「わーい!」
大河へ飛び込んだ孫尚香を劉備は心配そうに眺めていると、左で誰かが飛び込む音がし、慌てて劉備の右手に趙雲が駆けて来た。
「っ!」
趙雲は驚きを隠せず主の前で思わず大きな声を出したが、は聞こえなかったのか孫尚香と笑っている。
「……活発な奥方を持つと大変だな」
劉備は君主ではなく男として趙雲に笑いかけた。
翼
「子龍もおいでよー!」
趙雲の妻・は地方豪族の娘で、何一つ苦労を知らない所為か歳の割りに幼い。趙雲としては武人の妻として困る事もあるのだが、彼女の天真爛漫な雰囲気が支えになっている事も事実だった。
「、小船を下ろすからもう上がってきなさい。孫夫人にもそう言うんだ」
趙雲の声には詰まらなそうに頷き、孫尚香の手を取ると、小船の上に這い上がった。
薄い着物で濡れた二人を、それぞれ厚手の布で包んで拭いてやる。孫尚香は文句を言いながらも嬉しそうに笑っている。しかし、は機嫌が悪い。
「……、もう子供じゃないんだ。少しは弁えなさい」
趙雲は長い髪を拭きながら、愛しそうに細めた眼とは似合わぬ口調で注意した。
「いやよー。は未だ16よ? 偶には遊びたいよ」
はそう言うと濡れた着物の儘趙雲に抱きついた。
「、離れなさい」
「いや。口付けしてくれたら離れてもいーよ?」
趙雲は呆れながらを見たが、当のはにこにこしている。
「……二人きりになったら、いくらでも……」
「だめ、今此処で!」
そう言うとは眼を瞑って趙雲を見上げた。
長い睫毛が光っている。趙雲は青褪めた肌を撫でると、少し顔を赤くしながら口付けた。
「これ以上は駄目だ」
其の言葉にはにっこり笑って頷いた。
呆れ顔で張飛達が眺めている事に気が付かないほど、実はが好きなのだ、と趙雲は胸の中で呟いた。
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第五回更新「甘め」「ほのぼの」。余り書かない人で行こうと思ったら、凄く短くて訳の解らないものに。
2004.09.18 [18:25]