女という生き物は饒舌だと思っていたが、彼女は全く持って寡黙だった。

けれど彼女の眼差しは多弁だった。

彼女と眼が合うと、それだけで顔が赤くなった。

早く二人きりになりたかった。

二人きりになって見詰めあいたかった。

糖蜜

典韋はに対して兎角甘かった。

夏侯惇達と城下へ出かけてもへの土産を忘れなかったし、強請られればどんな我儘も聞いた。

もっともは我儘など言う事もなく、故に典韋が勝手に甘やかすだけの日々だった。

の私室の前、典韋は扉を叩こうとしていた。

しかし気恥ずかしい。

城内に宛がわれたの私室に、夜毎典韋は出向いていたが、その扉を叩けた事は1度として無かった。

今日もそうだ。

扉の前の気配に気付いたが、ゆっくり扉を開け顔を覘かせる。

そして典韋の腕を優しく掴み、部屋へと誘い込んだ。

まるで其れが合図の様に、への愛情が箍を外す。

縺れ込む様に床に座り込み、唇を貪る様に何度も口付ける。

典韋の大きな手が、の頭を優しく掴んで離さない。

の手が典韋の首筋に力なく絡む。

やっと唇を離すと互いの唾液が唇を伝う。

典韋の膝の上、それでも小さいを典韋が見下ろす。

その侭見詰め合って目が離せない。

「典韋様……」

少し擦れた声で呼ばれる。

その侭もう1度顔を近づける。

が呼応する様に眼を瞑る。長い睫が白い肌に影を落とす。

瞼に口付けると、擽ったそうに微かに笑うのが解る。

その侭額に、頬に、余す事無く口付ける。

唇を指でなぞると、熱い舌が指を舐る。

挑発されている様な感覚に、身体が否応無しに反応する。

……駄目だ……」

優しく頭を撫でながら、指を引き抜く。

唾液が唇と繋がったままで、その卑猥さに息を飲む。

少し乱れた着物に、やけに紅い唇に、自分を見つめる眼差しに、腕を掴む細い指に、全てに欲情する。

……」

もう何度目か解らない様な口付けをする。

の手が典韋の着物を握り締める。その手の熱さがまるで伝わってくる様で。

この小さな身体を離せないのは何故なのか。

息の乱れも直せぬまま、朧な意識で、唯愛情を募らせる。

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2003.11.13 viax