愛しい人に何時も抱かれている、そんな感覚。
蝶々
が朝目覚めると、既に周泰の姿は臥床に無かったが、同時にまるでが目覚めるのを待っていたかのように、周泰と洗い桶と甕を持った女官が現れた。
「……起きたか」
そう言いながらを抱き起こした周泰は、女官に水を張った洗い桶を盛ってこさせると、水が滴る程度にゆるく絹布を絞り、の顔を拭いた。
「……気持ち良いか」
が未だ眠い頭で頷くと、周泰は女官に下がる様に言い、を床へと抱き下ろした。
「……何を着る」
段々と眼が覚めてきたは、眩しい外の陽を感じながら橙色の着物を指差した。
周泰は慣れた手つきで寝巻きを脱がせると、首筋に接吻してから着物を着せた。帯の締め方も流行の通りに結ぶので、は其の器用な手つきに見惚れているばかりだ。周泰は髪も何時も通りに結い上げ、着物に合った少し渋い色みの簪を刺した。
「幼平、好きです」
その言葉に気を良くした周泰は、微笑みながらに接吻をすると、鏡台の白粉など叩き始めた。肌の白いにあわせて瞼の上には濃い色を引き、口紅も濃い目の赤を塗った後、そっと指で色を押さえた。其の指の温かさに、は少し頬を染めた。
「……美しい、な」
周泰は満足そうに微笑むと、を抱きかかえて朝餉の席へと向かった。
部屋には女官達が控えているが、周泰は気にせずの口に食べ物を運び、がゆっくり食べている間に自分の朝餉を食べていた。その濃厚な愛情に最初は女官達も驚いたが、今となっては毎朝の事なので眉一つ動かさず二人を見守る。
「もう、入りません」
が満足そうに言うと、周泰も満足そうに微笑み、女官に軽く会釈をして席を立った。こういった周泰の控えめな態度は、女官の間でも評判が良く、故に幼い恋人を溺愛する様子も悪い噂がたたないのだった。
部屋へ戻ると、周泰は寝所の前室に当たる間にを下ろし、読みかけの書物を取ってやった。
「……俺の居ない間、一人で平気か」
毎日の事とはいえ、周泰は少し心配そうに尋ねる。
「はい、大丈夫です」
の答えに安心したように頷くと、周泰は少し深い接吻をした。そんなに長い時間ではなかったが、は暫し恍惚の表情を浮かべた。
「良い子で、俺を待っていろ」
周泰には似合わぬ言葉に、は少し笑って頷いた。
ようやく安心した周泰は、マントを羽織ると登城の支度を始める。
不在には耐えられない、濃すぎる愛情の感受。
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第七回更新「溺愛しまくりの周泰に愛される」。固定ヒロインとの日常、みたいな感じですが。周泰は意外とお洒落さん。
2004.09.18 [20:30]