は高官の娘だが、笑い方は両家の其れではない。

口をにんまりさせた笑顔や、大口を開けて笑う其の様は、庶民の其れだ。

後宮にあって其の笑い方をする妃は、彼女一人だった。

絶美な容姿をしている訳でもなく、圧倒されるほど明晰な頭脳を誇る訳でもない。

ただ彼女であるという事に価値がある。

唯一

孫策の何人目かの妻であるは、孫策と同じ人種といえた。戦場においては無鉄砲、性格は一本気、細かい事を気にせず、だが為すべき事は弁えている、珍しくバランス感覚を兼ね備えた女性。

後宮においても其の気質は変わらず、正妃の大喬とも仲良く過ごしていた。

閨を共にした後、は思い出した様に呟いた。

「私って強いんだって」

孫策は暫くを見詰めてから、頷いて相槌を打った。

「そうだなー。は強いよな。大喬の苦戦報告は受けてもの苦戦報告は受けないもんなー」

孫策はそう言うとを抱き寄せた。鍛えられた胸板が細い身体を受け止める。

「まぁは戦場でも俺の傍にいるもんな」

子供の様な笑顔。

きっと後宮の女全てを平等に愛しているのだろう、とは思った。持てる物だけが持つ、公平という名の残酷さ。平素天真爛漫なにも翳りは有った。子がいないのならば、せめて孫策の寵愛が欲しかった。

「そうでなくて……私は伯符がいなくなっても直ぐ立ち直れるだろうって……強いから、大丈夫だろうって」

其れは悪口ではなく、寧ろ羨望だった。強く独立した女であるへの憧れ。だがは弱さが欲しかった。弱くある時もあるのだと、他人に解って欲しかった。愛する者がいる以上、其の喪失に痛手も感じず過ごせるとは思えなかった。

には、孫策の死を考えられる女の方が強く見えた。随分一緒に戦場に立っているが、孫策の死など考えた事もなかった。

「……は俺がいないとダメなのにな」

突然孫策がそう言いながらを抱き締めた。

「弱くても強くても、だから好きだ……」

泣きじゃくるの背を、大きな手が優しく撫でた。

「お前だから好きなんだ」

唯独り、彼方の胸でだけ私は泣く事が出来る。

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第五弾「孫策に甘やかされる」。孫策はちょっとやんちゃなくらいが丁度良い。

2004.05.03 [20:40] viax