しかっりと、見届けるのだ。
猛き者達の死に際を、弱き者達の声にも出せぬ嘆きを。
鎮魂歌も通り過ぎる虚無の心を抱いた者達を、虚ろな眼差しで眺める子供が居る世など間違っていると信じて。
しっかりと、振り上げるのだ。
亡者の想いと血が染み込んだ青龍堰月刀を。



   − 還るところ −



戦場で退治した多くの敵兵は、関羽を見れば逃げ出す。寄進の如き関羽の迫力に気押されるのだ。
だが、その兵は引かず、関羽を睨み付けた。
「彼方が彼の関羽でも怖くなんて無い」
少年と若者の間の様な兵は、そう言うと細い剣を構えた。
「もう誰も残されていない。だから、死なんてどうでも良い!」
真っ直ぐな太刀筋は迷いが無く、だが弱かった。
振り下ろされた堰月刀は、兵の身体を裂き、返り血を関羽に浴びせた。兵は何か呟き、事切れた。其れは母の名か、妹の名か、或いは愛する者の名だったのか。関羽は兵を壁際に座らせ、暫し黙祷した。明らかに戦果の決まった戦でも、死ぬ為に関羽に挑む者が居る。死を見据えた者だけが、怯える事無く関羽に斬りかかる。

其の太刀筋に迷いは無く、だが弱い。



誰もが皆、還る処を持っている。其れが此岸の者だけが、次の戦まで暫しの安息を得る事が出来るのだ。
関羽は重たげに瞼を持ち上げた。
 −拙者の帰る場所は未だ此の此岸に有る。



が、帰りを待っている。

関羽の赤兎が帰陣する為加速した。






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此の世への執着が、生きる為の力になる。

2004.04.15 viax
BGM : Mr.children [シフクノオト]