まるで歩き出したばかりの子供の様に、何処へでも歩いて行くから彼女の事が心配で堪らない。
少し眼を離せば、転んでいたり、花を摘んでいたり、他の男を見ていたり。
他意は無いと解っていても気になる。
俺だけ見て欲しいと言えないから、閉じ込める様な真似をする。
君の全てを独り占めしたい。
― 耽溺 ―
「幼平」
声を掛けて来た3人組(孫権・孫策・甘寧)に、周泰は肩をびくりとさせた。
振り返れば3人ともニヤついている。
「連れて来てるんだって?」
孫策が薄笑いを浮かべて言う。
本来登城の際に恋人を連れてくるなど周泰の好む所ではないが、たまにはを外に連れ出すべきだと女官に厳しく言われた所為で、連れて来ざるを得なかったのだ。
「見せろよー!」
甘寧は周泰を小突く。
周泰は冷や汗を流しながら困っている。
「何処に居るんだよ?」
孫策が可笑しそうに言う。
「……二喬様と一緒に」
周泰は渋々答える。
小喬・大喬の部屋の前に行くと、小喬の賑やかな声が聞こえてくる。
何となく面白い事になるんじゃないかと、甘寧が周泰を押さえ込み3人(4人?)で格子戸から覗き込む。
「周将軍の恋人なんでしょうっ?!」
ハイテンションな小喬に、は少し眼を丸めながら頷く。
「幾つ離れてるんですか?」
大喬が思い出したように訊ねる。
「……14歳です……」
周泰と同じ寡黙な答え方。
美しい容姿と寡黙さがあいまって、か弱い華の様ですらある。
「そんなに違わないんだねー」
小喬は改めてを見詰める。
自分より年下の子は久しぶりに見る。
自分や姉とは顔の造作が違う。どちらかと言えば夫である周瑜に近い顔立ち。
血管の蒼さが見えるほど白い肌、すっきりとした大きな眼、彫刻の様に創り込まれた美しい顔。
子供染みた顔立ちを気にしている小喬は、羨ましそうにを眺めた。
「ご結婚は為さらないんですか?」
大喬が訊ねると、は顔を真っ赤にして首を振った。
「でもしたいでしょー?」
小喬がからかう様に訊ねると、は真っ赤な顔で俯いてしまった。
見兼ねた3人が、周泰と共に部屋へ入る。
「そのくらいに……な?」
孫権が小喬を諌める。
「」
周泰が事の外優しく声をかけ、の頭を撫でる。
は嬉しそうに顔をあげ、眼を細めて周泰に撫でられている。
微笑ましい2人の様子に、皆が溜息を吐く。
「周将軍、殿をお借りしてしまいすみませんでした」
早く二人きりになりただろうと、大喬が気を使う。
「……いえ……」
周泰は少し赤い顔で大喬に一礼し、を抱き上げると部屋から出た。
は、周泰の肩越しに5人にバイバイと手を振った。
子供じみた仕草が、美しい容姿とアンバランスで可愛かった。
5人も釣られて手を振ると、は嬉しそうに微笑んだ。
「?」
それに気が付いた周泰が、不思議そうにを見た。
は嬉しそうに微笑むと、周泰の片眼に口付けた。
周泰は困った様に笑うと、の頭を撫でた。
は嬉しそうに周泰に擦り寄った。
それを見ていた5人は、唯呆然と2人を眺めていた。
「幼平って結構大胆だよな……」
孫策の言葉に、誰もが大きく頷いた。
君になら何をされれても愛しいだけ。
この腕の中で眠る小さな姫君。
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どうも進展の少ない、というか進展はしているが情報の少ない2人。兎に角周泰が甘やかしているという事しか解りませんね。
皆さんそろそろ孫策達には黙ってもらいたいと思うので、次回は頑張って周泰の睦言でも書けたら良いなぁ…。ヘタレばっかですみません。
2003.11.19 viax