男は生まれた時から恵まれていた。
裕福な家に生まれ育ち、文武を兼ね備え、良い友を持っていた。
男には欠点が無く、其れこそが欠点だった。
美しい妻を持ち、高官として仕え、君主の信頼も厚い。
そんな男の恋した相手は、初めて敗者の感情を味合わされた男の妹だった。
恋慕
好きだ、と今日何度目かの小さな溜息。呉の水軍を預かる周瑜にとって、目先の恋愛で対大局が見えなくなる様な無様な真似は何としても避けたかった。
しかし、あの横顔が忘れられない。
諸葛亮の隣で、穏やかな表情で軍を指揮していた武将。仇敵諸葛亮の妹でというらしい。兄二人には似ず武に優れており、未だ足場の定まらない劉備にとって、数少ない勇猛な武将の内の一人だという。
周瑜には妻が居る。正妻小喬の他にも、数人の妾を囲う身だ。にもかかわらず、今どうしてもが欲しいと思う。妙に落ち着いた影のある美貌が、周瑜の頭をちらついて離れない。
「……美しい方だった」
其の姿を忘れられず、だが手に入らぬ苛立ちから、諸葛亮への怒りがまた沸き上がった。
が諸葛謹と一緒に呉へ降るのは、また別のお話。
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第八弾「周瑜の片思い」。苦手なので1時間で考えるのは厳しかった……見事玉砕。上手い事話が思い浮かばず、「王様のレストラン」の様なオチになってしまいました。
2004.05.04 [01:11] viax