女の手がゆっくりと男に伸びた。
男は笑いながら女を引き寄せた。
女は男の腕の中で暫くじゃれていたが、やがて男の髯に接吻を始めた。
男はその可愛らしい姿を優しく見つめていたが、我慢が効かなくなったのか女の顎を持ち上げ接吻した。
女は男の接吻を受け止めながら、ゆっくり床へと倒れて重なり合った。
美髯公
男の唇が、女の唇を離れて首筋を伝おうとした時、大きな音と共に扉が開き3人の男が呆然と2人を見詰めた。
「…兄者…これは…その…」
扉を勢い良く開けた男 ― 張飛 ― は、敬愛する義兄関羽の逢瀬を邪魔したらしい事に蒼白になった。
「ん…うむ…」
痴態を見られた関羽は、直ぐ様起きあがり少し赤い顔で女の着物乱れを直してやっていた。
「張将軍?」
女は関羽に尋ねた。
「ああ、義弟の翼徳だ。」
関羽は女の髪を梳きながら、弟に名乗るよう促した。
「あ…ああ、張翼徳だ。」
張飛は戸惑いながらも女に挨拶をした。
「初めまして。私はと申します。」
女は張飛達に微笑んだ。
それによって女が存外若い事に3人は気がついた。
ちなみに酒盛りをしようと関羽の部屋を訪れたのは、張飛・趙雲・馬超である。
「私、帰るわ。」
は立ち上がり、関羽の髯を手にとって接吻した。
「帰るのか?」
関羽は予想外の言葉に戸惑っていた。
其れは張飛達にも同じ事だった。あの関羽が女の前で弱っている。
「私、飲めないもの。」
は笑いながら関羽の髪を撫でた。
「…よろしければ同席なさいませんか?」
趙雲は、関羽達の邪魔をした様で気が引けていたのに、更に返す様な真似をしては申し訳ないと思いと思った。
趙雲の申し出には少し考えている様だったが、関羽が「そうすれば良い」と言ったので頷いた。
は、寡黙な女だったが口数の少なさを余り感じさせなかった。
「兄者に恋人がいるなんて知らなかったぜ。」
張飛は改めて二人を見つめた。
大柄な関羽と比べてしまえば大抵の女は小さいものだが、は輪をかけて小さく見えた。
関羽の膝の上で笑いっているは、張飛に何とも不思議な感覚を与えた。
「そろそろ言わねばならんと思っていたが…気恥ずかしくてな。」
関羽はの髪を撫でながら笑った。
「殿はお幾つだ? 普段は何をしていらっしゃるのだ?」
馬超が矢継ぎ早に訪ねる。
「21で御座います。普段は…まぁ絵師の真似事を。」
「真似事? 怪しいな。」
馬超は酒の所為か執拗に食い下がった。
「孟起殿。」
関羽が窘める様に声を掛けたが、は笑って話した。
「独学で御座いますし、所詮は暇な娘の事で御座いますから。」
の母は、先の皇帝の後宮を下がった後、蜀領内の裕福な商家の後妻に入りを生んだのだという。
しかし先妻の娘と大分見栄えが違う事から疎まれ、幼い頃から私塾に通う為に生家を出て親戚の家の厄介になり、此度の劉備凱旋の際の女官応募に応じて登城した所関羽と恋仲になったという事らしい。
「私は女官で構わないのですが、雲長様が気になさるので絵師として雲長様私邸の壁画を描いております。」
「今は雲長殿の屋敷にいらっしゃるのか?」
「はい。ご厄介になっております。」
馬超は、関羽に何か言いたげな悪戯な目線を寄越した。
「孟起殿、私の可愛いを余り苛めないでくれよ。」
関羽はそう言うと、愛しそうにを抱きしめた。
「殿は雲長殿の何処がお好きなのですか?」
趙雲が尋ねると、は暫く考え、直ぐ笑顔になり関羽の髭を撫でた。
「髭ですわ。」
「髭?」
趙雲が拍子抜けした様に言うと、は美しい笑顔を浮かべて
「後は内緒ですわ。」
と笑った。
3人はやれやれと微笑ましい二人を見詰めた。
美髯公・関羽。
愛する乙女にも愛でられ、益々満足げに美しい髭を蓄える。
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どうも私はお題の使い方を間違えている気がしてならない。私としては「美髯公・関羽」の話を書いたつもりなのですが。
関羽夢は、お題が終わるまでは他は書かないつもりなので此を序章と思って頂けると嬉しいです。
ヒロインさんは関羽と14歳違いの21歳。小柄で華奢なお嬢様です。美人な小悪魔目指したいです(笑)。
関羽の夢を見たからという理由で始めた「関羽夢書きさんに15のお題」。変態の煩悩に此からもお付き合い頂けると非常に嬉しいです(笑)。
2003.12.06 viax