女は美しく優しかった。

其の優しさに甘えすぎたのだと、今更痛感する。

「もう、無理です」

周泰は其の静かな声に終わりを感じた。

もうどんなに取り繕っても、泣き縋っても、の心を取り戻す事は出来ないのだと悟った。

「彼方の目には仲謀様しか写っていない……下らない嫉妬です。でも耐えられません」

周泰の眼差しは、必ずへと向いていた。しかし今更其れを告げても仕方のない事だった。

「さようなら」

踵を返して自分から去っていく女が未だ愛しかった。未だ愛していた。

最早女にとってはどうでも良い事実が、周泰の心に深く突き刺さった。

「…………」

愛していると、何故言えなかったのだろう。誰よりも大切だと何故言えなかったのだろう。君主と恋人は違うと、何故言えなかったのだろう。力ずくで女の歩みを止めても言うべき大切な言葉だったのに。

後悔ばかり去来する胸が、軽くて重い。こんな想いをするくらいなら、恋なんてしたくないと思う。

なのに何故人は誰かを愛する事を止められないのだろう。寡黙な男でさえ、女の温もりを求めずにはいられない。

+++++

第七弾「悲恋周泰」。周泰視点というリクエストを頂いたので書いたら暗くなった……。

恋愛ジャンキーって素敵。本能に忠実である事は悪じゃない。尻軽とは違うんだ、と力説。血中恋愛濃度低い癖に。

2004.05.03 [22:51] viax