曹操や夏侯惇達武官は未だ飲んだくれているが、文官達は早々に引き上げたようだ。
ふと腕に寄り掛かる人が居る。
眼をやればが盃を傾けていた。
典韋は驚いて身動きできない。
― 夢中 / 後編 ―
「殿?」
何とか声を絞り出す。
「はい」
落ち着いた低い声。
「酔っておられるだろう?」
心臓が早鐘の様に打つ。
「そうかもしれません」
からは乳香の香がする。
典韋は頭がクラクラしてきた。
長い間恋焦がれていた人が、酒気帯びた所為とは言え自分の腕に凭れていると言う事実。
盃を持つ手はひどく小さく、自分の手の半分もあるのかどうか。
其の手に触れたいと逸る心を必至に諌める。
「典韋様……」
に呼ばれ身体がびくっとなる。
「典韋様、孟徳様達は飲んだくれてますねぇ……」
確かに曹操たちは酷く酔っていた。徐晃など早々に酔いつぶれたのか床で寝ている。
「み……皆酒好きだからなぁ……」
に話し掛けられたのは殆ど初めてで、声が上ずる。
「典韋様、少し風に当りませんか?」
がゆっくり頭を擡げ、盃を卓上に置く。
少し呑みすぎたのか目元には朱が指している。
通で何時もより饒舌な筈だ。
典韋は酔っ払っているからだ思いながらも、余りに甘美な誘いに頷いた。
外は心地良い気温だった。
月明かりの下のに思わず典韋が見惚れていると、の指が典韋指に絡んだ。
「殿っ?」
思わず声を上げる。
「典韋様……」
が腕を引っ張るので思わず屈むと、口付けられた。
「っ……」
啄ばむ様に唇を甘噛みされる。
頭が朦朧としてくる。何だか良く解らない侭細い身体を抱き締める。
舌を絡められ、自分も呼応すように絡める。
唾液の混ざり合う音だけが耳に入る。
「殿っ……酔っておられる……」
典韋の唇にの細い指が当てられる。
「酔っておりませんわ」
は真面目な顔で言った。
「ずっとお慕い申し上げておりました」
その侭典韋の身体に腕が廻される。
到底回りきらぬ其の腕に、典韋は愛おしさが込み上げた。
「わしも……わしもずっと殿を……」
の身体に手を廻せば、片腕で充分なほどの小ささ。
それがまた愛しさを募らせる。
抱き締めた華奢な少女が、典韋の弱み。
どんな我儘も彼女の成すが侭。
悪来の異名も形無しに、どんな醜態を曝す事になるやら。
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小柄な美人に翻弄される典韋…個人的にはかなり萌えますが。
2003.11.09 viax