良く晴れた日のお願い。
多くを望んだりはしないから、僅かな願いだけ叶えて欲しい。
血の通うモノなど望まないから、温もりだけ与えて欲しい。
私を包む温かな手。
戦場で人を斬る、罪深き愛しい手。



   − 本日は晴天なり −



は雲一つ無い空を見上げると、庭先に古布を敷き、一斗缶に石膏を練り始めた。
、何をしているのだ?」
関羽は、顔を真っ赤にしながら必死で石膏を練る姿に不思議そうに尋ねた。
「雲長様、丁度良い所に…此方へ来て下さいませ」
関羽は不思議そうな顔をしながらに近付いた。
は、そう深くない木枠に石膏を流し込み、隅の方で硬さを確かめると関羽の腕を取った。
「雲長様、この石膏で手形を取らせて下さいませ」
「ああ…」
関羽は訳の解らぬ儘手を差し出し、生温い石膏の中に手を入れた。
「暫くそうしていて下さい」
「一つくらいか?」
関羽は生温い石膏の感触に戸惑いながら尋ねた。安請け合いしてしまったが、跪いた儘の一つは長い。しかし、は笑いながら石膏の硬さを確かめ、首を振った。
「いえ、もう結構で御座います」
ゆっくり手を持ち上げると、関羽の手の形に石膏がへこんでいた。
「この様なモノどうするのだ?」
「一日干してきちんと固まりましたら、また別の石膏を流します」
「拙者の手形なぞどうするのだ?」
「雲長様がお側にいらっしゃらなくとも、その温もりを感じる事が出来ます」
関羽は其の言葉に目を細めると、を抱き締めた。
「拙者は死なぬ」
「解っております。此は御守りの様なモノで御座います」
 −私には子が無いから、他の奥方様の様に写し身の様に可愛がって己を慰めたり出来ないのです。
、拙者は…養子を取ろうと思う」
関羽の突然の言葉には返事を迷った。
「そなたの子が欲しくないという事ではない。曹公の下から帰る際世話になった関定殿の子が優秀でな…埋もれさせておくには惜しいのだ」
は暫く関羽を見詰めていたが、やがて微笑んだ。
「名は何と仰いますか?」
「…関平だ」
関羽は抱き締める力を強めた。
 −その子は彼方の支えになれるのですね。ならば私も恋人として彼方と彼方の息子を支えたい。
は何も言わず、ただ幸せそうに目を閉じた。



晴れ渡る空。何処までも続く青。
例え離れていても、同じ大地に私たちは立っている。
この腕の温もりさえ忘れなければ、私達は片時も離れる事無く一緒なのだ。








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穏やかな恋愛こそ、恋愛の真髄なのだと。
BGM : T.M.Revolution [SEVENTH HEAVEN]