五虎将の一人、馬超。

西涼より蜀に下った彼は、その際一人の女を連れてきた。

馬超の軍師にして恋人だという女は、遊牧民の血が入っているという。

女は、馬超同様異民の血の所為か人目を引く華やかな容姿をしていた。

二人が寄り添う様は、まるで幻想の様に美しかった。

従えるは錦馬超

女の名は

あの錦馬超が後宮を整理しても欲したという彼女は、才色兼備の相応しい美女であった。

馬超の望み通り、彼女は素晴らしい恋人でもあった。

馬超はと離れる事を嫌がり、寝所は勿論戦場でも離そうとはしなかった。

の武はさして取り上げる程のものでは無かったが ―寧ろそれは戦場で辛うじて兵卒から身を守る事が出来る、という程度のものだった― それでも馬超は天幕の中でさえ彼女の不在を許さなかった。

その執着ぶりに、周りの者は半ば呆れながらも馬超を諌めた。

しかしは馬超の狂気にも似た寵愛を甘んじて受け続けた。

曹操によって愛妻を殺された馬超が、蜀に下った今ですらその事で自分を責めているのは知っていたし、を前妻の二の舞にはすまいという固い決意である事は痛いほど良く解った。

故に息付く間もないほど濃密な馬超の愛情も愛しい限りであり、疎ましく思うことはありえなかった。

五虎将を始め蜀の武将達が調練をする中、は椅子に腰掛け唯馬超を眺めていた。

調練には不似合いな美しく着飾った女性に、武将達が視線を向けない訳は無かった。

白い肌に良く映える黒地の着物には、薄い紅色で絢爛な刺繍が施されており、に良く似合っていた。

馬超は時たまに眼を向け、其の美しい姿に満足げに頷いた。

武将達は、そんな馬超に呆れると共に羨ましさを感じる。

呂布と並び立てられる剛者でありながら、心底愛してくれる女性もいる。

乱世故の保身でもなく、馬超の地位や見た目に目が眩んだでもなく、馬孟起という男を唯ひたすらに愛してくれる女性。そんな女性を妻に迎えられた馬超に対する羨ましさは、同時に馬超という男の魅力を高めた。

。」

調練が終われば、馬超は極当然の様にの身体を抱き上げた。

華奢な身体が抱き上げられる。

「お疲れ様で御座いました。」

は、鎧を外した所為で乱れた馬超の髪を直す様に撫でた。

逆光で影の様に見える二人の姿は、まるで作られた様な美しさを湛えていた。

「今日は然程つかれておらん。」

「どうしてで御座いますか?」

「子龍殿は細腕だからな。」

散々趙雲と競り合った事など無かったかの様に告げる。

「嘘を申しませ。腕が少し震えておりますよ。」

がふわりと地面に降りる。

蜻蛉の様に儚い身体だが、其れを支える馬超の腕は確かに調練の疲れから震えていた。

「すぐ強がるのですから…」

は笑いながら馬超の腕を取ると、武将達に頭を下げ調練場から去った。

残された武将達は、その微笑ましい会話に思わず笑みを浮かべていた。

従えるは錦馬超。

最強にして最愛の護衛兵を連れて歩くは女の喜び。

*****

桜瀬夏月様に捧げる5000踏記念夢。

初馬超夢ですが、何やら意味不明な印象が拭えません。ヒロインの出番が少ないし。

「馬超がベタ惚れ」という事が解って頂ければ良いのですが…。

夏月様、拙い文章ですが貰って頂ければ幸いです。

2003.11.16 viax