繰り返している。
「……可愛い女だ」
曹操は半ば呆れた様に笑い、の隣で眠りについた。
四半時後、は苦笑しながら起き上がった。
「姦雄ねぇ……まぁ言うたら大きな駄々っ子ですわなぁ……」
今度はの指が曹操の頬に触れる。曹操はぴくりとも動かず眠った儘だ。
「孟徳様、起きひんで良えのすか? 私は所詮後宮の女の一人に過ぎひんのすえ。そんなに安心しはって……」
の手が曹操の首を掴む。それでも曹操は眼を覚まそうとはしない。
「……そんなに信用されたら困りますなぁ……ほんまにあかんお人やわぁ」
は笑いながら手をどかすと、曹操の瞼に口付けた。
傾国の美女――国を傾かせ滅びさせるには、女は優しすぎる。
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第十二回更新「曹操」。京都弁の方が遊女上がりっぽくて良いかなぁ、と思った。脳内ヒロイン設定は、滅ぼされた少数民族出身の遊女上がり。なんかもっと手練手管なヒロインにしたかったのですが……。
2004.09.20 [21:43]