名前変換無のSS



典韋   孫堅   司馬懿   徐庶













 

此の儘、ずっとこうしていたいと願う。
彼女の視界に、自分以外入らなければ良いと願う傲慢さ。
彼女の小さな手足が、どうしようもなく愛しくて堪らない。
「……好きだ」
感極まって瞼に口付ける。
小さな身体が擽ったそうに身を捩った。
「好きだ」
もう一度囁くと、寝顔が笑った様な気がした。

争いの無い世が出来たならば、後はもうずっと彼方の傍に居たい。
悪来の夢。



2004.04.14 viax








 


振り返った男は、桜が良く似合った。
咲き誇る桜ではなく、散りゆく桜。

男の隙の無い、しかし優しげな眼差しで見詰められる。
乱れた男の前髪が、情景を思い出せた。
「……文台様」
思わず掠れた声で名を呼ぶ。
男は口角を上げて笑った。歴戦の将の笑い方だった。
突如間合いを詰め、男が近寄った。その儘抱き竦められる。
「可愛い奴だ」
笑いを含んだ低い声が、脳内を支配する。

男の名は孫堅。
何れ英雄の名を大陸に轟かせるだろう、女の恋人。



2004.04.14 viax








 


意地の悪い男。
そんな男が好きだという女。

「何だ。締まりのない顔をするな」
男は不機嫌そうに言ったが、女は微笑んでいた。
「……何だ」
男は女が好きだった。思いを伝えるなどと言う器用な真似を出来るはずもなく、だが女に焦がれていた。

女の手が男の頬に触れた。
「司馬軍師に笑って頂けたら死も厭いません」
そう言うと政務室から足早に去っていた。
残された男は、その言葉が指し示す意味を必死に頭から振り払おうとしていた。

女が老いても、司馬懿の寵愛を失う事はなかった。



2004.04.19 viax








 

「綺麗な歌声でした」
そう微笑まれては気恥ずかしかったが、女はもう一度同じ事を囁いた。
「その綺麗な歌声、聞かせて下さいませ」
寝所の睦言にしても嫌に真面目な声。
「時々口ずさんでいるので我慢しろ」
徐庶は恥ずかしそうに言ったが、女の細い腕は徐庶の身体に回されたままだった。
「歌って下さいませ……」
懇願されては断れなかった。明日は樊城の曹仁を攻める。女は其れを心配しているのだと思った。
「此が今生という訳でもあるまいし……」
そう言いながらも歌った。女の髪を撫でながら、女が眠るまで。

凱旋の席で楽しそうに大声で歌ったのは笑い話。



2004.04.30 viax